ブタ面と蔑まれていた王子、真のオークとして覚醒する~精霊から愛されたのだが最強オークになってしまった!?

🎩鮎咲亜沙

ブタ面と蔑まれていた王子、真のオークとして覚醒する~精霊から愛されたのだが最強オークになってしまった!?

 俺はシュヴァイン、この国の王子だ。

「875、876、877 ──」

 いま俺は朝の日課の剣の素振り中だ、毎日1000回をノルマにと父から命じられている。


「なんだシュヴァインまだやってんのか?」

「ジークハルト兄さん」

 あくびをしながら剣を片手に現れたこの男は俺の兄ジークハルトだ。


「ああ、俺はノロマだからな」

「ふん⋯⋯その面と同じで愚図な奴だなお前は。 とても俺と同じ誇り高き王族の血が流れているとは思えんな? お前もしかして母親の浮気相手との子じゃないのか?」


 っく⋯⋯。

 俺と兄は母親が違う。

 兄の母はこの国の王である父の正妃で俺の母は父の妾だった。

 兄はこの国の王太子で俺は名ばかりの第二王子⋯⋯王位など望めるわけもない。


「兄さん! 俺の事はともかく母の侮辱はやめてもらおう!」

 しかし俺は兄にあっさりと突き飛ばされて転ばされた。


「気安く兄と呼ぶな! この豚面め!」

 そして兄は俺を無視して剣の素振りを始めた。

 シュババババババババババババババババ⋯⋯⋯⋯


「ほい終わり! あー楽ちんだよな素振り1000回なんて。 さあ早く朝飯を食いに行くか!」

 そう厭味ったらしく笑いながら去る兄の背を、俺は見ている事しか出来なかった⋯⋯。

 それが豚面の王子と、この城で蔑まれる俺の現実だった。




 俺はその後なんとか素振り1000回を終えて朝食の食卓に着く。

「遅いぞシュヴァイン!」

「申し訳ありません父上!」


 俺を厳しく叱るのは俺の父親にしてこの国の王だ。

「仕方がないではありませんか父上、この豚は愚図なんですから」

 悔しいがその言葉は事実⋯⋯言い返せない!


「もういい、早く席に付けシュヴァイン」

「はい父上」

 そう言って俺は席に着く。


 父の言葉の響きに俺への関心の無さが感じ取れる。

 悔しいがあの優秀な兄と比べられれば致し方ない。

 そう思う俺にメイドが近づき配膳を始めた。


「あ⋯⋯」

 その時、そのメイドの女の子の手が滑り俺に料理スープがぶちまけられた!

 そのメイドの子は顔が真っ青だった。


「何をしている!」

 そう父の激しい叱責が飛ぶ!

「すみません父上! 俺の手の汗で滑ってしまって!」

 俺は目配せして、そのメイドの子に黙るように促す。


「まったくこれだから。 愚図は自分の餌も受け取れないのか?」

 俺への兄の毒舌はいつも通りの事だ。

「シュヴァイン! 朝食に遅れ、身だしなみも整えられんお前にこの食卓に着く資格はない! 今日の朝食は抜きだ! 下がれシュヴァイン!」


「⋯⋯はい父上」

 そう短く言い残し俺はその場を離れたのだった。




 ああ⋯⋯腹が減った⋯⋯。

 朝食を食い損ねた俺の腹は限界だった。

 その時、俺の部屋をノックする音が聞こえる。


「どうぞ」

「失礼します」

 そういって入ってきたのはさっきのメイドの少女だった。


「申し訳ありませんシュヴァイン様! 先ほどは私のせいで!」

 そう言って彼女は綺麗で長い銀髪を揺らして俺に頭を下げた。


「なにを言っている、アレは俺の不注意で起こった事だ。 そうなったんだ、もう気にするな」

「⋯⋯はい。 その⋯⋯ありがとうございましたっ!」

 それだけ言ってそのメイドの少女は部屋から出て行った。

 その場にバスケットを残して⋯⋯。


 何だこれ? いい匂いだ⋯⋯。

 その中にはさっき俺が食い損ねたステーキがスライスされてパンに挟まれている。

「気を使ってくれたのか⋯⋯美味いなコレ」

 その日の朝食は案外悪くなかった。




 俺のこの城での立場は微妙なものである。

 なにせ母親が妾で俺自身はこんな豚みたいな顔で醜いからな。

 そんな俺が周りからは腫物扱いされて無視されるのは、よくある事だ。


 俺が近づくとそれだけで仕事の手を止めるメイド達ばかり⋯⋯しかし一人だけ俺に会釈する子が居た。

 あの銀髪のメイドだった。


 あれから俺はあの子──アイシャと仲良くなった。

 剣の稽古や勉強の合間に差し入れを持ってきたりしてくれる。

 悪くない気分だった。


 だがそんな俺のひとときの安らぎすらも兄は気に入らなかったようだ。

「おい! そこのメイド!」

「ハイ! 何でしょうか?」


 俺の目の前でその銀髪のメイドのアイシャを兄は──、

「お前見た目だけはいいな、良し! 今から可愛がってやるよ、来いよ寝室までな!」

「嫌です! 放して下さい!」


「やめろ兄さん! 彼女は嫌がっているじゃないか!」

「なんだお前? 俺様に楯突く気?」

 そう言って兄は剣を抜く!


