神様実験

結騎 了

#365日ショートショート 322

「地球人は知能が低すぎるのだろうか。全く意味が分からない」

 ジニス星人の個体Aは、手首(と思われる箇所)をぶるぶると振り回した。地球の慣用句における「頭を抱える」に相当する仕草だ。

 個体Bが近づく。

「そういえば、地球人と接触する実験をしているんだったか。いったいどうしたんだい」

 個体Aは嘆くような表情を見せた。

「例の、ほら。神様実験だよ。科学技術が我々より数段も劣る星に出向いて、神様に扮して技術をくれてやるんだ。それへの反応を観察して、データを取る」

「なるほど。それで、なにをくれてやったんだい」

「薬だよ」。個体Aはひとつの錠剤を取り出した。「この錠剤にある効果を付与する、と伝えたんだ。ただし、飲んだ際の効果は二者択一。神様に扮した私が提示したふたつの効果のうち、地球人がどちらを選ぶのか。それを観察したくてね」

 その錠剤は、地球におけるかぜ薬のような見た目をしていた。

「そういう場合、セオリーとしては……」。個体Bは受け取った錠剤をしげしげと眺めながら、「その星で最も死者を出している難病の特効薬、ということになるな」

「そうだろう、そうだろう。私も同じことを考えた。この錠剤は、中身がなにであれ飲めばものの1分で効果を発揮する。私の調べによると、地球人を最も苦しめている難病はガンというらしい。つまり、ガンの特効薬を作ったのだ」

「いいじゃないか」

「だろう。だから、もうひとつの選択肢は、まさかこれは選ばないだろうという馬鹿馬鹿しいものを用意した。こちらの都合の実験とはいえ、ガンの特効薬なんて彼らには衝撃的な代物だ。まあ、温情のようなものさ」

 個体Bはしばらく考え込んで。「なるほど。つまり地球人は、その馬鹿馬鹿しい選択肢を選んだのだな。言ってみろ、内容を」

 個体Aは目をぐるりと回した。

「飲めば、風呂に入ったことになっている薬だよ。全身が綺麗に洗われていて、化粧も落とされ、髪まで一度に乾くんだ」

 2体のジニス星人は、手首をぶるぶると振り回した。

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神様実験 結騎 了 @slinky_dog_s11

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