三ツ星、失敗する。雁や、笑う。

三ツ星は自分の失敗に頭の中が真っ白になった。

それから心拍数が異常に速くなり、苦痛で顔を歪めた。


仕事に追われ帰宅が遅くなってしまった。

そして遅くなる旨を三ツ星は雁やへ連絡した、つもりだった。

けれど、もう寝ていると思っていた雁やがリビングのソファで寝っこけていた。

その手にはスマートフォン。

連絡を待っていたのは明らかだった。


ああ、とんでもない、ミスを犯した。


言われて、しまう、のだろうか。


三ツ星は慄いた。


「…あ、三ツ星おかえりー」


正解の行動が分からず立ち竦んでいた三ツ星は、ついぞ雁やが起きてしまって狼狽した。


「今日もおつかれー、ごはんは?」


「…食べて来た…」


今日は遅くなるので夕飯は不要、先に寝てて欲しい。

という連絡をいれたつもりだった、つもりだった。


「お風呂はいる?」


「シャワーで、いい」


明日も早いので早く寝たかった。

だから先に寝ていて欲しいと連絡したつもりだった、つもりだったのだ。


絶望的な返答しか出来ず、三ツ星はだらだら冷や汗をスーツの下でかく。

雁やは棒立ちの三ツ星へ近寄り、握ったままの鞄を受け取った。

そうして顔を覗き込み、にこっと微笑む。


「三ツ星、大丈夫か?無理してない?今度の休みは出掛けないで家デートにしよ」


「雁や」


「なにー?明日のスーツ何着か用意しといたから、朝の気分で選んでな。明日も早いんだろ?今着替え持ってくるから」


寝室へ行こうとする身体を三ツ星は抱き締めた。

いつもと変わらぬ感触だ。

なのに昨日より愛しいが増している。


「雁や…雁や…結婚してくれ」


「あはは、なに言ってんだよ三ツ星」


明るく笑った雁やが左手を三ツ星に見せつける。


「おれたち、結婚してるじゃん。さいこーの結婚式だったじゃん。毎日新婚さん気分じゃん?もー何度目のプロポーズだよ、もー」


嬉しそうに指輪を見つめる雁やに、三ツ星は「だめだ俺と結婚してくれ」どうしても諾が欲しくてプロポーズ。


「…いつも頑張ってくれてありがとな三ツ星。おれと結婚しよ」


雁やは誓いのキスだと軽く口付け、笑ってくれた。

もう何度目かのプロポーズ成功に、三ツ星は幸せを噛み締めた。

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三ツ星と雁や 狐照 @foxteria

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