面接指導が恋愛相談になってしまった

碧月 葉

面接指導が恋愛相談になってしまった

「どうした奏翔かなと、今日は暗いな。本番が近づいてきて緊張してきたか? お前らしくもない」


 小川先生は、俺の顔を見るなりそう言った。

 さすが、受験のための面接指導でここのところ毎日顔を合わせているだけの事はある。


「先生ぇ……俺、フラれたんっス」


 思ったよりも情けない声が出た。

 心の中は暴風雨。どうにもごまかせなかったようだ。


「お、おおぅ。それは……ドンマイだ」


 先生はそう言って、俺の背中を優しく叩いた。


「はぁ……先生。俺さ、受験に勝っても人生には負けたかも…… 」


 好きで、好きで、大好きな、世界にたったひとりの女の子。

 仲良くしていたし、きっと相手も俺の事を想ってくれていると思って告白したのに玉砕した。


「おいおい何言ってんだ。受験も人生もこれからだろうが、極端な奴だな。俺だって失恋なんて一度や二度じゃない。しかし出会いも一度や二度じゃないから大丈夫だ。ほら、しっかりしないか」

「彼女は俺の運命のひとなんですよ。もう出会った時から本能が反応しているんです。なんていうかな、生涯を共にするのはこのひとだってビビッと感じとったっていうか。そんな彼女との未来が無いだなんて……」


 俺の胸はズキンと痛んだ。


「お前なぁ、この受験期に告白なんかするか? 時期ってものを考えろよ」

「……はい、思い切りしくじりました。『付き合っている暇なんて無い』って言われて……。でも俺は今だからこそだって思ったんすよ。受験が本格化したらますます会えなくなる。茉央まおが遠くに行く前にちゃんと『俺の彼女』にしておかないとって……」

「………… 焦るなよ奏翔。運命の相手なら何があっても切れない縁があるはずだ」

 

 先生はペットボトルの緑茶をひと口飲むと。フウとため息をひとつ吐いた。


「俺はバツイチだ」

「へっ?」


 先生の告白に俺は変な声が出た。


「そしてな、同じひとと再婚した」

「ええっ!」


 先生は頬をポリポリ掻いている。


「色々あって一度別れざるを得なかったが、離れても彼女の事が頭から離れなくてな。恋しくて堪らなくなり追いかけていってもう一度プロポーズしたんだ」


 いかにもオジさんな風貌の先生にそんなロマンスがあったとは意外だ。


「だからな俺も運命の相手ってのは分かる気がするよ。そして本当に運命ならばきっといつかまた惹かれ合うさ。奏翔、『前後際断ぜんごさいだん』だ。良い運命を引き寄せるには、先ずは目の前にある課題にしっかり取り組んでこそだぞ」

「先生、お坊さんみたいですね」

「ハハッ、退職したら実家を継いで坊主になるからな。ほれ、そろそろ昨日課題に出したレポート見せてみろ」


 この日、小川先生は俺の「恩師」となった。



***



 10年後

 俺の結婚式、頭を丸めた年配の男性が「恩師」としてスピーチに向かう。


「ふふっ、小川先生、髪型以外は変わってないね」


 俺の隣で茉央が微笑んだ。

 

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面接指導が恋愛相談になってしまった 碧月 葉 @momobeko

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