四、ジュキちゃん猫耳美少女化プロジェクト
24、みんなで寄ってたかって着替えさせないで!
「なんでっ!?」
俺は宮殿内に与えられた自分の部屋で、ナミル獣人師団長に抗議していた。彼女のうしろには、皇室御用達職人たちがずらりと並んでいる。そのうちの一人が俺に向かって差し出しているのは、長袖のミニワンピース。袖部分は白い毛でおおわれ、先には肉球の手袋がついている。
「なんで
「それはジュキくん」
ナミル団長がすました調子で答えた。
「きみが逆の立場だったらどうだい? 目つきも口も悪い生意気な少年がやってくるのと、ちょっと目元のきつい色白美少女が瞳をうるませながらお願いしてくるのと、どっちの頼みを聞いてあげたい?」
くそーっ、正論並べやがって。
「でも俺の口が悪いのは、女の子の格好したって直りませんよ?」
「安心してくれたまえ。ちゃんと対策は考えてある」
「ん? 俺はしゃべらなくていいってこと?」
ナミル団長が答える前に、レモが割り込んできた。
「えーっだめよ、もったいない! ジュキの声の魅力は歌ってるときだけじゃないのよ! 話し声だって
「安心してくれって、レモネッラ嬢。ジュキくんの中性的な美声を封じるつもりはないから」
レモを面倒くさそうにあしらってからナミル団長は、
「さあジュキくん、まずは試着してくれたまえ。サイズも確認したいしな」
職人さんの手から受け取った白レースのワンピースを、ひらひらと揺らして見せた。
「そういえば俺のサイズ、なんで分かったんだ!?」
俺の疑問に答えるように、職人さんの一人が手を振った。
「あっ、あなたは――」
見覚えのある顔だと思っていたんだ。
「思い出してくれたかしら、
そう、彼女は劇場で衣装係のリーダー格だった中年女性だ。
「えっ、でも皇室御用達の職人さんだって――」
混乱する俺に、ナミル団長が答えた。
「彼女は魔道具で服を作る
俺は納得した。皇后様ならやりかねない。お気に入り歌手の衣装は、お気に入りの職人に任せなきゃ気が済まないんだろう。劇場で出会ったときも、ただの衣装係にしては台本の改稿内容まで押さえているし、詳しすぎると思ってたんだ。
最高ランク
「また可愛らしいお嬢さんのために服を作れると聞いて、弟子たちと徹夜したんですよ」
「えっ、徹夜!?」
おばちゃんの言葉に目を見開く俺。
「そっか、みんな頑張ってくれたんだな」
俺は心を決めた。
「そんなら仕方ねぇ。俺が一肌脱がねぇでどうするってんだ」
「ふふっ、ジュキったらかっこいい!」
レモが抱きついてきた。
「そういう優しくて気っ
「褒めてもらったところで悪いけど、俺またスカート
つい自嘲ぎみな笑みを浮かべる俺。
「えー、いいじゃない! このミニワンピ素敵よ?」
レモは白いワンピースを手に取って、裏返したり表にしたりしながら、
「繊細なレースが美しいでしょ? デコルテと背中がシースルーになってるのよ」
「出遅れと背中がピースフル?」
俺はオウム返しに尋ねた。レモの言っている意味がさっぱり分からない。
「エレガントだけど夏にぴったりなデザインで、私が着たいくらいだわ!」
「レモネッラ嬢には、こちらを試着していただきます」
若い職人さんが差し出したのは、レモの髪色に合わせたピンクの猫耳と、尻尾のついたスカートだ。
「わぁ、かわいい!」
レモは喜びの声をあげると、
「じゃ、私、自分の部屋で着替えてくるわ」
内扉を通って、となりの部屋へ消えた。そのあとを数人のお針子さんとユリアが追いかけてゆく。
「俺も着替えたいんで、皆さん廊下に出てもらえませんか?」
だが、最高ランク縫製工のおばちゃんが首を振った。
「普通の服じゃないから、着方が分からないと思うよ」
それは一理ある。ワンピースの袖は手袋まで一体型だし、足のうろこを隠すタイツ状のものも用意されている。
でも、こんなに大勢で俺の着替えを手伝う必要はないはずだ――と思ったとき、おばちゃんがにっこりと笑った。
「まずは下着一枚になっておくれ。男の子なら恥ずかしくないだろ?」
「もちろん! 俺は男の子なんで恥ずかしくありませんっ!」
俺は勇んで服を脱ぎ捨てた。
その途端、ナミル団長をはじめ、その場にいるみんなの視線が俺に集中した。
「つるぺたな真っ白い胸に、うっすら桜色の乳首が映えるな!」
「あらぁ、手足のうろこが真珠のようだわ!」
「あんな綺麗なうろこをモフモフで隠すの、もったいないねぇ」
うわぁぁぁん、やっぱり恥ずかしいよぉっ!
