第43話 フラスコ
イロハとフラムが買い物をしている頃、ジョシュアはとある家の中にいた。
豪邸だ。与えられた土地を全部活かしている。レンガ造りで、ファンシーな装飾があちこちになされている。その外観から、この家を作った生徒の錬金術師としての力量が窺える。
ジョシュアはリビングで豪奢な椅子に座っている。テーブルを挟んで反対側にはピンク色の髪で、赤い瞳の女子生徒が座っている。ヴィヴィやフラムに負けず劣らずの美少女だ。
「報告は以上だ」
ジョシュアは手に持った資料をテーブルに投げる。
「ご苦労様。ジョシュア」
「本当に疲れたぜ。まさかあそこまでヴィヴィがお転婆娘だったとはな」
「学校に潜入した“
「わかってるよ、ユリア嬢」
ユリアと呼ばれた少女はジョシュアより渡された資料に目を通す。
「イロハ=シロガネ……色彩能力者の錬金術師、ですか。あなたの報告だと戦闘力はほぼ皆無、なのに警戒度が高いのはなぜですか?」
「アイツの色彩能力は思ってた以上に厄介だ。アレに“虹の筆”が組み合わさるとさらにやばい。アイツがこれからもヴィヴィの味方をするなら、面倒なことこの上ないぜ」
「やけに高く評価しているのですね」
「……間近で見ればわかる。できればアイツが敵になるのは避けたいな」
「そうなると……どうにかして彼をヴィヴィから引き離す必要がある」
「ああ。どうすりゃいいかね?」
「彼がヴィヴィに固執する理由はなんなのですか?」
「さぁな。アイツが何を考えているか正直わからん」
ジョシュアはそう言って、小さく目を細めた。
「フラム=セイラ―については警戒度が低いですね。わたくしとしては、彼女の能力こそ恐ろしいと思いますけど」
「性格は至って普通の女の子だ。警戒する必要はない」
「そうですか。あとはコノハ=シロガネ……彼はやはり、警戒度が高いですね」
イロハの警戒度がB、フラムがEときて、コノハはAランクの警戒度になっている。
「錬金術の腕はもちろん、アイツの立ち振る舞いには一切隙がなかった。ありゃ武術の心得があるな。あと隣に居たメイド……あの女は多分ホムンクルスだ。首に“23044”と識別番号みたいなのが見えた。常にコノハの死角を警戒していて、2人が揃うとマジで隙がねぇ」
「でも、別に彼はヴィヴィの味方というわけではないのでしょう?」
「まぁな。だけど、ヴィヴィのことは気に入っている様子だったぜ。あくまで、俺たち4人の中ではの話だけどな」
ジョシュアは報告を終えたところで立ち上がる。
「それじゃそろそろ失礼するよユリア嬢。このあとパーティーがあるんでな」
立ち去ろうとするジョシュアの背中を、ユリアは怪訝な目で見る。
「ジョシュア。くれぐれも、我々の目的をお忘れなきよう」
ジョシュアは足を止める。
「必ずやグランデ伯爵はヴィヴィと接触する。いずれ、必ず。我々の目的はそのタイミングを逃さず、グランデ伯爵を――」
「わかってるよ」
ジョシュアは再び歩み始める。
「グランデ親子は――俺が殺す」
そう言い残し、ジョシュアは家を出た。
「……彼の憎しみも、根深いものですね」
くすりと笑い、ユリアは手元の資料――イロハの資料を手に取る。
「イロハ=シロガネ。あらゆる色を判別できる目を持つ出生不明の謎の少年。彼の存在が、わたくしたちの利として働くか、それとも――」
ユリアは不敵な笑みと共に、イロハの資料を破り捨てた。
「『間近で見ればわかる』、ですか。ふふっ、お会いしたいものですね」
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