オマケアフターその10 姉妹でデート 後編
「ねぇねぇ、君ら二人だけなの?」
「めっちゃ可愛いよね二人とも……ってほんとにすげぇ可愛いな……」
華恋とエリカの座っている席に、彼女らと同年代くらいの男子二人がやってきて話しかけてきた。
なかなか顔の整った二人組で、服装などにも気をつかっているのが感じ取れる。
「俺らもちょうど二人で昼飯食べに来てさぁ。やっぱ男二人で飯とか華がないよなーって言ってたところだったんだよねぇ」
「てか、頼んだ料理ってそれだけなの? こっちで奢るし、もっとガンガン頼んでいいからさ、一緒に食べない?」
いわゆるナンパというやつだ。
華恋とエリカが頼んでいたメニューが値段の一番安いものと二番目に安いものだけだったので、奢りを提案することでご一緒したいという腹らしい。
エリカはもの凄く面倒くさそうな表情になった。
華恋の方は無表情のままだが。
「あー、あたしら今ちょっと大事な話しして」
「私たちは今デート中なので他の方とご一緒するのは無理ですね」
「ってちょ!?」
無表情のままだが、もの凄くキッパリと断ったのは華恋の方だった。
流石にいきなり他人に『デート中だ』などと姉が言うとは思っていなかったので、エリカが驚きで一瞬固まる。
「デートって、君ら二人だけじゃん。……え? どっかにツレいるの?」
「いえ、私たち二人だけでデートしてるんですが」
「またまたぁ。君ら友達かなんかなんでしょ?」
「いえ、姉妹ですが」
「姉妹なの!? だったらなおのことデートとかないじゃんっ」
「いえ、私もそれに関しては若干思うところがあるのですが。しかしデートなのは事実なので、これから妹相手にどうやって『あ~ん』とかそういうのをする流れに持っていくか考えているところでして」
「おねーちゃん今そんなこと考えてたの!?」
「デートといったらそういうのが定番だと聞いたことがありますよ私」
「それ、ちょっと情報古くない? いや、でもあたし、おねーちゃんに『あ~ん』してほしいかもな? うん、してほしいかな!? そんで後でおにーさんにも是非しよう!!」
「君ら姉妹とか兄弟でそんなことしてんの……? じゃなくて。ほら、そういうのは家でもどこでもできるんだからさ、今は俺らと楽しもうよ? ね? 奢るし!」
声をかけた男子二人が若干怯んできてしまったが、まだ諦めるには至らないらしい。
それだけ今の華恋とエリカが逃がすには惜しい魚に見えているのだろう。
まぁ、華恋とエリカのペースに飲まれてしまっているせいで『奢る』以外のアピールポイントを喪失している節はあるが。
「いえ、私は基本的に金銭的な借りを作りたくないので、お断りします」
「いや、借りじゃなくて奢りだから」
「あー。あのさぁ」
このままでは埒があかない、と思ったのかエリカが割って入った。
「奢りって、いくらまで奢ってくれる感じなの? あたしら、それなりの金額じゃないと心が動かない体質になってるんだけど」
「へ? 体質? そんなの別にいくらでも……」
「ほんとに? いくらでも? 因みにあたしらの基準って何百万とかそういう単位だからね? こちとら一千万越えの奢りしてくれたヒトといつも一緒にいるからね? ……て、こういう言い方するとほんとにあのヒト頭おかしいな」
「ま、またまたぁ、冗談にしては生々しいって――」
男子は笑い飛ばそうとしたようだが、エリカの目があまりにもリアルに『マジ』だったので、途中で笑いも失速してしまったようだ。
「あ、あ~。うん、デート中邪魔してごめんね。俺らいくわ」
一人の男子が撤退を決断したらしく、口早に言うともう一人の男子を引っ張るようにして去っていった。
『ちょ、なんだよ、まだ連絡先とか』
『いいから行くぞ。どう考えても無理だろアレ、てかおかしいだろ色々っ』
遠ざかっていく声を聞いて、エリカが嘆息する。
色々な意味で無理だったらしい。まぁ、賢明な判断だっただろう。
「ふぅ。やれやれ。人に向かっておかしいとか失礼な。ねぇ、おねーちゃん?」
「はい。そんな傷ついたエリカの為に、私がご飯を食べさせてあげます。口を開けてください」
「……それ、考えついた口実なの?」
「えぇ。あ~ん、です」
「……あーん」
エリカは姉からあーんをしてもらいつつ、後で絶対に誠一郎にも同じ事をしてやろうと内心で決心したのだった。
「ふぅ~。なかなか美味しかったね」
「そうですね。エリカの料理ほどではありませんが」
「え~? えへへ~、嬉しいこと言ってくれるなぁおねーちゃんってば。よし、じゃあ後でもっと美味しく再現できるように挑戦してみよっかな」
ファミレスから出た二人はバスを利用して移動後、いわゆる『科学館』と呼ばれる施設に来ていた。
「で、何故にデートで科学館なの?」
入場用のチケットを買いつつ、姉に尋ねるエリカ。
「まず単純にかかるお金が安くすむからですね。そして、誠一郎君の為になるからです。何しろ学習施設の側面もありますし」
「いや、だから小中学生のママじゃないんだからさ……」
「でも提案したらエリカも普通に賛成したじゃないですか?」
