EP2「キスってきっと甘いのだろう」
私の名前は
思春期真っ貞中の女子中学生です。
急に変なことを言いますが、私には好きな男の子がいます。
きゃー、恥ずかしい!
本当に人を好きになったのが小学生の1年生ぶりで右も左も全く分かりませんが、彼の事が好きになってしまったんです。
かっこよくて、優しくて、どんな時も紳士でいてくれる彼の事が好きになってしまったんです。
そんな彼の名前は——萩原純也君。
とにかく目つきの悪い男の子です。
部活は帰宅部で、見た目はパッとしない男の子ですが雰囲気が凄くいいんです。見つめられると心がキュッと締まって、思わず見つめ返しちゃうし、不意に見せる笑顔はとにかく可愛くて、それでも――誰かが困っていたら絶対に助けてくれるところが本当に好きなんです。
出会いは席替えの時、彼はよくそう言っていますが実際は去年から。私と彼が同じ委員会に所属していて、クラスも隣同士で机の位置も隣。
最初こそパッとしなくて、ただの目つきが悪い男の子なんだな——と思っていましたが出会いは唐突でした。
私がたまたま落としたハンカチを気づいた彼が優しく拾ってくれて、そこから彼の事を気にするようになりました。
ちょろいと思われるかもしれません。
でも、本当にそんな些細なことがきっかけだったんです。
手と手が触れて、目が合って、そこで優しく落とすなよと言われて、背中に電撃が走ったかのようでした。
でも、知っています。
きっと、これが一時の気の迷いで、何年も経てばこの始まりを忘れて新しい私は新しく恋をする――そんな風に回っていることは分かっています。
でも、それでも、今の私は彼と一緒に居たい。
優しくて頑張り屋さんで、包容力があって——カッコいい。
そんな彼の事が世界で一番好きになったんです。
「それでは、委員会を終ります。来月の定例会では3年生へ向けた花束の贈呈に関しての意見を取りたいと思うので意見があればまとめてきてください」
委員会が終わり、私は大急ぎで席を立ちました。
「あ、結城さんって——そっか。うん、頑張ってきてね」
「リエちゃん! うん、頑張る!」
すると、隣のクラスのりえちゃんからエールを貰って、私は待っているであろう玄関へ走り出しました。
理由は言わずとも分かると思いますが、今日は純くんと一緒に家に帰る約束をしているからです。今まで学校で話すことがあっても、一緒に帰ることはしたことがありませんでした。一緒にご飯を食べたり、昼休みに読書するために図書室に行ったり、なんか魔が差して先生には内緒で屋上に忍び込んでみたり、一緒に体育館でバドミントンをしてみたり。
そんなことをしていても、帰ったことはなくて、誘われた昨日の朝方はそれはもう鳥肌が立ちそうなくらい嬉しかったです。
そして、理由はそれだけじゃありません。
今日、その日付は12月25日。
つまり、クリスマスなんです。
明日からはもう冬休みで、2学期最後の日をクリスマスという形で一緒に迎えることができる――わたしはもう、それだけで嬉しくて、今も心臓がドキドキしています。
クリスマスの日の男女。
少女漫画でもそうですが絶対に何かがあります。
その何かを私は期待しているんです。
彼があんなにも顔を赤くして、鋭くない目で何かを誘ってきたのは初めてでした。
震える声を絞り出す姿がとても印象的で、それだけ頑張っているんだなと私は感じました。
私は舞い上がっていたかもしれません。
いや、舞い上がっていました。
だって、あの純君が私をクリスマスなんかに誘ってくれたから。
想像しました。
告白なんかされたりして、手を繋いだりして、別れ際にはキスをして……そんなドラマみたいな話が待っているのかなってドキドキで夜も眠れませんでした。
怖さと不安と、好奇心と緊張と楽しみが混ざってよく分かりません。
でも、今日はそんな弱い自分も払拭して——初めてを経験したいんです。
私の初めてを彼に奪ってほしい。
私の初めての味はどんな味なんだろう?
キスってどんな味がするんだろう? 藍坂イツキ(ふぁなお) @fanao44131406
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます