第2話
「シンは……今、どうしてるかな」
ライラは月を見上げて、ぽつりと零す。
「最高にむらむらしてる」
変な声が聞こえた。いや空耳かな。きっとそうだ。シンの事を考えてたから、シンが言いそうな空耳が聞こえたに違いない。しかし、何やら窓の外から、ごそごそと物音がする。
「じゃーん、ライラ、会いたかった!」
変なポーズを決めたシンが、窓の外に立っていた。
「……えっと、何してんの?」
驚きすぎて、逆に反応が出来ない。
「ライラ反応薄い。もっと熱烈なのを期待してたのに。抱きついてきてもいいんだよ?」
いつも通りのシンがそこにいる。
どうして? ライラへの恋心は消えてしまったのに。
そうか、目の前のシンは、ただの幼馴染みのシンなのだろう。それならば、納得がいく。
「抱きついたりなんてしません。それより、どうしてまた窓なの? もう、王子だって分かっているんだから、正面からハーレムに入ってくれば良いのに」
「こっちのほうが、ドキドキしてくれるかなって思ったんだよ。それなのに、ライラの反応が薄くてがっかりだ」
シンが拗ねた様子で、窓に近寄ってきた。そして、するりと部屋に入り込んでくる。
「ちょ、ちょっと、勝手に入らないで」
「何で、俺は第七王子様よ? 自分のハーレムに入るのに、許可なんていらないっしょ」
「それは……そうだけど」
久しぶりに会ったシンに、ライラは緊張してしまう。シンにしてみれば、ただ幼馴染みに会いに来ただけだろうけど。
「それより、今夜は一緒に過ごしてくれるんだろ?」
シンがにやにやとした笑みを浮かべている。
「ちょっと、意味が分からないですねぇ」
「そうやって逃げるんだ。約束を破るのはいけないと思いまーす。てことで、えいっ」
シンの腕がライラに絡みつき、ベッドに押し倒された。突然の行動に、ライラは慌ててもがくが逃げられない。
「約束って何? いや、だから、腰巻きをほどこうとするな!」
「だから、目が覚めてむらむらしてたら、一緒に過ごしてくれるって言ったじゃん」
シンの言葉に、ライラの動きが止まる。
それって、秘薬を飲んだときの会話だ。まさか、秘薬が効いてない?
「シン、私のこと、どう思ってる?」
「なになに、急に乙女な質問来たね。そんなの決まってるじゃん。むらむらするほど、大好きだよ」
大好きだよ、だけ、艶のある声で言いやがった。
しかし、むらむらするほどって……反応に困る。気持ちを伝えるのに、最低な言葉を装飾するなと言いたい。でも、シンらしいと笑ってしまう程度には、ライラも毒されていた。
「秘薬を飲んで、私への恋心はなくなってると思ってた。どうして、なんともないの?」
「んー、厳密にはなんともなくはない。ところどころ記憶が曖昧になってる部分はあるんだ。でも、大丈夫。俺はライラのことを考えると、余裕でむらむらするから」
「だから、むらむらを強調しないで! この変態!」
ライラは腕を突っ張って、シンと距離を取る。
「へへ、興奮するからやめろよ」
「うわぁ……引くわ」
鳥肌が立って、思わず手も引く。
「いや、本気で引かないで。ごめん、真面目に話すから。実はあの後、アブーシに薬を無理矢理吐かされたんだ。喉に指突っ込まれて、その苦しさで目が覚めた。んで、解毒できそうなものを片っ端から飲まされたよ。おかげで腹下して寝込んだもん。でも、あの処置がなかったら、秘薬は俺の恋心を奪ったと思う。ただ、もしそうだったとしても、俺は絶対にライラを選ぶから。だって、幼馴染みとしての記憶は残ってる訳じゃん。どうあがいたって、ゼロからの出発にはならない。だから、秘薬を飲むことに躊躇いはなかったよ」
シンは朗らかに笑った。その笑顔を見て、ライラは思う、シンには敵わないと。いつだって、ライラを揺さぶってくるのだ。こんな格好良いこといわれて、惚れないわけがない。
「シン、秘薬を飲ませてごめん。でも、やっぱりシンのこと、大好きだよ」
ライラは言った途端に恥ずかしくなる。
「……やべぇ、ライラが可愛すぎる」
シンの照れたような呟きが零れた。
「正直、王子のシンっていわれても、まだ実感わかないんだけどね。でも、逃げずに向き合いたいって思う」
恥ずかしくても、言わなければいけない。ちゃんと伝えなければ、すれ違ってしまう。
「だから、私のこと好きでいてくれて、ありがとう」
シンがぎゅっと抱きしめてきた。
その温もりが、とても優しくて、嬉しかった。
今度こそ、この温もりを無くさないよう、大事にしたい。
ライラはそう決意したのだった。
(了)
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恋薬師は砂漠の後宮に囲われる 青によし @inaho
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