第7話『木漏れ日注ぐ森』『マグカップ』『飽く』

#創作

#お題

#三題噺

結果

1つ目は『木漏れ日注ぐ森』

2つ目は『マグカップ』

3つ目は『飽く』



額に落ちた水滴の冷たさで目が覚めた。

ほほに感じる硬い物質、あまり嗅いだことない湿った土の臭い。

朝露の溜まりが葉を滑り落ち、朝日に反射して輝きを放つ。


ここはどこだ。

意識の集中に時間を費やす。

昨夜は大雨だった、実家に向かう高速バスに乗車したまでは思い出した。

赴任先で妻の陣痛の連絡を受け、2時間程度で帰宅する予定のはずだ。

じゃあ、なんで俺はここにいて寝ころんでいるのか。


・・・・・・

そうか、俺は事故にあったんだな。


先ほどから両脚の感覚がない。

それに、腕には多量の切り傷があることに気づく。

辺りに散らばったガラス片と焼け焦げたプラスチック破片。

『木漏れ日注ぐ森』の中、俺は身動きが取れず、声もまともに出すこともできないほど衰弱していた

人気の感じられない森の中、助けなどきっとないだろう。

もはや目を開くのも疲れてしまった。


次に目覚めたのは凍える夜のことだった。

先ほどから半日、何も変わらない状況が私に絶望を諭す。

妻は無事なのか。それだけが気掛かりで仕方がない。

それに、他の乗客や運転手はどうなったのだろうか。

無残に飛び散った荷物がこの状況を、客観的に表現している。

その中に私の荷物があった。判別がついたのは、白色の『マグカップ』が二つあったからだ。


あれは、私が購入したペアリングの『マグカップ』。

多忙により、なかなか家に帰ることができず、何か気持ちを伝えようと購入はしていたのだが

渡す機会がなかった。

強まる雨足に食い下がるのか、雨ざらしの2つ『マグカップ』に皮肉にも水が溜まる。


しかし、片方のカップにひび割れがあり、雨水がにじみ出ていた。

満ちた片方とは対照的に、『飽く』ことなく雨水を満たそうとする奮闘するが叶う事はない。

そんな対照的な2つのカップを私は呆然と眺める。


ああ、もうカップに触れる力も残っていない。

体が冷たい、私はこれで終わりなのか。

そして視界が何もなくなった。


最後、カップの崩れる音が聞こえてきたのは必然だったのかもしれない。












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