悪魔が悪魔たる所以

悪魔蔓延る世界にて。

2年ほど前になる、天界からの落とし物、まぁ一世紀も昔の書物を拾って、愛読書にしてるんだ。

「人が私につらい思いをさせたとしたら、そのつらい思いが私を下落させないようにのぞみたい。私を苦しめる人に対する愛の気持から。そうすれば、その人がほんとうに悪いことをしたのではなくなる」


悪魔の本質というもの、仕方がない。

誰かのせいにして、まぁ自分ではない誰かを悪だと決めつけてね、保身するんだよ。

それも心の奥底からすべての責任を他の誰かに押し付けてしまえば押し付けてしまうほど気持ちが楽なものなのさ。

そんなワルだからこそ、おれ達は"悪"魔なんだろうがね。


そうだ、悪魔は「自分は悪くない」と、何度も何度も、激しく自分に言い聞かせる。言い聞かせずとも「自分は悪くない」ことが至極真っ当となるまで沁みつかせる。

自分の周りに悪のレッテルを貼る。悪を周囲に充満させる。その中心にいる自分だけがクリーンであると、そう思い込んでるぶん、よりタチが"悪"い。


だって仕方がないさ。

どう考えたって自分に非があるだなんて事実、それが積み重なるなら耐えられたもんじゃない。

まして全部自分のせいにしてしょいこむだなんて、正気の沙汰じゃないよ。

…じゃあおれは狂気に駆られた悪魔だね。

白い悪魔なんだから、それくらいイカれてて当然か。


不思議と、どこかの天使が残していったあの言葉がやけに煩く響きやがる。

おまえも、おまえも、おまえも悪魔。

名前からして"悪"を逃れられない、呪縛のようなものさ。

その呪いが解けるのなら、おまえは今日から胸を張って"悪"魔を卒業だ。

おれは皆と違う白い悪魔だから、もしかしたら「天使みたい」に...、まぁでも多分悪魔の一匹に過ぎないだろうから、それでもせめて大切な君ひとりくらいなら、天使の世界に連れていけるんじゃないだろうか。


君も体の隅まで真っ黒な純粋な悪魔。

だけどおれは可能性を覚えてるんだ、君は「神様みたい」に笑うのだから、君がどれだけ悪魔らしくおれを残虐非道に引き裂こうと、おれを"悪"だと決めつけ責め立てようと、さながら天使のごとき態度で君に接するよ。


「人が私につらい思いをさせたとしたら、そのつらい思いが私を下落させないようにのぞみたい。私を苦しめる人に対する愛の気持から。そうすれば、その人がほんとうに悪いことをしたのではなくなる」


やっぱりおれは悪魔なのだろう、時には君を責め返してしまうこともあるよ。

けど、君がおれに「最低」というならば、おれはまっすぐその言葉、うけとめれるよう努めよう。

時におれは「自分が"悪"だ」と言い聞かせて、君が傷つくのを黙って見て立ち尽くすしかできない無力な卑怯者だと言い聞かせて、君が"悪"であることから遠ざけるんだ。


所詮おれは白いが悪魔。

だけどもっと悪魔になろうが、おれがそばにいるかぎり君は天使でいられるように。

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悪魔蔓延る世界にて、白い悪魔に産まれたから なで肩の天使 @nomadnolife

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