16.ゴブリン狩り
踏み固められた獣道を歩くこと半刻(1時間)ほど。
掃除する前のワシの塒のような匂いがしてきた。
これは強烈だの。
戦の最中に人の臓物を浴びたまま2、3日水浴びもできんことがあったが、あのときのワシのような匂いだ。
ゴブリンが近くにおればすぐにわかるとミモザが言うておったが、そのとおりであったな。
ワシは腰巻きに差しておったカットラスを抜き、八双に構える。
相手の出鼻を挫く。
ワシはガサゴソと音がし始めた茂みに集中する。
そしてそこから4匹の醜悪な小鬼が出てきた瞬間、踏み込んで刀を振る。
ヒュンという空気を切る音と共に、柔らかい肉を断つ手ごたえを感じた。
一つ二つ三つ四つ。
棒立ちの小鬼共をなます切りにしていく。
きっちり4回刀を振るって離れると、びちゃびちゃと汚らしい臓物を腹から零して4匹の小鬼が倒れ伏す。
ビクビクと痙攣しながらもがき苦しむ小鬼共。
死なばみな仏よ。
「今楽にしてやる」
ワシはゴブリンの首にカットラスを突き込み、トドメを刺して回る。
最後の1匹にトドメを刺した瞬間、なにやら身体に力が漲るような感覚があった。
もしやこれは、位階が上がったのではなかろうか。
前回は兎1匹殺しただけで位階が上がったのだ。
あれから狼4匹とゴブリン4匹を殺しておるし、もう一度位階が上がってもおかしくはない。
カットラスを血のりを落とすために一振りすれば、先ほどよりも鋭い風切り音が響く。
やはり剣速が上がっておるな。
位階が上がり、また膂力が上昇したらしい。
足元から石を拾い上げて握り締めるとビシビシとヒビが入り、最後には砕けてしまった。
なんという馬鹿力。
ここまで膂力が上がっておると、買ったばかりの武器を痛めぬように慎重に振るわねばならぬな。
ワシは以前着ておった着物とも呼べぬボロの切れ端でカットラスの刀身を拭き、鞘に納める。
血のりは振るって払い落した程度ではすぐに錆びるからの。
余裕があるならばこうして綺麗に拭きとってから鞘に納めねばならぬ。
「さて、確か右耳を切り取るのだったな」
ゴブリンは素材として使えるものは何もないゆえ死体はここに捨て置くが、確かに討伐したという印を持って行かねばならぬ。
打ち取った武将の首を持ち帰るみたいなものだの。
だがゴブリンの場合は顔が判別できる必要はないので耳のようだ。
嵩張らなくて助かる。
ワシは討伐した4体のゴブリンから4つの耳を回収した。
耳を切り取った死体は本当ならば土に埋めて供養してやりたいが、今はそのような暇はない。
「すまぬな。ここは森ゆえ、すぐに他の生き物の糧となるだろう」
食って食われて、それがこの世だ。
ワシはゴブリンの死体の前でしばし手を合わせて祈り、次のゴブリンを探した。
お天道様が中天に差し掛かったので魚の干物を炙った物を食って腹ごしらえをする。
干物屋の翁から買ったものだが、これは美味い。
ワシがいつも川で捕まえて焼いて食っておる魚と同じ種類であるが、水分が抜けて旨味が凝縮しておる。
「しかし、この調子ではいけても2、30匹だの」
ここまで出会ったゴブリンは8匹。
最初の4匹の後は一刻(2時間)ほどかけてたった4匹しか狩れておらん。
位階も当然上がっておらぬ。
今日中に位階をもうひとつくらいは上げておきたいのだがな。
日が暮れるまで二刻半(5時間)と考えて、帰り道に半刻(1時間)だ。
つまり狩りに使うことのできる時は二刻(4時間)といったところか。
昼前よりは数を狩ることができると思うが、朝夢想しておった100匹狩るなどは到底不可能だの。
油虫のごとくゴブリンが出てくると聞いておったが、さすがにそれは言い過ぎであったようだ。
ミモザはえらく心配しておったのだがな。
多少強さに自信のある冒険者であっても、次から次へと湧いて出るゴブリンになす術なく死んでいくものがおると。
最初の4匹と戦ってあやつらの実力はわかった。
あれならば虫のように次から次へと湧いてくれても対処はできるのだがな。
奴らにも巣があるのかもしれぬな。
森でそのまま眠るのは危険だ。
安全に眠ることのできる塒のようなものがこの森のどこかにあり、その近くならば虫のように湧くのかもしれん。
「そのような場所があったとしても、どこにあるのかがわからんのだがな……」
ワシはふと、サイコロのことを思い出す。
ワシのスキル、サイコロは今日の運勢を占うスキルだ。
いや、そうワシが勝手に思っておるだけだ。
本来占いというのはこういうときに使うものではあるまいか。
どこを掘れば水が出るのか、どちらに向かえば探しものが見つかるのか。
京の陰陽師共は星を見て大勢ばかりを占って悦に浸っておるが、田舎では呪い師の仕事はもっぱらそういった失せ物探しや水脈探しが主だ。
ゴブリンの巣がどこにあるのか、ワシのサイコロは占うことができるのではないだろうかの。
ワシは手のひらを上に向けて広げ、サイコロと念じる。
するといつものように四角い石が手のひらにいつの間にか鎮座しておった。
本当に不思議な現象だの。
しばしすべすべとした石の冷たい質感を楽しみ、腰掛けておった平らな岩の上に転がす。
出目は3であった。
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