25、俺、また女の子にされちゃいました

「猫ちゃんタイツを履くお手伝いをしましょう」


「いや、ちょっ―― 自分でできますって!」


 女性にひざより上を触られるの、なんか嫌だよっ!


「遠慮しないの。子供は大人を頼っていいんだから。さ、スカートを持ち上げていて」


「俺、子供じゃありません!」


 抵抗もむなしく、俺は両手の肉球でスカートをたくし上げ、されるがままになっていた。


 ううっ、いつも思うけど着替えはせめて男に手伝ってほしいよ……


 恥ずかしさに耐えかねて、ぎゅっと目をつむっていると、


「しっかりウエスト位置まで持ち上げて、紐を結んで止めてあげて」


 おばちゃんが部下の女性に指示する声が聞こえてくる。俺のへその下で女性の手が、モゾモゾ動いてくすぐったい!


股上またがみきつくない?」


 突然声をかけられて、


「ふえぇ?」


 うっかり変な声が出た。


 分かんないよ! 俺の大事なところにお姉さんの手が触れそうで、何も考えられないんだから!


「平気そうね? いつまでもスカートめくってないで大丈夫よ」


「わわっ」


 俺は真っ赤になって裾から手を離した。自分でスカートたくし上げたまま目つむって立ってるなんて俺、痴女みたいじゃん! 早く言ってよ!!


「首に、このチョーカーをつけますよ」


 おばちゃんが見せてくれたのは、真ん中に鈴がついた桃色のリボンだった。


「髪の毛さわりますね~」


 後ろに回ったお姉さんが、俺のウルフカットにした銀髪の襟足を優しく持ち上げる。


「結べました」


「おお、真っ白な首元にピンクのリボンがよく似合うな!」


 ナミル団長が調子よく手をたたくと、なぜかみんなも拍手し始めた。


「そうかな?」


 首をかしげると、鈴がチリンと鳴る。


「さて、これでお洋服は完成よ。次は御髪おぐしを整えて、お耳をつけましょう」


 おばちゃんの言葉に、ナミル団長が俺の頭からつま先までを、値踏みするように見やがった。


「短いままでも充分に女の子だな」


「こんな服着てるからだよ!」


 普段の俺はちゃんと男の子だもん!


