終章【大きな変革】
小さな橙色の鳥。初めて人間以外の生きている命に出会えた僕は、今もその存在を忘れていない。
赤く色付いた楓の葉に、わずかに土を混ぜたような
あの温かさを忘れたくない。そして、たくさんの人々にあの輝きを伝えたい。懐かしそうに昔を話す祖父の気持ちが僕にも分かるようになり、そして、何度も語ってくれた夢のような世界を現実にしたいと思った。
街には犬や猫がいる、大空には鳥がいる。海や森や草原には多くの自由な動物や微生物がいて、多くの植物が呼吸をしていた、六十二年ほど前の僕たちの世界。それは確かに存在していた。夢や幻では無かったその現実と、僕は現代で会いたい。誰の目にも映る現実として、ここで会いたい。近い未来に叶えたい。
――窓際に置いたいくつかのポトスは、朝日を受けて輝かしいばかりの緑色を僕に見せてくれていた。その光景に安堵しつつ、僕はパソコンを起動する。
まだ誰もいない早朝の小さな研究室には、時計の秒針の音、わずかな空調機の音、パソコンから生じるかすかなファンの回る音しか無く、ひどく無機質な感じがした。そんな時に、窓辺に並べたポトスを見ると心が呼吸をするような感覚を覚える。ポトスに日光が降り注いでいると更にその感覚は強まる。そこに命があるという現実に、懐古と憧憬を覚える。
パソコンが起動するまでのわずかな時間をこうして過ごした後、時折、僕はメールを読み返している。忘れない為でもあるし、思い出す為でもある。
――橙色の鳥の命が失われたあの日の二週間後、一通のメールが届けられた。
「今、あなたは何を思いますか」
それが、箱を届けてくれた誰かからの最後のメールだった。
〈了〉
雲の切れ間に 有未 @umizou
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