第3話 【アリ・ガットン!】


ガットンは、あいかわらず、

フクシッピー州で郵便配達の仕事をしていました。


でも、最近は郵便配達の仕事は、

ほとんど頼まれなくなっていました。


ガットンは、仕事をしたくてしょうがありませんでしたが、

手紙や郵便物がなかなかきませんでした。



ある日、ガットンのところへ、一通の手紙がきました。


手紙を読んで見ると、


【ある人に言葉をとどけてほしいので、家まできてください】


と書かれていました。



ガットンは、喜んで、その手紙をくれた男の子の家があるフクシッピー州の西の海岸沿いにあるヤシの木の下の小さな一軒家をたずねました。


玄関先のチャイムを鳴らすと、

青と白のストライプの入ったパジャマを着た金髪の小さな男の子が出てきました。


『やぁ、きみがガットン?』


男の子は、おそるおそる玄関のドアを開けると、聞きました。


『はい、わたしがロボットのガットンです。ご用をうけたまわります』


『うん、ママが病気なんだ。なおせる?』


『残念ながら私にはなおすことはできません』


ガットンは、すまなそうに首をふりました。


『知ってる。……ママの病気がなおるには、地球さんの病気をなおしてあげなくてはいけないの。それには、君が録音している【ありがとう】の言葉をありったけ地球さんに届ければいいって、ママが言ってたよ』


『私が録音したありがとうの言葉を地球に聞かせる?』


ガットンは、問いを繰り返します。


『そう、最大ボリュームでだよ。たのめる?』


そう言うと、つぶらな瞳をうるませた男の子は、ガットンの顔をのぞきこみます。


『できるかどうか、やってみなくては、わからない、でも、わたしも知っている。

人間もロボットも地球も、心で願うことは現実になり、誰もが幸せになれると。

その秘訣が、感謝の言葉、ありがとうだと』


ガットンは少年と別れると、

フクシッピー州の真ん中にあるフジ山に向かいました。


やがて、夜になり、星がまたたき、朝が来て、鳥がさえずりはじめました。


夕方、ようやくガットンはフジ山の五合目にたどり着き、

そこからさらに登りはじめました。


そして、真夜中、とうとうガットンは、フジ山の頂きに着きました。


フクシッピー州の真ん中にあるフジ山の火口の中からなら、ぜったいに地球さんに声がとどくよ、というのは小さな男の子のアイデアでした。


ガットンは、フジ山の火口に降りてゆくと、最大ボリュームにして、

録音した人間たちの『ありがとう』を再生しはじめました。


しばらくすると、地鳴りがして、フジ山の火口から煙が上がりました。


空を灰色に染めるほどの、噴火がおきたのは、

それから間もなくのことでした。


ガットンは、噴火の勢いで空高く飛ばされました。

ありがとうの声も、ガットンと一緒に、空に登っていきました。


すると、どうでしょう?


いつの間にか、赤々と燃えていた火口のマグマが、七色に変わり、

それが次から次へと空に飛び出し虹をかけていくではありませんか。


虹の数はどんどん増えて、やがて、火口をぐるりと一周しながら、千本の虹をかけました。それは、火口を中心にフジ山を越えて、フクシッピー州全体を虹色のドームでおおっていきました。


ガットンは、空高く飛ばされた後、虹色のドームの上に落ちてはずみながら、

一本の虹を滑り降りました。


そしてたどり着いたのは、

フクシッピー州の西の海岸沿いにあるヤシの木の下の小さな一軒家の前でした。


ガットンが落ちた音を聞いて、パジャマを着た男の子が出てきました。


男の子は、仰向けに倒れているガットンと虹色の空をかわりばんこに眺めると、

目を輝かせて言いました。


『あぁ、夢にみたのとおんなじだ。これでママの病気がなおるんだ。

ガットン!もっともっとありがとうの声を地球さんに聞かせてあげてよ』


男の子からそう言われると、ガットンは、再び録音を再生してみましたが、

動きませんでした。


ガットンはあきらめて空を見上げたまま、

自分の声を、最大ボリュームにして、スイッチを入れました。


『アリ・ガットン!』



〈完結〉

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ロボット・アリ・ガットン 夢ノ命 @yumenoto

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