「そんな目をつり上げてないで髪伸ばしてくれよ、アルジェント子爵」


 ニヤニヤしているナミル団長をにらみつけていると、


「髪型をうまく工夫して、竜人族のお耳を隠さないといけないのです」


 おばちゃんが補足した。


「分かってますよ」


 俺はあきらめの嘆息と共に、精霊力を注意深く解放した。うっかり肩から角が生えたりしないように。


「わー綺麗!」


「銀色の粉雪が舞っているみたい!」


 予想通り、女性たちがまた黄色い声を上げる。


「あんな綺麗な御髪おぐしなら、普段から伸ばしてればいいのにねえ」


「女の子だってバレちゃうから嫌なんじゃない?」


「えっ、やっぱり本当に女の子なの!?」


 俺本人が目の前にいるのにうわさ話を始める女性たち。全部聞こえてるんですけど? ああそうか、彼女たちは竜人族の聴覚をあなどっているんだな。


 皇后様のお気に入り歌手が男だったとバレていいのか分からないから、俺もここで男だと断言しづらいのだ。


 俺は彼女たちをギロリと見回して、


「髪、伸ばしましたよ」


「髪伸ばすとやっぱり女の子よね。目つき悪いけど」


 真剣な顔でどうでもいい考察を繰り広げているのは、さっき猫タイツ履かせてくれた女性だ。


「あなたタイツの紐結んであげたとき、見たんでしょ?」


 同僚に尋ねられて彼女は首を振った。


「下着の上からじゃ、ふくらみなんか分からなかったわ」


「分からなかったなら女の子よ!」


「見えないくらい短小なのが付いた男の子かも知れないじゃない」


 ひどい! 聞こえてないと思って言いたい放題! 俺の、男の子としての尊厳を踏みにじってきやがる。


 だが涙目で抗議しても余計にからかわれるだけだ。いじめっ子っていうのはそういうもんだからな。無視に限る。


 ひそひそと耳打ちし合う部下たちを放置して、おばちゃんは白い猫耳を二つ、手のひらに乗せた。俺は座っていた椅子から立ち上がり、のぞきこむ。


「それ、カチューシャになってないけど、どうやって装着するの?」


 首をかしげると、波打つ銀髪がさらりと頬にかかった。邪魔なので何気なく耳にかけたら、


「キャッ、仕草が色っぽい!」


「やぁねぇ、お子様なのに色気があって!」


 また歓声が上がった。やりにくいなあ、もう。そもそも俺、お子様じゃねーし。


「この猫耳も魔道具になっていまして、体内を流れる微弱な魔力に反応して、頭皮にくっつく仕組みになっています」


「へぇ。肉球と似たようなもんか」


 特級職人のおばちゃんから淡々と説明されて、納得する俺。


「失礼しますよ」


 おばちゃんは椅子に座った俺の髪を指先で分けて、猫耳を乗せた。


「わっ、吸いついた!」


 頭の感触に驚いていると、


「こっち向いてぇ、白猫ちゃん!」


 若い女性たちから声をかけられた。反射的に振り返ると、首元の鈴がまたチリンと鳴る。


「キャーッ、かわいい! 猫耳似合ってる!」


「もともと目元が猫ちゃんっぽいから全然違和感ないわ!」


「首元の鈴もかわいいっ! 私が飼いたいっ!」


 またもや大騒ぎである。


 おばちゃんは騒ぎが収まるのを待ってから、


「誰か、この子の髪を結んであげてくれない?」


「はーい! 私やりまーっす!」


「え~っ、私も綺麗な銀髪にさわってみたーい!」


 ひとしきり揉めていたが、やがて二人の女性が、チョーカーとおそろいと思われるピンクのリボンを手に近付いてきた。


「それじゃあ、こめかみの髪は一房残して、残りの髪を二つに分けて猫耳の下――少し低い位置で結びましょう」


「またツインテールかぁ」


 ついため息がもれる俺。


「幼く見えがちだから、あんま好きじゃねぇんだよな……」


 竜人族の耳を隠すためだから仕方ないのだが――


「幼く見えるのは髪型のせいなのかい?」


 俺のひとりごとを拾ったのはナミル団長。


 何が言いたいんだ、この人は? 俺が臨戦態勢に入っていると、


「いいじゃないの。ツインテールなんて許されるの、今のうちだけよ。この歳になったらできないもの」


 おばちゃんが当然すぎる発言をした。母さんより年上の女性がツインテするのは厳しいな。


「アタシは子供の頃から背が高くて発育もよかったから、ツインテなんて似合う時期は短かったなあ」


 ナミル団長は自慢にしか聞こえないことをのたまいつつ、髪を結われている俺をちらりと見た。


「いつまでもピンクのリボンだのレースワンピだのが似合うジュキちゃんがうらやましいよ」


 く、悔しい!


「は~い、完成ですよー!」


 髪を結ってくれていたお姉さんが、みんなにお披露目するように両手を広げた。


「おっ、いいねえ。ふわふわ波打つ髪質だから、ちゃんと耳も隠れてるじゃないか」


「猫耳の内側とリボンの色が両方ともピンクだから、調和が取れて素敵でしょ」


 ナミル団長と縫製工のおばちゃんは冷静だが――


「きゃあぁぁぁっ! 抱きしめたいっ!」


「緑のおめめの白猫ちゃん!」


「食べちゃいたい!」


 悲鳴を上げて喜ぶ若い女性たちに、俺はたじたじである。


「か、かわいい! ねえ、片方の猫ちゃんの手をほっぺに、もう片手をあごの下に添えて、小首をかしげてニャンって言ってみて?」


 ん? 片手を―― 言われた通りの位置に猫の手を持って行き、


「こうかな? ニャン?」


 シャラン――


 小さく鳴った鈴の音をかき消すように、


「「「キィィヤアァァァ!!」」」


 阿鼻叫喚と形容したくなるような悲鳴が渦を巻いた。


「「「かわいーーーーっ!!」」」


 大丈夫か、この人たち?


 バタンと内扉が開いて、レモとユリアが駆け込んできた。


「なになに、どうしたのよ!?」




 ─ * ─




 白猫美少女と化したジュキを見て、レモとユリアはどんな反応を示すのか!?

 次回『ユリアのスカートめくり』に続く!

 誰が誰のスカートをめくるのか予想してお待ちください!


 猫ちゃんポーズをとらされるジュキのイメージイラストを近況ノートにUPしました!

https://kakuyomu.jp/users/Velvettino/news/16817330660978936923

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