理屈に染まる男

心の中で、あらゆるものが浮遊する力を失っている。衰えていく生命力。


感情のサイクルは弱まり、胸中に湧き上がっていた筈の気持ちは、飛び出す力を失ってすぐに条件の壁にへばりつく。


同じものを見れば同じ言葉を口にして、フラットな心の起伏を繰り返すだけ。


通勤電車の扉が開くと同時に足を踏み出す感覚が、何かの麻痺を誘発している。環状線に乗り込んでは降りるルーティンに、不自由を感じていた頃の方が自由だったのかもしれない。


もうどこにも行けない。何も起こせない。代償行為は揃えてしまった。


ここは、労働者の国。僕の完成された心は、そんな皮肉に温もりを覚えた。

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心が狭くなった理由 @TheYellowCrayon

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