悪魔蔓延る世界にて、白い悪魔に産まれたから

なで肩の天使

神様に捧げる一手紙

悪魔蔓延る世界にて。

おれも悪魔のもとに産まれ悪魔として育った、周りの奴等となんら変わりない、悪魔なのさ。


おれの親はタチが悪い、無意識で相手を不幸に追いやる悪魔だ。

学校にいけば、"変"なおれを皆と違って"変"だからと、白い目でみたり金をせびったり線路に突き落としたり騙して陥れたり万引きさせたり冤罪の罪を被せたり…、挙げればキリのない、まぁ悪魔の巣窟なんだよ。


ところでそう、確かにおれは"変"なんだ。

泣いたら涙よりも鼻水がでるところ?

一日五回も六回も大便にいくところ?

年がら年中汗にまみれてるところ?

ぜんぶ確かに変だが、違うね。

おれは"白い悪魔"なんだ。

皆と違って黒くない、おでこのツノも肩甲骨ほどしかないダサい羽も鼠さながら侘しいしっぽまで、悉く真っ白なのさ。


でも、君は違ったね。

おれは白い悪魔で気味悪がられてた。

君は綺麗といった。

それどころか、「天使みたい」だと…。

君も黒い悪魔なんだろうが、どうしてもおれには君が悪魔にみえないんだ。

だって「天使みたい」という君のあたたかさ、純白かぎりない笑顔、「神様みたい」だよ…。


君の瞳が翳ってるの、そりゃ気づいてるさ。

あいにく文才があってね、こいつでその陰を取り除けるんじゃないか…、毎日毎日馬鹿の一つ覚えみたく君に手紙を届けるんだ。

一日に一通なんてしけてる。二通でも三通でも、届けられるかぎり君に届けたさ。


君をいつでも笑顔にできるから、おれは君の云うように自分が天使なのではないかと思うようになった。

とんだ拍子に悪魔の群れに迷いこんでしまった、天使なんじゃないかと。

けど、やっぱりおれは悪魔だったと自覚する瞬間がある。


だってさ、君が傷ついてるの、見てるしかできないんだよ。

そりゃ胸がはち切れそう…ってか、壊れるよ。

さっきまで笑顔だった君が、純真無垢に、翳りなく可愛い前歯をみせて笑っていた君が、おれの届かないところで、泣くんだ。

おれは君が泣くのをただ立ち尽くして、独り無駄に怒り震えて、それでもただ立ち尽くして、無情に壁を殴りつけることしか、できないでいる。

壁にはおれの血が赤茶色に染み付いて雨が降ろうがとれないよ。

このこびりついた血にすら、君の笑顔に、なんの役にも立ちやしないんだ…。

それどころか、より君は傷つくね。

君の傷つくのを指を咥えて黙って見て、追い討ちをかけるように傷つける、悪魔だよ。


なぁ、おれは運命に定められた生粋の悪魔だったとしても、いまやもう天使でいたいんだよ…。

もしおれが天使なら、どうすれば君をこの虚しい現実から救い出せるんだい?

もしおれが天使なら、そんなことくらい、容易いはずでしょ…。

もしおれが「天使みたい」な悪魔だったとしても、天使でいれなきゃ…、意味はないんだ!


無力感に駆られて、原稿にペンを走らせる。

おれが天使でいれるなら、この消せないインクは君に永遠のしあわせを約束する、魔法を帯びるに違いないから。

たった一人、それでも、あまりに大きな一人、君を笑顔にする、天使でいるんだ。

虚無感に囚われるが、昨日の君の純粋な笑顔が、真っ暗やみに佇む満月のように、一筋の希望として射し込むから。


"白い悪魔"に産まれてよかった。

「天使みたい」…、違うよ。

「天使なんだよ」、そう云える今日のために。

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