43話  めりーくりすます

 今年の降誕祭は平日だから、ホールケーキの売り上げが伸びないらしい。

 殿は夕刻、時間が取れるならば、市場スーパーの総菜コーナーでとりの足をうてきたいと言っておった。

 Mのいえのイブの夕餉ゆうげは、ほうとうの予定だ。若君の幼いときには、ツリーを取り寄せて、その枝に星を飾ったりもしたものだが。

 

 それから昨日、殿は、たたんだ紙袋を持ち帰った。よく見れば飛脚の紙袋エクスプレスバッグSであった。殿が持ち帰って、囲炉裏端キッチンの片隅においたのをMは目ざとく見つけ、「何?」と尋ねた。


「君ならゴミ袋にするんじゃないかと思って」

 殿の会社に、飛脚がサンプルを届けに来た。中身を出せば、即ゴミ箱行きの、その紙袋エクスプレスパッグSをもったいなくて持ち帰ったと言うのだ。

 たしかに、この城うちでは、そういった紙袋を、紙ごみ用の簡易ゴミ箱として使う。


「使う」

 Mは、すぐさま厨の台キッチンカウンターに、飛脚の紙袋をゴミ箱として置いた。自立する、よい紙袋である。


 少しして、(この人から何か、もらうなんて久しぶりだ)とMは気づいた。

 それと、(明日、クリスマスイブだ)と。

 Mと殿には、本人に内緒で値の張る贈りものをする風習がない。ということは、もしかしなくても、これが本年のMへのクリスマスプレゼントになってしまう。おそらく。

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Mさんの知らない世界 ミコト楚良 @mm_sora_mm

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