第8話『浴室』『トランプ』『擦る』
#創作
#お題
#三題噺
結果
1つ目は『浴室』
2つ目は『トランプ』
3つ目は『擦る』
ものすごい負けず嫌いな人はいるけれど、俺の彼女は相当らしい。
夕食後に披露した手品を簡単に見破ってしまったのが原因なのは自覚している。
俺が風呂に入ろうとしていた時にはあまりの悔しさで小刻みに震えていたくらいだ。
「少し大人げなかったか・・・・・・」
湯船につかりながら、反省をする。
真冬の夜、じんわり温まりながら謝罪の言葉を考えていると『浴室』のドアが思い切り開いた。
「○○君!!もう一回私の手品見て!!!」
先ほどまで悔しがっていた彼女が、全裸でカードの束を握りしめて飛び込んできた。
ああなんということだ、不憫を通り超して憐れみすら感じてきた。
お得意のカードマジックを見破られ、強硬手段に出たのだろう。
無駄にスタイルの良い利点を活かし、俺の注意を逸らそうと考えたんだなきっと。
頭の可愛いそうな彼女らしい発想だ。
カードの束をシャッフルしながら、放漫なバストが揺れる。
(いかん、こんな安易な策に陥ってはならない)
そう思いながらも、カードそっちのけで彼女のありのままの姿を凝視していた。
「ふふふ・・・・・・、今度は見破れるかな~♪」
「くそっ!!汚いぞ!!」
本来見えちゃいけないものが無防備にさらされ、見破るべき手品が完全に無視されている。
(これは・・・・・・一筋縄ではいかないか・・・・・・くそっどうすればいいんだ!!)
このあまりにも不利な状況。
打破するにはカードの動きだけを中止する、簡単な事。
そう、簡単な事なのになぜ俺はそれができないっ・・・!!
苦悩する俺とは対照的に勝ち誇る彼女。
笑顔でカードの束を差し出す。
「さぁ、不正がないようによ~くシャッフルしてくださ~い♪」
完全に舐め切っていやがる。
俺は、束を受け取るとシャッフルを開始した。
こうなったら、思いっきりぐちゃぐちゃにしてやろうと何度も何度もシャッフルする。
「うぉぉぉぉぉぉ!」
雄たけびを上げる俺。
すると、俺を舐め切っていた彼女の様子に変化が現れ始めた。
「ぶるぶるぶるぶる・・・・・・」
そう、彼女が寒さのあまり震え始めたのだ。
そして、両腕を『擦る』ことで寒さに抵抗していたのだ。
「ねぇまだぁ~いいかげん・・・・・・っは!しまった!!」
「ようやく気が付いたか馬鹿め!!」
そう、おれは何度もシャッフルすることで時間を稼ぎ、彼女のコンディションを異常にする作戦なのだ。
手品を披露するための道具が俺の手の中にある以上、今こちらに主導権がある。
ならばこのタイミングを有効に使わないてはない。
「え~?よ~くシャッフルするように言ったのは君だよね~♪しかたないなぁ」
「ぐっ!ぐぬぬぬ!」
そう言ってカード束を彼女に返す。
しかしアドバンテージはまだこちらにあるという事を彼女はしらない。
「それじゃあ、この束から1枚カードを・・・・・・!!」
手品を進行しようとしたが、彼女の手が止まった。
取り出そうとした手が寒さで震えているのだ。
「ふー」
落ち着くために、深く息をする彼女。
そして、手品を再開しようとしたとき更なる異変が彼女を襲った。
「カードが・・・・・・くっついているだと!?」
「そうさ、これじゃ手品なんてできないだろう?」
おれは、圧倒的不利な状況を冷静に判断して、強行策に出ていたのだ。
シャッフルをする際に、浴槽の水を跳ねさせ、水分をカードに含ませたのだ。
そして、彼女に返す際に圧縮させることで、カードがへばりつき、続行を不利にさせたのだ。
「さぁ、どうする?そのままじゃ手品できないねぇ?」
「ぐぅ、ぐぐぐぐぐ」
「続行できないなら、僕の不戦勝でいいかな。ははははは!!」
勝利を確信する俺。
しかし、彼女は諦めていなかったのだ。
「こ、このカードの中から私の言うカードを取り出します!」
「えっ?」
(馬鹿な、これだけ状況を悪化させておいてまだ諦めないだと!?)
全裸で震えながら悔しがる彼女。
目を見開くとカードを名を叫びながら一枚引き抜く
「私が引いたのはハートのAですね!!」
べちゃくちゃの束から思い切り引き出したカードを俺に見せる。
(なんという事だ、こんなことになろうとは)
俺はあまりの衝撃に笑ってしまった。
そして思いっ切り叫んだ。
「それはUNOのカード束だ!!!!」
「えええええええええ」
改めてカードの束を確認した彼女はその場に崩れ落ちた。
なんという幕切れなんだ。
不憫の極みを味わった彼女。
俺はそんな彼女を浴槽に招き入れ、互いの健闘を讃えあったのだった。
三題噺 房宗 兵征 @hyousei7160
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