 俺も剣を抜いてアイシャを庇った!

 しかし⋯⋯兄は強い!

 俺はかなり粘ったが結局負けてしまった。


「あーしつこいな! さっさと負けを認めろよ、この豚め!」

 結局兄は気分を壊してそのまま去って行った。


「シュヴァイン様!」

「君が無事ならそれでいいアイシャ」

 俺は無様で悔しかったが精いっぱいのやせ我慢をした。


「はい⋯⋯守ってくれてありがとう。 シュヴァイン様」

「これからは兄に目を付けられないように俺に近づかない方がいい」

 それだけ言い残して俺はアイシャと別れた。


 そもそも兄の女の好みはアイシャのようなタイプじゃない。

 アイシャに手を出すのが目的じゃなく俺への嫌がらせだからな⋯⋯。


 こうして俺の一時の安らぎは終わり⋯⋯また灰色の日々に戻った。




 そんなある日の夜だった。

 俺は寝付けずに何となく城内を歩く事にした。


「兄さん?」

 こんな夜中に兄が歩いている⋯⋯珍しいな。

 そう自分を棚に上げて何となくその兄の後をつけた。


「なぜこんな所に兄さんが?」

 兄を追って辿り着いたのは城の地下牢だった。

 そしてさらに奥に俺も知らない秘密の部屋があった。


「こんな所に隠し部屋があったなんて⋯⋯」

 それ自体は別にいい、城に隠し部屋や隠し通路なんて在って当たり前だ。

 しかしこんな深夜に兄がここに訪れるのは不自然だった。


 俺は息を潜めながら兄の後を追う⋯⋯。

「さあ今日もちゃんと涙を流しているのかな?」


 兄の下卑た声が聞こえる⋯⋯。

 涙だと? 誰か監禁でもしているのか?

 俺は用心深く奥の部屋を覗き込んだ。


 そこには兄が居る⋯⋯その前には鳥籠があってその中には──、

 ――精霊が居た!?

 精霊はこの国で神聖視されている。

 それを捕獲しているなんて王族でも許されない大罪だった。


 しかし兄はそれを行っていた⋯⋯目的はアレか⋯⋯。

 兄は鳥籠の中に落ちている粒を拾っていた。

 精霊の涙だ。


 精霊の涙には不思議な力があるらしい。

 それを兄は手にして⋯⋯食べた!?

 兄の異常な強さの理由はそれだったのか!


「兄さん! 何やってるんだ!」

「んな!? 貴様見ていたのか!」

 俺は思わず声を出してしまった。


「助けて! 私をここから出してよ!」

 その精霊が俺に助けを求める、無理やり捕まえたのは明白だった。

「ちっ⋯⋯見られた以上は仕方ないな。 今までお前には我慢してやったが今ここで死んでもらう」


 そう言って兄は剣を抜いて襲い掛かる!

 俺はなんとか避けた!

 クソっ、ただの散歩のつもりで俺は剣なんて持っていない!

 どうする!


 おれは何度か兄の剣を避けるがついにかすり傷を負ってしまった!?

 マズイな⋯⋯このままだと殺される。

 おれはチラッと精霊の入った鳥籠を見た。


 どうせ殺されるならせめてあの精霊だけでも逃がしてやりたい⋯⋯そう思って俺は決意する。

 兄の剣は恐ろしく速い!

 まあ今となっては精霊の涙での強化だとわかった訳だが、それでも脅威には違いない!

 しかしその速さが仇になる!


 俺は兄の剣をそこに置いてある鳥籠で受け止めた!

「しまった!」

 ざまあみろ! 兄は誤って鳥籠を真っ二つに斬ってしまった。

 中の精霊は無事だった⋯⋯良かった。


「中のあたしまで真っ二つになったらどうすんのよ! でも、ありがと!」

 そう言いながら精霊は俺の傍を飛んでいる。

 そして精霊は兄を睨みつけた。


「アンタが奪った私の力返して!」

「やっやめろ! これは俺の力だ!」

 精霊が兄から力を奪っていく⋯⋯いや取り戻している。


 どうやらあの鳥籠には精霊の力を封じる効果があったんだろう。

 カランカラン⋯⋯と兄の剣が落ちた。

 目の前の兄はさっきまでの恐ろしく逞しかった姿から打って変ったヒョロヒョロになっていた。


「それがお前の本当の姿なのか、兄さん?」

「違う! 俺は! 俺は!」


 そんな俺に精霊は、

「そんなヤツやっつけて!」

 と俺に祝福を授けた!?


 精霊の祝福を受けた人間は素晴らしい力を得る!

 この国の初代国王もこうやってこの力でこの国を興したのだ。

 その力がいま俺に!?


「か⋯⋯返せ! それは俺様の力だ!」

 そう言って襲い掛かる兄の攻撃は見る影もなかった。

 それを俺はあっさりいなして転ばせる⋯⋯いつかの時とは立場が逆転した!


