第14話 惰聖女さん、うっかりバカンス中にドラゴンをソロ討伐してしまう。1



 アリシアは、街から少し離れた場所にある<ヴィクトリア湖>に来ていた。

 ヴィクトリア湖はこのあたりでは有名な避暑地で、バカンスのための宿泊施設も多い。


 アリシアは湖畔に設置された縦長の椅子に寝ころび、ただ流れゆく雲をぼんやりと眺める。


 “当たりスキル”を手に入れて、Aランク冒険者になり「これであとはゆるゆる働いていくだけだぞ」と思ったら、いきなり馬車馬のように働かさせられた。

 ダラダラ生きていく、というアリシアの願望は完全に無視されていた。

 だからそんな状況から抜け出すべく、こうして避暑地を訪れたのである。


 幸い、Aランククエストは報酬がよいので、避暑地でしばらく暮らすだけのお金はあった。


「さざ波の音を聞きながらゆっくり過ごす。うんうん、これが至高」


 サイドテーブルに置かれたオレンジジュースをちゅーと飲んでうなずく。


 ――彼女は知る由もない。

 彼女は望むと望まざるとに関わらず、一生働き続ける運命にあるのだということを。


 †


「た、大変です!!!」


 ギルドに受付嬢の声が響いた。


「ど、どうしたんだ?」


 アンガスが訊ねる。


「ど、ど、ドラゴンが出たそうなんです!!」


 受付嬢の言葉に、ギルドにいた冒険者たちは息を飲んだ。


「ど、ドラゴン!?」

「おいおいマジかよ」

「や、ヤバすぎるだろ!?」


 ドラゴンは数多くいるモンスターの中でも、最も凶悪な敵として知られている。

 Aランク冒険者や王国の騎士でも倒すのは容易ではない。

 現れればそれはもはや災厄である。


 街のベテランの冒険者たちさえ、ドラゴンと聞けば震えあがってしまう。


「おい、アリシアさんはどこにいるだ!?」


 誰かがその名前を口にした。

 この街で、ドラゴンを倒せる可能性があるのは唯一アリシアだけだ。

 誰しもが彼女の活躍を期待せざるを得ない。

 だが、切実なその問いに、アンガスが答える。


「それが、アリシアさんは昨日から行方不明なんだよ!」


 その言葉に誰しもが絶望した。


「おしまいじゃねぇか!!」

「クソ! なんてこった!」

「こうなったら隣町に逃げるしかねぇ!」


 だが、そんな中、一人だけ正義感を燃やしている人間がいた。


 ――他でもない、アンガスだった。


「オレは討伐に向かうぜ!」


「「「ええ!?」」」


 受付嬢も含め、周囲の人間が一斉に声を上げた。

 もともと街で一番の冒険者だった彼だが、Bランクの彼にドラゴンを倒すことはまずできない。

 だがそれでも、何もしないでいるわけにはいかなかったのだ。


「それで、ドラゴンはどこにいるんだ」


 その質問に受付嬢は答える。


「ドラゴンは――ヴィクトリア湖にいます!!」


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