四天王最弱?
うみのもずく
第1話
「それで四天王よ、首尾はどうなっておる?」
数千年を生きる魔王が眼前の3人に問うた。
「は、魔王様、火のバルディエが勇者にやられました」
ゆうに2メートルを超す巨漢、土のアルドロが答える。
「ククク、奴は四天王の中でも最弱。こうもあっけなくやられるとは魔王軍四天王の名折れよ」
金の髪を逆立てた細身の男、風のウィリオスが不敵に笑う。
「あなた、何を言っているんですの?」
この場にあっての唯一の女性、水のマリーナが冷たく言い放った。
「あ?どういう意味だよマリーナ?」
ウィリオスとマリーナは昔から馬が合わず、険悪な雰囲気になるのは日常茶飯事であった。
「あなたが愚かなのは十分理解しているつもりでしたが、認識を改めたほうが良さそうですわね。バルディエが最弱?あなた正気ですの?」
「それのなにがおかしいってんだよ!当然俺より弱えし、アルドロにだって敵いやしねえだろ。ああ。お前さんよりはマシかもな?」
マリーナは呆れ返ったのか、もう何も言い返さなかった。代わりに魔王の方をじっと見つめる。
「けっダンマリかよ。なあアルドロお前も何か言ってやれよ」
だがアルドロは答えなかった。彼は寡黙な男で、めったなことで口を開かなかった。
「魔王様、どう思われますの?」
しばしの沈黙を破り、マリーナが問うた。
無言でことの成り行きを見守っていた魔王が重い口を開く。
「バルディエは……強かった。そのことはマリーナ、お主が一番良く知っておったな」
マリーナは無言で首を縦にふる。
「ふふふ、昔は跳ねっ返りの小僧だったあいつがな……見る見る力をつけて特にここ数十年の成長っぷりは目覚ましいものがあった。今だからこそ正直に言う。ワシはあやつを恐れておった」
この言葉にはウィリオスはもちろんアルドロも驚きを隠せなかった。マリーナだけが変わらずに魔王の言葉の続きを待っていた。
「初めは魔王の後継者のことで頭を抱えておった。ワシは息子に王位を継いでもらいたかったが、バルディエが障害になるのではないかとな。しかしすぐにそんなことを言っている場合ではなくなった。奴は強くなりすぎた。とてもワシの手に負えないほどにな。そうじゃろう?マリーナ」
「さすがにお気付きでしたのね」
「お前たちが組んでワシを倒そうとしていたことは知っておった。バルディエは強いが、頭は悪い。おそらくお主が奴を支えるブレーンとして動いておったのじゃろう。実力を隠していたのもお前さんの指示かな?だがワシにはどうすることもできん。奴だけでなく奴の配下の者も敵に回すことになるのだからな。万事休すじゃった」
「魔王様、あなたまさか……」
「そうじゃ、ワシは勇者と取引をした」
「なんだと!」
黙って話を聞いていたウィリオスも思わず叫ぶ。
「勇者とバルディエの力は拮抗しておった。そこでワシがバルディエの弱点を勇者に教えてやったのよ。上手く行ったようで安心したわい」
「勇者がそんな取引に応じるはずが……」
「あちらはあちらで色々と事情があるんじゃろうな。勇者も所詮は権力者に利用されるだけの存在ということよ」
「それでバルディエを勇者に殺させて、自分は魔王の地位を守ろうと言うんですのね。呆れましたわ」
「何とでも言うが良い。ほれ、来たぞ勇者が。隠しルートを奴に教えたからな。ワシだけは見逃してもらう手筈になっておる」
「馬鹿な!」
ウィリオスは動揺を隠せず、アルドロは全てを悟ったのかただ何かを堪えているようだった。
「お前たちは勇者にやられるがよい。バルディエ以外誰も勇者には敵わん。ワシはしばらく潜伏し、ただ時を待つ。何しろワシの寿命はまだまだもつからの」
魔王がその場を去ろうとしたタイミングで勇者が突入してきた。魔王には目もくれず、その場の者はすべて殺された。
その後世界がどうなったのかは誰にも分からない。
四天王最弱? うみのもずく @umibuta28
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