「え? あ~、だってプラネタリウムがあるっていうからさぁ。それはちょっとロマンチックじゃない?」
「そういわれればそうかもしれませんね。星空を一緒に眺めるのは素敵なデートといえるかもしれません」
「でしょ? だよねっ?」
「しかしまずは展示をちゃんと見ましょう。順路的に近い、骨格標本展示というのを見に行きますよ」
「えぇ……あ、あんま興味ないなぁ」
淡々と前に進んでいく華恋に、渋々といった雰囲気でついていくエリカ。
科学館の中は、休日ということで家族連れの姿などが多い。
一応若い男女の組み合わせもチラホラ見えはするが、若い女子二人というのはかなり珍しい組み合わせであった。
実際、巨大な恐竜の化石などが展示されているエリアでは小さな男の子などが嬉しそうにはしゃいでいるが、若い女子でテンションが上がっているのは。
「え? すっご!? でっか!? 恐竜デカくない!? あんなの泳いでる海とかぜーったい入りたく無いんですけどっ」
エリカくらいだった。
「エリカ、声が大きいですよ。因みに、アレは恐竜の骨ではなく鯨の骨格です」
「クジラ!? あれクジラなんだ……えぇ~、すっご。海やべー」
「次は、宇宙開発や地球の自然環境についての展示エリアに向かいますよ」
「えー……ここは思ったよりおもしろかったけど、そっちは興味引かれないなぁ」
その後も『え? オーロラ見れるじゃん! すっごい綺麗じゃない!?』『これは本来研究用のデータを元にしているらしいですよ』とか『かみなりっ、雷だよおねーちゃん!?』『放電現象の体験ですね』など、結局テンションが上がるエリカに華恋が解説を加えるという状態で展示を見学して回った。
「はぇ~。一日で見て回るの結構大変だねぇ、ここ。また来ないとだなぁ。期間限定の展示とかイベントもあるらしいし。いやあんま興味ないけどね、うん」
「………………」
「ん? どうかした、おねーちゃん?」
「いえ、エリカって、実は凄く安上がりに済む彼女なんじゃないかなぁと思いまして。なんでも簡単に喜びそうですし」
「そ、そんなことないけど!? あたしこれでも色々うるさいほうだと思うけど!?」
「どうですかねぇ」
「そ、そんなこと言ったらおねーちゃんだってあたしからしたらチョロいし! あたしが男だったら簡単に喜ばせられちゃうねっ」
「どうですかねぇ?」
「じゃーこれからプラネタリウムで実践してあげるから!」
「はぁ。プラネタリウムでですか……?」
――星座のなりたちを眺める天体ショー……を、小学生の団体に混じって眺めた華恋とエリカ――
「……で、どうだったおねーちゃん」
「久しぶりにプラネタリウムを見ましたけど、思った以上にリアルな星空が再現されてて素敵ですね」
「そだよね~! ってそうじゃなくてっ。ドキドキしたでしょ? ほらチョロい~」
「え? ドキドキ? 何がです?」
「だから、暗闇で手を握ったでしょっ。彼氏ムーブしたでしょ! おねーちゃんだってギュってしてくれたじゃん」
「あぁ、あれ彼氏むーぶ? だったんですか。暗いから怖いのかと思って握り返してました」
「そんな理由だったの!? ってか暗いの怖いとか、小学生かっ」
「エリカは可愛いですねぇ」
「うわっ、なんかムカつく!? くそ~、あとで誠お兄さんとダブルデートして、あたしとおねーちゃんどっちがチョロいかちゃんと判定してもらうからっ」
「それってダブルデートっていうんでしょうか……?」
自分のいないところで無駄に『いつか発生するデートイベント』の難易度が上がっていっているのだが、そんなことは勿論誠一郎には分かるはずもなかった。
「はぁ~。遊んだ遊んだ。なんか久しぶりにおねーちゃんと一日遊び倒した気がする~」
科学館からの帰り、バス停から家へと歩く神代姉妹。
夕暮れのマジックアワーももう終わりかけており、空には本物の星がチラホラと瞬き始めていた。
「そうですね。楽しかったですか?」
「うん。おねーちゃんは?」
「勿論、楽しかったですよ」
「そっかそっか」
少しの沈黙の後、エリカが不意に華恋の手を取った。
「……暗いの、怖いですか?」
「ん~。ま、そんなとこ」
「じゃあ、家まで繋いで帰りましょうか」
「ん。そだね」
そうして、姉妹は手を繋いだまま家へと帰った。
その夜。
「で、結局のところ誠お兄さんといくデートってどんなのがいいのかっていうと……?」
「ファミレスのメニューを再現したお弁当を持って、山に登って、あ~んをして食べさせあった後、夜になったら天体観測をして星を見た後に下山……そしてその間に私とエリカのどっちが安上がりに喜ぶかの判定をしてもらう、ですかね?」
「なるほど! それ、おにーさんには事前に詳しいデート内容秘密にしてこうね」
「はい。言ったら、なんか嫌がられそうな気がしますからね」
学校一の美少女姉妹の借金を返したら一人暮らしの俺の家に押しかけられた「って恩返しとかいいから帰ってください」「駄目です」「嫌で~す☆」 佐城 明 @nobitaniann
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