なんでここにお前が……

 「やあやあ花恋ちゃん。昼休みぶりだね」

 何故ここにいるんだ。

 数時間前に私の携帯に『藤咲愛歩』が登録された後、無事その後の授業をすませた私は安らぎを求め、いつもの本屋に来ていた。

 それなのにどうしてここでこいつと会うんだ。

 そしてよりにもよってラノベコーナーで。

 私は周りにラノベやアニメ等のサブカルチャーを嗜んでいる事を隠している。

 教室ではしっかり表紙カバーをかけ、挿絵は飛ばすかトイレで読むという徹底ぶり。

 それなのにこんな所でばれるとは。

 もしこのことを藤咲がクラスの人達に言ってしまったら、私は教室で本を読むたびにバカにされ、教室でもう本は読めなくなってしまう。

 それはまずい。

 どうにかしなくては。

 「これで許してください!!」

 私はそう言って一万円札を差しながら頭を下げた。

 一万円札を持っていなければさながらプロポーズの様だ。

 「え?」

 そう言って首をかしげる藤咲。

 「どうかこのことはクラスのみんなには黙っていてください!!」

 「いやいや、そんな事しないって」

 「本当に?」

 「ホントに」

 助かった。

 それで何でこいつはこんなところにいるんだ?

 ラノベなんて読むようには見えないが。

 「藤咲さんはなんでこんなとこにいるの?」

 「花恋ちゃんに話があって」

 「付けてきたの!?」

 「そんなことより、いつ行くか決めてくれた?」

 私を付けてきたどうかはそんなよりで済まされてしまうのか?

 てか

 「どこに?」

 「スイーツ」

 「行かない」

 「なんで?」

 「なんでも」

 こいつも頑なだな。

 なんでそんなこだわるんだよ。

 「行かないなら花恋ちゃんがラノベ読み漁ってること、みんなに言いふらします」

 は?

 「行かないなら花恋ちゃんがラノベ読み漁ってること、みんなに言いふらします」

 二度言った。

 「ついでに、ストカーしてることも言います」

 「それはお前だろ!!」

 「さてみんなはどっちを信じるかな?」

 こいつ卑怯な。

 クラスの日陰者の私となかなかに上手く立ち回ってるこいつとじゃ、みんなの信頼が段違いだ。なんなら段違いどころか、崖違いだ。

 こいつかわいい顔してしたたかだな。

 今までのイメージを変えなくては。

 「で、どうするの?」

 仕方ない、背に腹は代えられまい。

 「わかった。行くよ」

 大丈夫、私の呪いだって一回ご飯食べたくらいじゃ発動しないはず。

 「よろしい」

 そんな私の心配をよそに藤咲したり顔だ。

 「それで、いつなら空いてるの?」

 「いつでも」

 「じゃあ次の日曜日ね」

 どうせ友達もいなく、部活にも所属していない私なんか学校以外の時間はフリーですよ。

 「そうそう」

 そう言って藤咲は何か思い出したように大袈裟に手をたたく。

 まだ何かあるのか。

 「電話かけてよね。花恋ちゃんから連絡ないと私からは連絡できないんだから」

 「わかった。家帰ったらやっとくよ」

 「いまやって」

 「ここ本屋だぞ」

 「一瞬なら大丈夫だって。どうせ帰ったら花恋ちゃん絶対やらないでしょ」

 「はいはい」

 そうやって言いくるめられた私はポケットからスマホを出し、『藤咲愛歩』に電話をかけワン切りする。

 ピリリ

 藤咲の方から一瞬携帯の着信音が鳴る音がして消えた。

 「よし、目標達成。それじゃあまたね」

 そう言うと藤咲は本屋の出口に駆けて行った。

 途中振り返って軽く手を振って、また前を向き行ってしまった。

 忙しいやつだな。

 とりあえず明日からちゃんと後ろを確認して生活しなくては。

 そんなことを考えながら私は本を一冊手に取り、出口と同じ方向にあるレジへと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

すきののろい 西田かつき @1kakash1

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