別れの冷眼
僕は非常に悩んでいる。
午後十時にもなって僕は携帯電話で先輩に悩みを打ち明けた。
「いやあ、驚いたよ。まさかこんな時間に電話をしてくるなんて。いやいや、別に構わないけれど、珍しいと思ってね。それで、どうしたの?
なるほど。つまり君は、その女の子のことが好きで、会うことを繰り返して仲良くなったと感じているが、告白することを躊躇っているわけだ。うん、実に思春期らしい悩みだね。まあ、ひとつ僕の話を聞いてくれよ。
僕は高校生の頃、好きな女の子がいたのさ。君と同じように少しずつアプローチして距離を縮めたもんだ。ハルっていう子でね、結構おとなしくて、会話が発展するかドキドキもしたけれど、言葉にせずとも、お互い想い合っていると認識できるくらいの関係になれたよ。
でもね、僕にはもう一人、気になっていた子がいたんだ。その子はレイコといって、ハルとは対照的に活発で少し男慣れした雰囲気があったよ。
それで僕は二人を天秤にかけるようになったんだ。次第にレイコといる時間が増えたんだけれど、彼女の部活が忙しくなって暫く会えない時期があったんだ。
その間、僕はまたハルと会って話すようになったんだけれど、ある日の放課後、彼女と一緒に帰り道を歩いていても、全く話は盛り上がらないし、どこか寂しげな空気を感じたんだ。別れ際に『じゃあね』と言い合った時の、彼女の疑念と冷淡さを含んだ眼は、僕たちの関係が破滅に向かっていることを気づかせるのに十分だったよ。
レイコはどうなったって? 彼女は他の男を彼氏にしたよ。レイコにとって僕は、天秤にかけた男のうちの一人だったんだろうね。
君、躊躇っちゃあいけないよ。曖昧な態度は相手を不安にさせる。もちろん、告白するのは勇気の要ることだよ。でも機会を逃したら、取り返しがつかない。
愚かな先輩のアドバイスは以上だ。とはいえ、こんな話、アドバイスにもならないか。
まあ、健闘を祈るよ」
藤谷江短編集 藤谷江 @fujitani017
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