慌てて両腕で胸を隠し、俺はちぢこまるように内股になった。
だがおばちゃんは有無を言わさず、
「はい、足入れて」
ワンピースを着るようにうながした。ブリーフ一枚で注目を浴びるよりはマシなので、スカートの中に両足を入れる。
「次は腕を通して」
言われるままに、白い毛におおわれた袖部分に手を入れる。
「あれ? なんか涼しい……」
「まだ暑いのに毛皮はつらいでしょうから、温度調節の魔法をかけてあるんです」
「えっ、そんな術があるんですか?」
俺はいつも普通の服を着て、氷魔法を使っていた。
「ノルディア大公国で発明された技術で、皇后様が帝都に持ち込みました。この魔法を使った服を着ている方は、帝都でもごく一部です」
庶民には出回ってない技術ってことか。
「おててを先まで入れて下さいな」
「なんか肉球ついてる……」
「その手は魔道具になっていて、魔力を通すことで物を吸いつけて持つことができます」
「でも竪琴の弦は
「いいえ、ジュリア様」
なんの疑いもなくジュリアと呼ばれて驚く俺。まさかこの人、本当に俺のこと「男子になりたい思春期前の女児」だと思ってるのか!? だとしたらさっきパンツ一丁になった俺の行動、相当恥ずかしいじゃん!!
「ジュリアーナさんとお呼びした方がよろしかったでしょうか?」
俺の反応を勘違いしたおばちゃんが気を遣うが、マジでどっちでもいい。
「それで、竪琴
俺は無表情のまま話を戻した。
「はい、猫ちゃんのおてての先端に小さな穴が開いていて、ジュリア様のかぎ爪を出せる仕様です」
「あ、ほんとだ」
猫の手をのぞいて、気が付く俺。
「でも、ちょっと―― 指部分が長くって爪が出せないんだけど」
「五本の指先すべてに紐がつながっていまして、それを引くと指先から爪が露出する仕掛けです」
「どうやって紐を引くんですか?」
「ひじのあたりに軽く魔力を通してください」
ひじ――と思いつつ、精霊力を集めるイメージをすると、
「あ。爪が出た」
俺が猫の手と格闘しているあいだに、若い女性が腰から背中にかけて並ぶボタンを留めてくれた。
「レースのワンピース、よくお似合いですね」
女性たちが華やかな声で褒め始める。
「なんか短くて落ち着かないんですけど……」
かぎ爪をしまった俺は、クリームパンみたいな白猫のおててで一生懸命スカートのすそを押さえた。
前かがみになったせいか視界の隅で、腰あたりから伸びた細長いしっぽが右へ左へと揺れている。
「そういう格好するとパンツが見えちゃいますよ」
「やっ」
俺は慌ててうしろの裾も手で押さえた。
「これを履けば恥ずかしくありませんよ」
おばちゃんから手渡されたタイツは、白くてやわらかい毛におおわれている。椅子に座って、室内用の布靴を脱いでタイツに足を入れると、若いお針子さんが声をかけてきた。
「お手伝いしますので、立っちしてくださいな」
「いや、ちょっ―― 自分でできますって!」
女性にひざより上を触られるの、なんか嫌だよっ!
─ * ─
若いお針子さんにタイツを履かされてしまうのか!? 思春期男子、ピンチ!
男性下着の歴史について調べたら、1400年代のイタリア絵画ですでに白ブリーフが描かれていました。ただゴムは無いので紐が通っていて、へその下で結ぶようです。
次回、『俺、また女の子にされちゃいました』
鈴チョーカー付けられたり、猫耳&ツインテにされたりしますよ!
タイツを履かされる際、スカートを上げたまま、おへその下で紐を結んでもらうジュキちゃんのイメージイラストを近況ノートにUPしました!
https://kakuyomu.jp/users/Velvettino/news/16817330660409567175
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