第1章 6.目覚めると見知った空間

目を覚ますと見たことのある空間にいた。


「あ、タクヤさん!起きましたかー」


目の前にはカルアがいた。え?俺、また死んだの?


「いえいえ、現実ではまだ眠っているところですよ。ほら、私の話し相手になってもらう契約もしたじゃないですか!」


「異世界で初戦を乗り越えたタクヤさんとお話ししたくて、お呼びしちゃいました。」


お呼びしちゃいました。って、相変わらずやることのスケールが違うな。


「これでも女神ですからね!エッヘン!」


心なしかカルアのテンションが前回よりも高い気がする。


「タクヤさんと契約してからやりたいことがたくさんあって、とても楽しいんです!だから、ちょっと気分が良いんです!」


やりたいこと……、俺が転生した後に楽しみでも見つけたのだろうか?


「あ、もちろん、タクヤさんとお会いできたことも嬉しいですよ?」


取ってつけたようにあざといことを言うな。


「あれー?もしかして私にドキドキしてます?ときめいちゃってます?」


カルアは俺をからかってとても楽しそうだ。


「というか、さっきから心の中を読んで会話をするな。」


「えー、仕方ないじゃないですか。自然に読めちゃうんですから。」


「自然に読めちゃうものなのか?」


「ですです。まぁ、読まないようにすることもできますが……」


読まないようにもできるのであれば、故意に読んでいるのと変わらないじゃないか。


「こっちのほうがスムーズだと思いません?」


スムーズって、そういう問題なのだろうか?


「そういう問題です!」


「はぁ……。」


俺は何を言っても無駄だろうと、別な話題に切り替える。


「それで、わざわざここまで連れてきたのは、会話することが目的なのか?」


「もちろん、タクヤさんとお話するのが目的ですよ!」


「しかし、転生して早々に可愛い女の子を助けちゃうとか、タクヤさんも隅に置けませんねー。」


「それをカルアが言うのか……」


転生先を選び、あの場所、あの時間に転生させたのはカルアだ。クエストでアムド村に行くことが必然だった俺には、すべてがカルアの予定調和であるように思えて仕方がない。


「まぁ、その考えも間違いではないです。あの場所で彼女がゴブリンに襲われる運命なのはわかっていましたから。」


「でも、それを助けるかどうかの選択をしたのはタクヤさん自身ですよ!」


「アリアに背中を押されてやっとだったけどな……」


「いいんですよ。最後は動けた、それがすべてです!」


「そう言えってもらえると救われるよ。」


最終的に助けることが出来たものの、すぐに動くことが出来なかった。

そのことに罪悪感を覚えていた俺にとって、今の言葉には救われた気持ちになる。


「もしかしてタクヤさんって……」


「な、なんだよ。」


「チョロインですか?」


「せっかくのいい話の流れが台無しだよ……」


「あはは、冗談ですよー」


カルアは俺との会話を心底楽しそうにしている。


人の運命を見続けるだけだったカルアにとって、人と話すこと自体が新鮮なのかもしれない。


「そうなんですよ。同じ女神とは数万年に1度くらい話す機会もあるんですけどねー。」


「女神以外と話す機会なんて……そうですねー、信者に崇められて神託を授けるときくらいでしょうか?」


神託を授けるときって、それは会話じゃないだろう……。


「え?だって、人に話しかけられて、受け答えしてますよ?」


相変わらず、感覚がぶっ飛んでいると思う。


「ひどい!」


俺もそんな他愛のない話が楽しくて、思わず笑ってしまう。


「あ、そうだ。イベントを1つ乗り越えたので、セーブポイントも更新されていますよ。」


セーブポイント。そうか、もう一度ゴブリンと戦うのか勘弁したかったから、それは助かる。


「じゃあ、もしやり直すことになったとき目覚めるのは、ゴブリンに勝った直後ってことか?」


「いえ、おそらくはもう少し先になると思います。タクヤさんが考えているよりもオートセーブポイント、いわゆる人生における節目というのは多いんですよ。」


目覚めた後にもセーブポイントが多くあるってことか。


セーブポイントという単語が、どうしてもゲームに思えてしまう。


人生における節目というのもなかなか判断が難しそうだ。


「運命が見える私からするとここだ!ってわかりやすいんですけどねー。まぁ、気にしてもどうにかできるものじゃないですから。」


「しかし、セーブポイントが更新されたってことは、クエストも継続していると考えていいのか?」


もしかすると、ゴブリンから救った女の子がリサだったのではないかと思ったのだ。


クエストを授けられた転生の直後に助けることになったのだから、そのくらいの偶然があったほうが自然であるように感じる。


「クエストは継続していますよ。残念ながら、リサさんはまだ救われていませんから。」


そうか、リサはあの子とは別の子だったのか……。


そろそろ、俺の身体が消えかかってきている。もう身体のほうが起きるのだろう。


「もう時間のようですね。」


「お話に付き合っていただいてありがとうございました。またお呼びさせていただきます。」


「ああ、俺も楽しかったよ。またな。」


転生して1日もたっていないが、カルアと別れを告げて、俺は再び異世界に戻っていく。





****あとがき****

読んでいただいてありがとうございます。


少しでも続きが気になると思っていただけたら、作品の応援♡や評価☆をいただけると、作者がとても喜びます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る