第18話

「な、なぁ。ゼノン?」

「ん?どうしたよ?」


気になっていたことを聞いてみる。

いくらなんでも先に型みたいなのを教えた方がいいのでは、ないか、と。


「あぁそんなことか。やって慣れろよ」


笑いながらそう答えてくる。

結構スパルタだなこの人。


「だいたい型だのどうだの言ってもその型がお前に合うかどうかなんて分かんねぇからな。真似したけりゃ勝手に真似しろ」


なるほどな。

つまりゼノンの型を真似したければ見て真似ろ、ということか。


とりあえず俺はマーズに教えてもらった型がしっくり来ているしこれでいいか?


そう思いながらこの人の過去が気になって聞いてみる。


「そういえばゼノンはどうしてあんな辺境の森にいるんだ?」

「ん?あぁ、俺か?俺は剣聖になれなかったからさ。それで諦めてあそこでのんびり暮らしてるってわけ」

「あそこに来る前は何をしてた?」

「剣聖を目ざして奮闘してたよ。Sランクの剣士にはなれたがその先の剣聖には辿り着けなかった。今ではそのSからも落ちたがね」


ゴクリ。

唾を飲み込んだ。


今俺の目の前にいるのはそれほどの剣士ということに少し緊張する。


「ゼノン。そろそろ目標が見える」


俺とゼノンが会話しているのが気に食わないのかシズルがそう言ってゼノンとの会話を始めた。

まぁ、確かにそろそろ目標が見え始めていたのも確かだが、俺たちの今回の相手はポイズンフロッグという大型の毒ガエルだった。


「初回だ。そこで見ていてもいいぞクロノ」


そう言ってゼノンとシズルがフロッグを倒しに行った。

俺は言われた通りにとりあえず今回はゼノンの動きを見守ることにする。


そうして見守っていると倒して帰ってくるゼノン達。

依頼はこれで終わりなので帰ることになった。


(なるほど。見て学べという事らしいが、確かにすごい剣術だったな)


最近剣の練習を始めた俺でも分かるくらいにゼノンの剣術は優れていたように思う。

でも、それでもこの世界じゃ剣聖として通用しないらしい。


だが、第三者としての視点で見ていた俺だからこそゼノンに何が足りないのかは理解できた気がする。

何か違和感があった。


でもわざとそうしているのかもしれない。

そう思った俺だったが特に何も言うこともなかった。


わざとそうしたのかもしれないし。

見て学べ。


足りない要素を見抜いて自分の剣術に活かせ、とゼノンはそう言いたいのかもしれない。


(なるほど。面白い人だな)


今日は色んなことが知れたような気がした。


ゼノンの家まで戻ってきて俺は夜素振りをしてみる事にした。


(たしか、こうだったよな?)


ゼノンのやっていたことを見よう見まねで、かつ自己流でやってみる。


「……そう上手くはいかんか」


あの人はポイズンフロッグのデカい腹を一撃で斬り裂いていた。


膨らんだ腹を一太刀で斬り裂いて倒していた。

多分一緒になって戦っていれば気付かなかったが、あの人は剣のリーチを延長していたように見える。


「多分魔法で延長してるんだと思うけど」


そう思いながら剣に火をまとわせた時のように魔力を手を通じて剣に送ってみる。


イメージはひたすら剣先のリーチが伸びる、というそれだけのものを必死に思い浮かべる。


でも


「ダメか」


上手く延長できないようだ。


延長自体はできるけど、数秒でその延長が解除されてしまう。

長持ちしないのだ。


どうしたらいい?


「……」


魔力を流していく。

俺には魔法の才能なんてないけど、こうやって剣術の延長として使う分には何とかできるはずなんだが……。


「無理か……」


できる気がしない。

でも習得できたらいいよなぁ、とも思う。


単純にリーチを延長できるなんて凄いことだし使いこなせたら普通は届かない距離を届かせることも出来るだろう。


「いや、待てよ」


ゼノンは言っていたな。


『俺の型がお前に合うかどうかなんてことは分からねぇ』


その言葉を思い出して俺は一つの考えに思い至る。


「もしかして、このやり方が俺に合っていないだけ、なのか?」


そう思いやり方を少し変えてみるかと思う。

魔力を流していく。


今までは振る前に使おうとしていたが


「!」


振ってから一瞬だけ延長するようなそんなイメージを持つ。

すると、


スパッ!


俺の目の前にあった木が少し切れた。

普通ではリーチが届かない場所にある木が少しだけ切れた。


「維持が難しいなら維持しなければいいのかな」


本当に一瞬だけリーチを伸ばす。

それでも問題なさそうだ。


「なるほど。これが俺のやり方、というわけか」


たしかに。ゼノンの言う通りだ。


例えばゼノンに振る前から延長しておけ、と言われても俺はきっと延長の維持が出来ずに無駄な努力をしていたかもしれない。


でも、技を盗めと言われて自分なりの使い方を模索したからこうやって、とりあえずの感覚を掴むことができた。


「次はもう少しリーチを伸ばしてみよう」


現状リーチを一瞬だけ伸ばしているだけだが想定しているよりは伸びていない。

後は想定通りに伸ばす練習、だな。


「こうか?」


今度は魔力を多く込めて振ってみた。

すると


「お、おぉぉおぉぉぉぉぉ?!!!!」


伸びた剣の長さは木の直径を超えていた。

さっきは木に少しかするかな?程度のリーチでしかできなかったのに。


一気にリーチが伸びていた。


「楽しい。楽しいぞ」


自分の成長が目に見えて嬉しくなってくる。


だが課題もある。

今の一振も木を切り倒すような勢いで振ったものだったが倒れなかった。


「後は伸ばした分の強度とか攻撃力を上げることか……」


流石に一筋縄ではいかないが


「いけるな」


俺はそう呟いた。

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奴隷紋の剣聖~転生したら最底辺の奴隷だったけど剣聖目指します にこん @nicon

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