深き神秘の森~ルーブルス~②
新しい死体には毒がある。その言葉あるようにして目の前に現れたのは二人の人間の死体だった。折りたたむように積み重なっている。まるで交差するようにしておかれ、その上に小さな蕾がふたつなっていた。
「リコ『双毒(ふたどく)』に気を付けろ」
『双毒』とは、ふたつの死体から栄養分を奪い成長する双子の蕾のことだ。奴らは貪欲で餌となる死体を求めてなるべく二つ得られるようにして罠を張る。美しい青色と緑色に発光する花を咲かせ、獲物を待ち受ける。花に触れようとした人、花に近づいた人を容赦なく花粉を噴射させ、呼吸器官に吸い込まれると操るかのように自ら殺させる。そんな毒を選んだのは二人の男女だった。年齢からして二十代ほどだ。顔がとろけてしまっており、すでに『双毒』が栄養が濃い頭部を吸った後だった。
「治せるの、これ?」
「無理だ。『双毒』にかかった人は治せない。たとえ初期段階であっても一度でも体内に入れたら最後、生きて帰れない」
二人には悪いが、この毒は蘇生師では治せない。花に操られたら最後、どんな薬か魔法があっても治ることはない。
「この二人には悪いが、先を急ごう」
花を避けるように樹木を三つ挟む形で通り抜ける。リコにあの花の説明をしながら通り過ぎる。
「あの花は蕾の段階で非常に危険だ。蕾は耳と同じ機能をもっている。足音や呼吸の音、瞬きの音、歯を噛む音、服が揺れる音、その音すべてが奴は聞き取ることができる。つまり、風向きにも注意しなくちゃいけない。もし、あの花がすぐ近くにあったら全力で逃げろ。もし、蕾が開き、花になったら全力で口や鼻を塞いで逃げろ。奴らは火炎放射器のように花粉をまき散らせ、相手の呼吸器に侵入してくる。もし、吸ってしまったら水の中に押し込み、気絶するまで押さえつけることだ。それでも狂ったかのように暴れたら、そいつを殺せ。『双毒』は蕾を付けるまでは何もできないのだから」
リコは感心していた。
「まるで博士みたい」
「改まってどうしたんだい」
「今の解説、きっと他の人に教えたら、みんな驚くでしょうね。だって、ここまで詳しい人がパーティにいたら、きっとどんな罠に遭遇しても回避できちゃうもんね」
「かもしれないね」
リコの頭をなでながらぼくは言った。
「もし他の人もこんな知識を持っていたら、いまだに生きていたのかもしれないね」
皮肉っぽく聞こえたのかもしれない。けど、それは正直の話だ。あの二人はこの森に入る先週に図書館であっている。二人はこの森に存在する魔物や植物のことを調べていた。あの花のことも調べていたから、ぼくはあの花を注意するよう伝えたのだが、二人は「大丈夫ですよ。ぼくらはそんなヘマをするような輩じゃないんで」と男が言い「そうですね。青と緑色に発光しているんでしょ。なら、遠くても見えるし、大丈夫ですよ」と女がいっていた。ぼくはそうじゃないといおうとしたが、最後まで聞いてもらえなかった。図書館にある図鑑は危険性である部分しか記載されていない。ましてやあの花についてはまだ解明されていない部分が多く、蕾になるまでの危険性まではまだ書かれてもいないのだ。仕方がない発行したのは十五年も前のものだから。新しく発行するのは来年だから、あの本では知識不足になりがちだ。
あの花を通り過ぎある程度離れた後、リコは祈りを捧げる。
「リコ?」
「あの二人が来世でも仲慎ましく暮らせますように」
リコはにっこりとほほ笑んだ。
ぼくは突き動かされるように「ああ、そうだな」とリコの隣で祈りをささげるのであった。
蘇生士 黒白 黎 @KurosihiroRei
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