拾「己が命の使い方」
天地が鳴動している。
上下左右も分からぬまま、千代子は夜空の中を落下している。
(――
「――――子!」
先ほどの
あれほどの大質量に押しつぶされては、さしもの皆無と言えども――。
「――チョコ子!!」
気が付けば、数メートル先に
赤い瞳をヱ―テルでさらに赤く輝かせながら、こちらを見ている。
「皆無は生きておる!」
その言葉を聞いた途端、千代子の脳が目まぐるしく活動を始める。
「そなたの助けが必要じゃ! チョコ子、助けて
見れば
状況は、こちらよりもなお悪いと言えるだろう――何しろ、彼女には両腕がないのだから。
「助けるったって――」
千代子にはもう、余力がない。
体内ヱ―テルは使い果たし、それどころか寿命の前借りの秘術にすら手を出してしまった。
正直、手を伸ばすのも
寿命を使い果たしたこの身には、かすんだ視界の先に見える手には、無数の皺が刻まれている。
だが、
(
ならば、助けねばならぬ。
自分はすでに、皆無のために命を捨てると決めたのだから。
ちょうど目の前を
(――【韋駄天の下駄】ッ!!)
千代子は驚嘆すべき集中力で以て、今まで一度も成功させたことのなかった脳内高速省略詠唱による重力操作密教術を試みる。
果たして体の向きがくるりと変わり、千代子は塀の上に降り立つ。
一歩、
二歩、
三歩と塀の上を駆け、空を漂う
「あはァッ! でかした!」
事ここに至ってもなお笑っていられる少女の胆力に、千代子は恐れ入る。
「チョコ子や、口をお開け」
「え――むぐっ!?」
問答無用の口付け。
どろりとした甘いヱ―テルが、千代子の
失われたヱ―テルが回復していく。
「を? ををを? まだ入るか? よしよし、たっぷり飲ませてやろう」
さらに、口付け。
「ぷはぁっ……よし。チョコ子や、皆無を助けに行くぞ。じゃがまずは――あはァッ」
「着地せねばならぬのぅ!」
「【
千代子の詠唱とともに、眼下が
見れば、地面がぐんぐんと近づいてきている。
このままでは墜落死してしまう!
「【五大の風たるヴァーユ・
地面が、もう、目の前に。
「ええい、【風布団】ッ!!」
中途半端な詠唱だったが、真言密教術は確かに発現した。
風の布団が地面と千代子たちの間に生み出され、千代子と
「さて、皆無じゃが」
死にかけて早々、数秒の休憩もなく次の行動に移る
彼女は驚嘆すべき脚力で
それも、片足で。
そう、姫君は右足を負傷しているのである。
「おお、おお、やっておるやっておる。チョコ子もおいで」
【韋駄天の下駄】を
先ほど姫からもらったヱ―テルがよほど大量だったのか、倦怠感が薄れ、力がやや戻ってきている。
「見えるかの?」
「【新月の夜・夜空を駆けるラクシュミーの下僕・オン・マカ・シュリエイ・ソワカ――梟ノ夜目】。あ、あれは――」
「百獣公爵
夜目が利くようになった視界に映るのは、『城』と見まごうばかりの巨大な体を持った巨人。
その巨人が、ひどく緩慢な動きで歩き、そして拳を振るっている。
(――いや、緩慢なんかじゃない)
巨人の拳が家屋の一つを押しつぶし、膨大な量の瓦礫を巻き上げる様子を見て、千代子は考えを改める。
巨人が大き過ぎて、遠近感が狂ってしまって、素早く見えないのだ。
千代子は横浜港で戦艦や巡洋艦を見たことがあるが、あれらが艦首を天に向けて立ち上がったら、ちょうどあの巨人くらいの姿になるのではないかと想像する。
「
「え?」
そう、巨人は何も、目的もなく暴れ回っているのではない。
千代子は目を凝らす。
巨人の周りを飛び回る、小さな人影がある。
「皆無くん!? た、助けに行かなくちゃ!」
「いや、そうは言ってもじゃなァ」
だが、姫は首をひねるばかり。
「助けに行けると思うか?」
「え、あ…………」
拳の一振りで家を一つ叩き潰す巨人。
そんな巨人を相手に立ち回っている
「じゃあ、どうすれば――」
「あやつらが距離を取ったのを見計らって、素早く皆無に近づく。チョコ子、結界の準備をせよ」
「いやいやいやいや、あんなバケモノの攻撃、私なんかの結界で防げるわけがないじゃないですか!」
そのとき、皆無が
跳ね飛ばされる。
「あはァッ、ちょうどこっちに飛んできおった!」
砲弾のような勢いで飛んできた皆無を腕のない身で受け止めようとするが、当然ながら当然の如く受け止められるわけもなく、二人してもみくちゃになって飛ばされていく。
「ちょっ、姫様!? 皆無くん!!」
千代子は慌てて屋根伝いに二人を追い、跳び上がって二人を抱きとめる。
「うむ。助かったぞチョコ子」
降り立ったのは、小さな公園。
千代子は皆無を仰向けに寝かせる。
皆無は見るも無残な有り様だった。
手足は折れてひしゃげて肉が飛び散り、全身血塗れである。
皆無は目を開いて
「助かりついでに、一分ほど稼いで
「え!?」
見れば巨人が、百獣公爵
「無理です無理です!!」
「いいからやれ。やらねば死ぬぞ?」
にたり、と微笑む
「くっ――」
千代子は懐から十字架
「【
三人を取り囲むような大きな球形の結界を発生させる。
直後に巨人が来た。
「オォォォオオォォオォォォオオォォオオォオォオオオォォォオオォォオオォオォオオオォォォオオォォオオォオオオオオオオオ――ッ!!」
地響きのような雄叫びとともに、目も
――死んだ、と思った。
が、
「チョコ子や、その、魔王のなりそこないのヱ―テル総量がどの程度か、分かるか?」
「…………え?」
生きていた。
千代子も、皆無も、
見上げながらゆっくりと腹式呼吸をしている。
「――五千万単位じゃァ」
「五千万ッ!?」
「生贄が足らんかったのじゃろうな。不完全な形で顕現しておる」
……千代子は空恐ろしくなる。
巨人が再度、拳を振り下ろしてきた。
結界にひびが入る。
「シィィ――…そう言えばそなたには、
「
「――五億じゃ」
「ごっ!?」
「さぁ、皆無。可愛い我が子や、たっぷりとお飲み」
皆無の
皆無の口の端から零れ出てきた唾液が、直視できないほどの光を帯びている。
「ゴァアァアアアアアァアアアアアッ!!」
皆無が飛び起きる。
あまりにも多すぎるヱ―テルが苦しいのか、皆無が胸を掻きむしる。
――そう、いつの間にか、あれほど
「すまぬな、皆無。受け入れて
苦しみながらも、皆無はそれを受け入れる。
入りきらないヱ―テルが背中から溢れ出し、第二、第三の翼となるが、それもやがては皆無の体内に戻っていく。
「あはァッ。皆無よ、やはりそなたと
皆無と自身の間に架かる光の橋を舐め取る
千代子の目には、皆無の姿が揺らいて見える。
あまりにも高密度なヱ―テルが陽炎を発しているのだ。
「死ぬまで――いや、死んでもこき使ってやるから、感謝せよ。さぁ
そのとき、巨人の三度目の拳が来た。
ガラスが砕けるような音とともに、【
「ウガァアアァアアァァアアアアアァァアアアアアアッ!!」
皆無が、巨人の拳に向かって吠えた。
たったそれだけのことで、巨人の拳が弾け飛ぶ!
拳を成していた動物霊たちが散り散りになって宙に溶けていく。
皆無が
「ウガァアアッ!!」
皆無が
濃密すぎるヱ―テルが衝撃波を発し、
千代子は慌てて
巨人が地に伏した。
天地が引っくり返るかと思われるほどの地揺れと、空を覆い尽くすほどの砂ぼこり。
「【オン・アラハシャノウ――
吹き飛ばされてきた家屋の壁などを足場に空を舞いながら、千代子はヱ―テルを纏った瞳で皆無の姿を探す。
果たして皆無は、巨人の無事な方の拳――その指の一本を抱え込んだところであった。
皆無がそのまま、駆け出す。
「あ、あはは……そんな
まるで冗談のような光景であった。
身長百数十サンチしかない皆無が、全長百メートルを超すような巨人を、振り回し始めたからだ。
皆無が巨人を何度も何度も振り回し、遠心力が最高潮に達したところで、天へと放り上げた。
「
この光景には、何やら見覚えがあった。
そう、二十四時間ほど前、
果たして、巨人・
深紅の魔法陣。
「行け、皆無くん!!」
千代子は興奮する。
距離があるため、皆無の声は届いてこない。
が、きっと彼はいま、こう唱えているはずだ。
「「――――【
空が炎で埋め尽くされた。
――後には何も、残らない。
❖ ❖ ❖ ❖
「皆無、よくやった!」
千代子は
「ウガァアアァアアアアッ!!」
「あぁ、あぁ、
飛び掛かろうとしてきた皆無に片足で自ら近づき、豊満な乳房で
先ほど見せた身のこなしといい、たった今見せた、さりげなく皆無の勢いを殺してみせた動きといい、この姫は体術の類が相当にできるらしい。
「ほれ、可愛い我が子や。褒美の口付けを
相手が
明らかに理性を失っている状態であるが、
皆無が顎を上げる。
今度は、
何度も、何度も、何度も。
(吸い出しているんだわ……皆無くんの中から、姫のヱ―テルを)
皆無の体を覆い尽くしていた毛皮が、筋肉が白いヱ―テルの粒子となって宙に溶けていく。
翼と角も消えていった。
後には――
「あら」
千代子は思わず声を上げてしまう。
素っ裸の皆無が出てきたからだ。
皆無はその場に倒れ伏す。
千代子は慌てて、皆無を抱き起す。
気を失っている様子だが、呼吸も脈も問題なさそうである。
「皆無くん……」
安堵とともに、疲労が来た。
許嫁の裸体が目の前にあるはずなのに、少しも興奮しない。
――そうだ。
自分はもう、若さの全てを失ってしまったのだ。
今の自分には、鏡を見る勇気はない。
早晩、自分は『寿命』で死んでしまうことだろう。
「でも、良かった。皆無くんを守ることができて――」
「おお、そうじゃったそうじゃった」
千代子の感傷を、
「そなたにも苦労を掛けてしもぅたのう、チョコ子や」
苦労、などという言葉で表現できるような軽いものではない。
自分は何十年もの、いや、それ以上の人生を失ったのだ。
「予には、そなたの功績に報いる用意がある」
「な、何を――むぐっ!?」
再び、
ヱ―テルが流し込まれる。
今日の日中は、三千単位を注ぎ込まれただけで気絶した己であったはずなのに、何やらものすごい量が入ってきて、入ってきて、まだまだ入る。
「ぷはぁっ。よぅ入ったのぅ! 【
姫の魔術で、虚空から手鏡が出てきて、千代子の手に収まる。
「ヒッ――」
千代子には、己の顔を見る勇気がない。
「大丈夫じゃ。見てみよ」
「は、はい――――……ヱ? ヱヱヱヱヱッ!?」
千代子は、仰天する。
数十歳分は年を取っていると覚悟していたのに、皺の一本もなかったからだ。
「こ、【光明】!」
省略詠唱で小さな明かりを灯し、さらに詳しく検分する。
老けているどころか、むしろ若返っていた。
血色は良く、肌はつやつやもちもち、髪にもちょっと信じられないほどのツヤがある。
「ど、ど、ど、どういうことですか!?」
「
「というか、さきほど大量のヱ―テルを飲ませた時点で、寿命はほぼ回復しておったのじゃがな」
言われてみれば、姫のヱ―テルを受けてから、自分はいくつもの術式を立て続けに使っていた。
それも、省略詠唱や脳内詠唱という、ヱ―テル消耗の重い手段でだ。
威力もすごかった。【
「な、な、なん……ッ!? 私の絶望は何だったんですか!?」
「いや、『何』と言われてもじゃなァ。まァ良かったではないか。しかも今の追いヱ―テルで、常人よりも寿命が延びたくらいかも知れぬぞ」
「何てこと!」
「さてチョコ子や、命令じゃ。皆無に服を着せてやって
千代子の手の中に、皆無の着替え――
「え、着替えさせてもいただいても良いのですか!?」
てっきり、
ましてや今の皆無は、全裸なのである。
「何しろ予には腕がないからのぅ。それに、今日はそなたも頑張って
「で、で、では……じゅるり」
先ほどは『興奮しない』と思った皆無の裸身であるが、改めて見ていると、何やら胸の奥がざわざわしてくる千代子である。
さきほどの心境は、『年を取った』と思い込んでいたが
弟以外の異性のイチモツなど、無論見たことはない。
「こ、こ、これは……ッ!!」
皆無のイチモツをまじまじと見つめていると、
「――ぁ痛ッ!?」
「
「こ、ここここれは失礼を!」
千代子はすでに、
それに皆無は、まごうことなき
皆無が
「そういうことをするのなら、予も混ぜよ」
「は、はい! ――はぁ!?」
「ん……ぅ……」
そのとき、皆無が目を覚ました。
「お前ら、何を――」
皆無が千代子を見て、
「ひゃぁぁああぁああああ~~~~ッ!?!?!?」
❖ ❖ ❖ ❖
「うっうっうっ……僕もうお嫁に行けへん」
「ですから、私がもらって差し上げますよ!」
「チョ~コ~子~!?」
「ひぃっ、ごめんなさい、姫様!」
「……? 何やお前ら、いつの間にか仲良ぅなった?」
女三人寄れば姦しいとはよく言ったもので――うち一人は男であるが――千代子たちは談笑しながら異界の神戸を歩く。
「さぁてのぅ。それにしてもそなた、回復魔術も上手くなってきたのぅ」
そう、今や
「時間をかけて【
「いや、まぁ……」
本当は嬉しいのに、子供っぽい
道中、何度か丙・丁種
そうして千代子たちは、ケルベロスの使い魔が捕らえられていると思しき屋敷へと戻ってきた。
驚くべきことに、あれほどの大激闘があったというのに、屋敷はまったくの無傷だった。
「あぁ、
と、皆無。
だから結界魔術で守っていたのだ、という意味らしい。
首を
焼け野原となった庭を抜け、
「…………あれ?」
千代子は、後ろから一匹の犬がついてきていることに気付いた。
「き、キミ、ケルベロス閣下の使い魔!? 良かった、無事だったのね!?」
「あ、
「ん? チョコ子や、何を言っておる? それに、皆無まで」
「まぁよい。もう、この扉の先じゃ」
バーン、とドアを蹴破る
果たして、部屋の中にいたのは――
「「け、ケルベロス閣下ぁ~~~~ッ!?」」
仰天する千代子と皆無。
黒い肌の麗人――ケルベロス女史が、手足を縛られ、洋室の床に転がされていた。
その、ケルベロス女史が
「ご主人ざまぁぁあああッ!! 怖かったでずぅぅぅううッ!!」
「「…………………………………………え?」」
千代子と皆無の声が、重なる。
二人して首を傾げる。
犬が部屋にすたすたと入っていき、その前足で
「「えぇぇえええええ~~~~~~~~~~~~~~~~ッ?」」
❖ ❖ ❖ ❖
❖十数分後 /
「ええとつまり、ケルベロス女史が使い魔で、使い魔がケルベロスだったってことですか???」
えぐえぐと鳴き続ける黒人女性と、女性の頭を前足でぽんぽんと撫ぜる
「はぁ~~~~……呆れたのぅ!」
「チョコ子はまだ分かる。が――皆無!」
「ぎゃっ」
「そなたまで勘違いしておったとは、何事じゃ!?」
「いや、だって! あんなにいっぱい会話しとったやん!」
「あれは、閣下のお言葉を日本語に翻訳していたのです」
ようやく落ち着いた女史――いや、ケルベロス
「「な、なるほど……」」
皆無とともに、千代子は
言われてみれば、使い魔女性が話しているときは、いつも隣で犬――ケルベロス卿がワンワンとやっていた。
驚きで、千代子は未だ頭が混乱している。
が、同時にいろいろと納得もした。
甲斐甲斐しく卿のブラッシングをしていた女性。
――甲斐甲斐しいのは当然だ。使い魔が主の世話をしているのだから。
卿に自分の分の牛メシを差し出した女性。
――主が食べたがったから差し出したのだ……生卵を食べたくなかったと言う可能性もあるが。
そして思い返しても見れば、女性はあのとき、
ケルベロス卿は女性のことを『良い買い物をした』と言った。
黒人奴隷制度は数十年前の
世界では、今現在も有色人種への風当たりというのが大層強いのだ。
士官学校の教師陣の中には西洋人も多いが、彼ら彼女らは時々、日本人に対して露骨に差別的な目を向けることがあった。
ケルベロス卿が女性のことを買ったのは、一体全体
そしてこの女性、人間としては破格のヱ―テル総量を持つ。
それこそ、己や皆無がこの女性をケルベロスその人だと勘違いするほどに。
なればこそ女性は拘束されたままだったのだろうが、和楽園では男性の店員相手に怪力を見せた。
他方、当のケルベロス卿は大層弱っていた。
さすがはケルベロス女史の使い魔、大したヱ―テル総量を持った犬である――などと思っていた千代子だったが、全ては逆だったのだ!
「皆無ぁ……これは、みっちりと鍛え直さねばなるまいなァ」
皆無が泣き出しそうな顔をしている。
「あはァッ、そう言えば!」
「そなたは本当に器用じゃなァ! あの
「――あッ!」
千代子は思わず叫んでしまう。
あの、ミミズののたくったような汚い字の手紙!
なるほど確かに、肉球の手でペンを持ち、手紙をしたためるなど、『器用』以外の何物でもなかろう。
❖ ❖ ❖ ❖
本物の田中大尉――女性
三名とも
そうして、今。
彼女たちの治療と食事、着替え等の世話を終えた千代子は、洋室のソファに深々と座り、長い長いため息をついている。
「つ、つ、つ、疲れたぁ~。これでようやく、一件落着……」
千代子はほぼ二十四時間振りに、同じ言葉を口にした。
そう、自分が異人商人の
(何て濃厚な……)
「あはは、お疲れさん」
不意に、背後から可愛らしい声が聞こえてきた。
声変わり前の男児の声――己の許嫁・皆無の声だ。
「千代子のお陰で、助かった」
皆無が労って
「
「いえ、そんな」
口では謙遜するものの、千代子の胸の中は誇らしい気持ちでいっぱいだ。
如何にも絶望的な戦いの連続であったが、奮戦の甲斐あり、こうして犠牲者
「お礼に、僕にできることなら何でもしたるで」
「そんなこと言って。じゃあ皆無くん、私と結婚して呉れますか?」
「や、その……」
振り向けば、皆無の複雑そうな顔がある。
その顔を見て、千代子はこの気持ちに区切りを付けることに決めた。
「ふふっ、冗談ですよ。じゃあ、そうですね……ふわぁ~。疲れたので、少し眠ります。寝つくまで、頭を撫ぜてはもらえませんか?」
「そ、それくらいやったら……」
おずおずと、皆無が頭に触れてくる。
皆無の手指が千代子の髪の間を通っていく。
涙は、
そうして千代子は、眠った。
❖ ❖ ❖ ❖
次に千代子が目覚めたとき、状況は一変していた。
千代子もまた同様だった。
だが、千代子は何も知らなかった。
何も知らなかったのだ。
(皆無くん、
答えてくれる者は、いない。
❖ ❖ ❖ ❖
こんにちは。
作者の明治サブです。
短篇『腕を失くした
最後までお付き合いくださり、本当にありがとうございました!
皆無は、
この続きは、全国の書店・各通販サイトで大絶賛発売中の、
第27回スニーカー大賞【金賞】作
『腕を
を是非ご購入の上、ご堪能くださいませ!
ここまでお付き合いくださった皆様になら、間違いなく『刺さる』であろう極上の物語です。
何卒!! m(_ _)m
腕を失くした璃々栖 ~吾輩は猫に非ず~ 明治サブ/角川スニーカー文庫 @sneaker
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