「ひっ卑怯者め! ズルしやがって!」

 そう兄は俺を罵る。


「そうだな確かにこれはずるいな⋯⋯。 精霊頼む、この力を解除してくれ」

「えーなんで!? そのままやっつけてよー!」

「頼む精霊さん、自分の力で勝たないと意味が無いんだ」

「ちぇ⋯⋯真面目ね、あなたは」

 そう渋々精霊は祝福を解除してくれた。


 そして俺からはさっきまでの全知全能感は失われた。

「へっ! 馬鹿な奴め!」

 そう叫び兄は剣を拾って襲い掛かる、素手の俺に向かって!


 だがいつもの兄の剣を見てきた俺には、その加護を失ったスローな剣など避けるのは容易かった!

 俺は剣を避けてそのままカウンターのパンチを兄の顔面に叩き込む!

 この城で一番の美男子と言われた兄の顔面をボコボコにしてやった!


「バカな⋯⋯この⋯⋯俺様が⋯⋯」

 そのまま兄は気を失ったのだった。




 そして翌朝、城は騒然となる!

「ジークハルトよ! 貴様何をやっておるのだ!」

「ひい父上!」


 精霊を捕獲してその加護を無理やり得ていた兄の悪行は、王である父の怒りに触れたのだ。

 そして兄は地下牢に捕らわれる事になった。


「ザマーミロ、バーカ!」

 精霊がそう兄を罵る⋯⋯まあ当然だな。

「俺は悪くない!」

 そういつまでも見苦しく足掻く兄は、兵士に引きずられていくのだった。


 俺はそれを黙って見送る⋯⋯自業自得だ同情はしない。

 兄はこれからずっと地下牢暮らしだ、自分が精霊に対してこれまで行ってきたように。


「すまなかった精霊よ、この国の王として、あの馬鹿の親として謝罪する!」

「許さないよ! 仲間の精霊に言ってこの国中から加護を無くしてやる!」

 精霊の怒りはもっともだ。


 しかしこの国のいたるところで精霊の加護は人々の生活に無くてはならない。

「そんな事になったらこの国は終わりだ! 頼む! 許してくれ! なんでもする!」

 そう臆面もなく無様に精霊に対して土下座する父だった。


「なんでもする? じゃあこのシュヴァインをこの国の王にして! そしたら許してあげる!」

 え? 俺がこの国の王に?


「⋯⋯わかった」

「父上!?」

 信じられない⋯⋯父がそんな事を認めるなんて。

 そこまでこの国は精霊頼みだったのか?


 そして本当に俺に王位が継承されたのだった。

 この俺がこの国を背負う⋯⋯大丈夫なんだろうか?


「シュヴァインなら大丈夫!」

 精霊はのん気だった⋯⋯。

 しかも──、


「さあシュヴァイン! 私の故郷の精霊の森まで行きましょ!」

「精霊の森?」

「そう! そこには精霊王が居て、精霊王が認めないとこの国の真の王とは認められないわ!」


「行けシュヴァイン」

「父上?」

「儂もかつて精霊王に認められてこの国の王となった。 お前の番が来たのだ」

 そう言って立ち去る父の背中は小さかった。


 こうして俺は旅立つ事になる、精霊の森まで。

「精霊の森までは長くて危険だから加護は戻すね!」

 そう言って精霊は俺にまた加護を授けてくれた。


 そのせいで元々豚みたいな顔だったのに今や⋯⋯精悍なオークといった風貌である。

「えへへ⋯⋯ステキよシュヴァイン!」

 ⋯⋯精霊の美的基準は人とは異なるようだな。

 そう俺はこの姿を受け入れたのだった。




 そして俺の旅立ちの朝が来た。

 たった一人での寂しい旅だ。


「シュヴァインと一緒、楽しー!」

 いや賑やかな精霊も一緒だし寂しくないか。


「お待ちくださいシュヴァイン様」

「アイシャ!? 見送りに来てくれたのか?」

「いえ⋯⋯私もお供させてくださいませ」

「ええ──っ! 危険な旅なんだよアイシャ!」

「わかっています、ですがシュヴァイン様はその旅の間どうするつもりなのですか? お料理とかお洗濯とか出来ませんよね?」

 うぐ⋯⋯言い返せない。


「お願いします、私に恩返しをさせてくださいシュヴァイン様」

「わかったよ、アイシャ来てくれ。 君は俺が守って見せるから」

「はい! ありがとうシュヴァイン様!」


 こうして見た目は豚からオークになった俺と、精霊とメイドの少女という奇妙な仲間での旅立ちとなった。


「強くて心優しいシュバイン様なら、絶対すばらしい王様になれますよ!」

「そうか? アイシャがそう言うなら頑張るか!」

「あたしだってシュバインが一番だって、思ってるからね!」


 こうして俺を信じてくれるアイシャが居るんだ、頑張ろう!


 そしてこの長い旅から戻ったこの俺は、この国を導く──、

 オーク王と呼ばれて、歴史に名を残す事になる。

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