2頁目でタイトルを忘れた
私は世界中の国や街をいったりきたりするのを仕事にしている。もう何年もこの生活をしてるから、こう、丁寧に説明しようとすると変な気分になるけど。
歴史研究のための資料を現地に行って集めたりといったフィールドワークが本業……だと思う。いまいち職種がはっきりしないのは、国同士を行き来するついでに荷物運びとか、細々した雑用も請け負ってるからだ。荷物と情報を商品とした運び屋、といえるかもしれない。
今日はホロックスにいく。
ホロックスはそれかりに広大な都市だから、いつもは大図書館へ博物資料を売ったり、商会から荷運びを頼まれたりと、上層区での仕事が多い。個人的には下層のごちゃごちゃした感じの方が好き。上層と違って、道が真っ直ぐ敷かれてないから冒険し甲斐があるんだよね。路地裏の変なところに店があったりする。
今回の依頼人は幻燈街で画家をしてる男。
以前彼に、絵の具にするとかいって、やたらと重い岩石を届けたことがある。ハンマーとノミで石を砕き、謎の液体や脂と混ぜながら磨り潰す姿は画家というより錬金術師のようだった。原始的というか何というか。そういう手間のかかる趣向の人物だからこそ、芸術家と呼ばれるんだろう。錬金術師や魔術師は合理的すぎるから。
幻燈街は中世建築が多く残る。景色はもちろん、そこに暮らす住民はとことんアナログ好きが集まっている。本の挿し絵を請け負っている彼も、わざわざ手書きのペーパーで仕上げてくる強者である。結局印刷にかけられるんだし意味ないと思うんだけど。
出来上がった絵を商会に届けたら終わり。出来上がるまでは待っていなければならないので、前回来た時同様に、散らかっている別室の掃除をしたり、滞っている家事を手伝った。
一通り終わったのでお茶を入れてもっていくと、珍しく何か食べたいと言い出した。しかしこの画家はびっくりするくらい金がないことで有名だし、流石の私も家の外まで出前を取りに行くのは業務外だ。最近雑用係が馴染んできてしまったため、時には断った方がいい。というかそもそも何を主食にしている種族なのか知らない。
話を聞くと、入り組んだ下層の端に獣人がやってる食事処があるらしい。以前都市に来た時差し入れにもらった高級プディングが滅茶苦茶に美味しくて、調べたらそこの店のだったのですぐわかった。前にチラシで見てから食べてみかったのだという。
そこの写真と最後の絵を交換ということで話が収まった。写真を撮るくらい造作もないことだから受けたけれど、テイクアウトじゃなくていいのか一応聞いた。
これは本当に知らなかったんだが、彼は固形の食べ物は消化できないらしい。
ついでに雑誌編集の依頼人から貰ってる金で夕飯にした。
移動費はともかく、食事代が浮くのは嬉しいな。写真を撮って、ついでにレビューをメモしておいた。あとで広報部に売りつけよう。
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・画家
薄暗い部屋に住んでる、ラナより遥かに長身で痩せている男性。男性だと思っているのは単純に胸がないから、同時に性別がある種族なのかもわからないから。
ゆめにっきのセコムマサダ先生に似ている。手足が真っ黒で異様に細長く、顔が白っぽくて斑、いくつか渦巻が動いてる。顔部分はゆっくり流れるようにパーツが移動していて表情とかは特にない。胴体部分もよく動くので実態がわからず、コートを雑に羽織ったような輪郭をしている。
ラナ曰く「比較的敵意がなく友好的な方だが人見知りが激しい。攻撃はしてこない。固まるかすっと部屋の隅に隠れるタイプ」「基本何考えてるかわからない。ぼうっと絵を描いている」「自分の絵と絵の具、それに近しい絵画や色鮮やかなものに興味を示す」「感情表現が苦手なだけで感情豊かな人物」
西風の旅 あまぎ(sab) @yurineko0317_levy
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