第44話 結成パーティー

 ヴィヴィの家の居間に、俺とフラムとヴィヴィは集結した。なぜヴィヴィの家かというと一番設備がちゃんとしていたからだ。ヴィヴィはすでにキッチンも作ってあり、簡単な料理なら作れるようになっている。


 キッチンではヴィヴィとフラムがそれぞれ調理をしている。


「えーっと、ここでチーズを入れればいいのかしら……」


「ふんふんふーん♪」


 ぎこちない動きで調理するヴィヴィと、鼻歌交じりに鍋を掻きまわすフラム。

 香ばしい匂いと焦げ臭い匂いが同時に来たところで、玄関扉が開く音がした。


「おーっす。遅くなった」


 両手にジュースの入った瓶を持ってジョシュアが現れた。

 ジョシュアは真っすぐ俺の隣に来る。ちなみに椅子の数が足りないため、床に座って食べる形だ。


「ほー、女子2人が料理してんのか」

「ああ。そろそろ出来るかな」


 2人ほぼ同時に調理を終え、料理を持ってくる。

 ヴィヴィが持ってきたのはラザニアを入れるような長方形の厚底の皿。中には真っ黒な物体が詰まっている。微かにチーズのような色は見えるけど、なんだコレ。


 一方フラムはわかりやすい。カレーだ。スパイスの効いた良い匂いがする。横には輪切りにされたパンも添えてある。


「……ヴィヴィ嬢、これは一体なんだ?」


「み、見てわかるでしょ!」


「わからないから聞いてるんだろ」


 ヴィヴィは俯きつつ、小さな声で、


「……ラザニアよ」


 ラザニア……これが? 俺が知ってるラザニアの色とは随分かけ離れている。

 見た目で判断するのはダメか。とりあえず一口分よそって、皿に乗せる。フラムとジョシュアも同様にラザニア(?)を皿に乗せた。


 同時に口に運ぶ。


「ど、どうかしら?」


 苦い。酸っぱい。甘い。

 何だコレは……一言で言うなら、不快な味だ。

 意外だな。錬金術をあそこまで完璧にできるのだから、料理も上手いものだと思っていた。


 ジョシュアもフラムも苦い顔をしている。

 全員きっと頭の中で慰めの言葉を考えているのだろうが、口に広がる不快感のせいで思考が回らない。無言の間ができてしまった。


 ヴィヴィは俺たちの表情を見て、察したような顔をした。


「まずかったのね……」


「いやいやヴィヴィ嬢! これはアレだ、なぁ!」


 ジョシュアはフラムに目で救援を求める。


「こ、個性的な味ってだけだよ。ねぇ? イロハ」


「……お、おう。そうだな。好きな奴は好きかもな」


 下手な慰めは逆に人を傷つける、とヴィヴィの表情を見て思った。


「次! 次はフラム嬢のカレーを食ってみようぜ!」


 話を早々に切り替えるジョシュア。

 ジョシュアはパンにカレーをつけ、勢いよく口に突っ込んだ。


「むがっ!!」


 しかし、口に入れた瞬間、ジョシュアの顔が真っ赤に染まる。


「み、水! 水~~~!!」


 ジョシュアがその場で暴れ回る。俺は水の入ったコップをジョシュアに手渡す。

 ジョシュアは一気に水を飲み込んだ。


「かっっっっっら!!! フラム嬢、一体なにを入れたんだ!?」


「いやぁ、辛味は入れてないんだけどね。よくわからないけど、私が作る料理全部激辛になっちゃうんだ~。きっとマナの影響かな?」


「私の料理が変なのも、きっとマナの影響ね」


「なんでもマナのせいにするんじゃねぇ」


「仕方ねぇなぁもう。まだ食材余ってるんだろ? オレが料理を作る」


 ジョシュアがキッチンに移動して料理を始めた。迷いのない手つきだ。アイツが作ったイノシシ丼も美味しかったし、まぁ任せておいて大丈夫だろう。


 さて、俺の目の前には2つの失敗作がある。

 フラムもヴィヴィも明らかにシュンとしている。……仕方ない。


 俺はラザニアもカレーもよそって、混ぜ合わせて食べていく。


「イロハ君……」

「イロハ……」


「ん? カレーにラザニア混ぜると、結構いけるな」


 ラザニアの酸味・苦味・甘味がカレーの激辛を相殺してくれる。 

 それでもギリ食べれるというだけで、美味しいわけじゃない。


 2人の料理を半分ぐらいまで食べ進めたところで、ジョシュアの料理が運ばれてきた。鶏肉の串焼き、トマトサラダ、アクアパッツァ、フライドポテトの四品だ。どれも食うまでもなく美味しいとわかる。これに加えて、俺とフラムが買ってきたケーキが2つ。


 全員のコップにジュースが注がれ、パーティーの準備が整った。


「そんじゃ! 乾杯の挨拶を、我らが団長にお願いしようかね」


 そう言ってジョシュアはヴィヴィに目を向ける。

 ヴィヴィはコホンと咳払いし、


「みんなの尽力で無事、“オーロラフルーツの種”を造ることができ、ファクトリーを結成できました。これから先も大変なことがいっぱいあると思いますが……その……」


 ヴィヴィは言葉を詰まらせる。


「『全員一丸となって、頑張っていきましょう』――だろ? 団長」


 俺が言うと、ヴィヴィは「そんなこと言うつもりじゃなかったわ」と照れ臭そうに言う。


「それでは、ファクトリーの結成を祝って――乾杯」


「「「かんぱーい!」」」


 全員でコップをぶつけ合い、祝杯をあげる。


 俺は友情を感じない。

 俺は愛情を感じない。

 達成感も、喜びも、あらゆる感情は俺の『白銀の心』には芽生えない……はずだ。

 だけどいま、『楽しい』という感情が確かにある。

 その感情が『人造の心』に芽生えたものか、

 それとも『白銀の心』……本当の俺の心に芽生えたものか、


――答えはわからない。


 こうして俺の学園生活の序章は終わった。

 明日からは授業が始まり、本格的に学校というものが始まる。


 まだまだ俺の錬金術師物語は始まったばかりだ。

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【鑑定スキルなしの錬金術師物語】色彩能力者の錬金術師 空松蓮司 @karakarakara

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