Part2

 休日明けの学校。


 ムラング魔法学校は、今日も色とりどりのふわふわ毛皮でいっぱい。


 だけどリチアちゃんは僕にとって特別だから、同じ制服だらけの男子と女子の中に紛れていても、両耳としっぽを目印にすれば見失ったりはしない。


 休憩時間の教室を出て、廊下を歩いて、ふたりきりになれる一瞬のタイミングで追いついて、速やかにプレゼントを渡さなきゃ!


 昨晩眠れずに考え抜いた、不自然にならない会話の切り出し方を頭の中でリハーサルしていると……不意に後ろから呼び止められた。


「やい、フロン・フロコン!」


 お腹の毛皮も露わに制服を着崩した、ニヤニヤ笑いの二人組。暴れん坊で悪名高いジェイとレクシャだ。 


 大事なときに、よりによって、こんなやつらに目を付けられるとは!


 先生達でも手を焼くギャングどもは、僕を相手にひと暴れする気分になったらしい。助けを呼ぼうにも生憎、周りにはもう誰もいない。


「オハヨウゴザイマスの挨拶もできねぇのか、ナメやがって。何だぁ?その袋」


「きっとママの手作り弁当だぜ」


「これはお弁当じゃない。君らの知ったことでもない」


「いいから寄越せよマザコン坊や!」


 痩せっぽちのレクシャが長い腕を伸ばして、僕から紙袋を奪い取ろうとする!


 ……と、紙袋が内側から左右に引き裂かれ、いじめっ子達の目を眩ませる強烈な光がほとばしった!!



 旅の魔法使いが路銀と引き換えに雑貨屋さんへ置いていったという髪飾りは、ステッキに変身するマジックアイテムだった。


 僕がステッキの真ん中あたりを掴むと、掴んだ腕が制服ごと光の籠手に包まれ、ステッキ自身に意思があるかのような乱舞が始まって、たちまちレクシャの足元を薙ぎ払い、派手に転ばせる。


ってぇ!!」


「この野郎ッ!!」


 続いて大柄なジェイが襲いかかってくるが、拳を振りかぶればステッキが勝手に払いのけ、組み付こうと覆い被さればステッキが勝手にみぞおちを突き上げ、僕の制服にもしっぽにも、ジェイの指一本触れさせない。


 起き上がってきたレクシャを軽くあしらうステッキの動きに振り回されながら宙返りさせられた僕は、いつの間にやらジェイの後ろへ回り込んで、足裏で背中を押し出すように廊下の床へ蹴倒し、太い首の後ろにぴったりステッキの先端を突き立てていた。


「ぐぅ、罠だったか……」


「覚えてろよー!!」


 捨て台詞を吐き、よろよろと走り去る二人。


 ステッキの力で悪党どもを撃退してしまった。こんな出来事、僕だって忘れようがない!


 

「フロンくん!!大丈夫!?」


 廊下の向こうから、ふわふわのしっぽを左右に揺らしながらリチアちゃんが駆け寄ってきた。


「うん。平気」


 手元のステッキは……髪飾りに戻っている。


「ああいう連中がのさばっていられるのは、強い相手にとっちめられたことがないうちだけだ。“誰でも調子に乗りすぎれば痛い目を見る”って思い知るには、良い機会だったんじゃない?」


 かくして学校の平和は守られた。


 それにしても、なんで髪飾りがステッキに?……護身用のマジックアイテムなのかな。


 せっかくの包装は跡形もなく破れちゃったけど、リチアちゃんに髪飾りをプレゼントするなら、今が絶好のチャンス!


 しかし、ジェイとレクシャは僕をしつこく狙い続けるはず。


 学校の平和を守り続けるため、リチアちゃんへの想いは、もう少し、この特別な髪飾りとともに仕舞っておこう。


おわり

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片想いと魔法の髪飾り ユウグレムシ @U-gremushi

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