17.ゴブリン狩り2

 今日はワシの運勢を表す出目は最強の1であったはずだ。

 何度サイコロを振ってもこの出目は日が変わるまでは変わらん。

 そう思うておった。

 だが今、ゴブリンの巣がどこにあるのかを頭で考えながらサイコロを振った結果1ではなく3の目が出た。

 これはこの3という出目がゴブリンの巣のありかを表しておるということではなかろうか。

 ワシのスキル【サイコロ】は、今日の運勢だけではなく様々なことを占うことのできるスキルだったのだ。

 サイコロの目は方位を表しておる。

 3は北だ。

 ここから北の方角に、ゴブリン共の巣があるに違いない。

 ワシは太陽を背に北の方角へと歩を進めた。

 下草をかき分けて藪の中を進むと、すぐに新たな獣道に出た。

 この獣道は真っすぐ北に続いておるようだ。

 ゴブリンがいつも使っておる道かもしれん。

 注意して歩くと、ゴブリンらしき足跡が2、3見つかる。

 足跡を見つけながら四半刻(30分)ほど歩くと、浮浪者のようなゴブリンの匂いがし始めた。

 なかなかに濃密な匂いだ。

 耳を澄ませるとそこかしこからガサゴソという藪を揺らす音とグギャギャというゴブリンの鳴き声が聞こえてくる。

 間違いない、近くにゴブリン共の巣があるのだ。

 ここからは獣道を外れ、藪の中に潜んで進む。

 城攻めで正面から真っすぐ攻めるなどは馬鹿のすることだからの。

 まあ一人で城を攻めるというのも馬鹿のすることだがの。

 だがワシが一人であるということに利が無いわけでもない。

 軍勢ならば城に近づけばたちまち気取られることになるが、一人であれば密かに忍び込むことができる。

 まるで素破のごとき所業だが、一人で城を攻めるにはこれしかあるまい。

 ワシはうろつくゴブリン共を避けてこやつらの巣を目指した。

 匂いはどんどん強くなり、昼に食った魚の干物を吐き出しそうになる。

 こやつらなんという匂いの巣で過ごしておるのだ。 

 これほど酷い匂いであればとうの昔にこやつらの鼻は馬鹿になっておろう。

 匂いでワシの存在が気取られる心配はなさそうだ。

 唐突に、藪が無くなる。

 藪を刈り取り、踏み固められた地面が露になった。

 ワシはすぐに物陰に隠れる。


「これは、巣というよりも……」


 そこにあったのは、集落であった。

 粗末ではあるが木の棒と動物の皮で作られた家が立ち並んでおる。

 家の数は10や20ではない。

 仮に100軒の家があるとして、1軒には何匹のゴブリンが住んでおるというのか。

 父に母、子供が4人と仮定しよう。

 ならばゴブリンの総数は600となる。

 ワシの顔は今どのような表情になっておるだろうか。

 きっと青くなっておることであろう。

 ゴブリンなど何するものかと思っておったが、さすがにこの数は想定外だ。

 ミモザの言葉が頭をよぎる。

 多少強さに自信のある冒険者であっても、次から次へと湧いて出るゴブリンになす術なく死んでいく者がおるらしいとミモザはワシのことを心配して言ってくれておったであろうが。

 ワシは大馬鹿だ。

 戦略的撤退しかあるまい。






「うーむ、あれはやばいな」


 ゴブリンが油虫のように湧いて出るというのは本当の話であった。

 少なく見積もってもあの巣にはゴブリンが600はおる。

 ゴブリンがたくさんおれば今日の稼ぎは期待できるが、問題はあそこに突っ込むとおそらくワシは死ぬということだ。

 ゴブリンを切るのは巻き藁を切るのとなんら変わらんゆえ、100や200であればなんとか対処できるであろう。

 だが、600は体力や武器の耐久力を考えると無理だ。


「なんとか100程度釣り出せないものか」


 ゴブリンの足の速さはどの程度なのだろうか。

 足が遅ければ釣り出して引き離し、間延びした軍勢を各個撃破することは可能であろう。

 2、3匹釣りだして試してみるか。

 ワシはまた巣に近づき、うろついておるゴブリンを数匹釣り出す。

 背中を見せて逃げるとすぐに追ってくるので釣り出すのは簡単であった。

 家を建てて住んでおるところを見るに多少のことを考える頭はあるようだが、なんとも阿呆みたいなやつらだ。

 足もそう速くない。

 短い足をじたばたさせて不格好な走りだ。

 これならば引き離すのは容易い。

 いける。

 ワシは追いかけてきたゴブリンを待ち構えて剣を振るった。


「「「ギャッ」」」


 ずいぶんと走ってふらついたゴブリン共は短い断末魔と共に絶命した。

 ワシも走ることになるので体力を消耗するが、この方法ならばゴブリンに囲まれて圧殺されることもない。

 いくぞ、一人釣り野伏作戦だ。





「ぬぉぉぉっ。これは多すぎるであろうがぁぁぁっ」


 切っても切ってもゴブリンが尽きぬ。

 100程度を釣り出すつもりであったが、あとからあとからゴブリンがどんどんワシの元にたどり着き今では200程度のゴブリンに囲まれておる。

 一人釣り野伏失敗だ。

 完全に包囲されてしまっておる。

 もっと引き離して逃げながら戦うつもりであったが、偶然にも狩りから帰ってきた30匹程度のゴブリンの群れに退路を塞がれてしまった。

 作戦決行予定地であればゴブリンの巣から遠いために追加のゴブリンはそれほど来ぬはずであったのだが、ここは予定よりも大分ゴブリンの巣に近い。

 これでは次から次にゴブリンが追加されてしまう。

 こうなれば、もはやゴブリンを殲滅するしかあるまい。

 ワシには傷が一晩で癒える回復力がある。

 急所さえ守れば死ぬことはないはずだ。

 

「うぉぉぉぉっ」


 ワシは獣のように吠え、目の前のゴブリンに切りかかった。

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六面体のチート能力 兎屋亀吉 @k_usagiya

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