第15話 聖女さん、うっかりバカンス中にドラゴンをソロ討伐してしまう。2
オレンジジュースを飲んでちゅーと飲んでから、もう一度寝転がるアリシア。
「うん……幸せ」
そんな風にしてヴィクトリア湖で幸せをかみしめていたアリシア。
だが、突如として、そんな平穏な光景に決して似つかわしくないものが現れた。
「グガァァァァァァッ!!」
「え?」
突然上がった咆哮にアリシアは固まる。何事かと辺りを見回すと……山の方からこちらに向かってくる巨大な影を見つける。
「ど、ドラゴン!?」
アリシアの湖に現れたのはドラゴンだった。
その黒い鱗に身を包んだ巨体。
赤色の目がギラリと光る。
普通の人間であれば、その存在の大きさに恐怖に絶句するだろう。
けれど、アリシアは思わず叫んだ。
「なんでよ!?」
アリシアはモンスター討伐に嫌気がさして、戦闘等とは無縁の避暑地来たのだ。
それなのにいきなり現れたのは上級モンスター。
「わ、わたしの穏やかなバカンスを……邪魔するなぁぁぁぁぁ!!!」
†
アンガスは冒険者仲間を集めて、ヴィクトリア湖へと向かった。
その実、アンガスは死ぬ覚悟をしてここに来ていた。
まさか自分ごときがドラゴンを倒せるだなんて思ってはいなかった。
だが、誰かを逃がすことくらいはできると思ったのだ。一人でも多くの人間を助けられれば、死んでも本望。
自分の剣で一人でも多くの人間を救いたい。冒険者になった頃の決意を思い出して、己を奮い立たせた。
――――けれど。
「グァァァァァッ!!」
甲高い悲鳴。
そして次の瞬間には大きな爆発音。
「くそ、もう襲われてんのか!!」
アンガスたちは舌打ちながら、音のしたほうへと急いだ。
だが、ヴィクトリア湖にたどり着いたアンガスたちの目に映ったのは、
――――既に討伐されたドラゴンの死骸だった。
「なッ……!?」
討伐にやってきた冒険者たちは絶句する。
浅瀬に横たわるその巨体。その翼は穴だらけで、心臓付近にも特大の穴がぽっかり空いていた。
その少し手前には額の汗をぬぐって「やれやれ」と呟く少女がいた。
その顔は、見間違うはずがない。
アリシア・ローグライト。
アンガスが姉貴と認めるAランク冒険者に他ならなかった。
「あ、姉貴!!」
アンガスは自分の師匠の名前を呼びながら、駆け寄っていく。
「げッ!?」
アリシアは聞きなれた声に急に名前を呼ばれ、肩をビクっと震わせた。
クエストを放り出してバカンスに来たことを怒られるとばかり思ったのだ。
だが実際の反応はまったくの逆だった。
「姉貴、ドラゴンを倒すためにヴィクトリア湖に!?」
(ば、バカンスに来ただけだケド?)
驚いて目を丸くするアリシアに対して、
「どうやって先回りしたんですか!? ドラゴンが出たって情報がギルドに入ってきたのはついさっきなのに」
と、アンガスは驚きと尊敬が入り混じった表情のまま、アリシアに訊ねる。
(いや、だからバカンスに来ただけケド!?)
アリシアは心の中でそう繰り返す。
だが、もはやバカンスをしていましたなどとは言えない雰囲気になっていた。
それゆえ、アリシアはどう反応してよいのかわからず口を紡ぐ。
――最も、アリシアが何か言う必要はなかった。
「そ、そうか。そういうことか! 失礼しました。姉貴は日ごろから情報収集を欠かさない人でしたね!!」
アンガスたちの中では理想のアリシア像が出来上がっている。それゆえ、アンガスたちにとってわかりやすい“事実”が作り上げられていく。
「やっぱり格がちげぇ」
「さすが聖女様だ……」
「聖女様のおかげで誰一人死なずに済んだぞ!」
と周囲もそんな調子でアリシアを称える。
一方、崇め奉られたアリシアは、周囲の持ち上げっぷりにうんざりした。
(こ、これ、絶対もっと働けってことになるよね……)
惰聖女さんは、ラクに生きたいだけなのです。 ~え、めんどくさがりなだけなのに、英雄扱いされてますか?~ アメカワ・リーチ@ラノベ作家 @tmnorwork
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