【短編】異世界で二郎系ラーメンを作ったら ~どんな強敵も美少女もこの味には勝てず、みんなが僕の奴隷と化す~

加瀬詠希

異世界で二郎系ラーメンを作ったら ~どんな強敵も美少女もこの味には勝てず、みんなが僕の奴隷と化す~

「あんたさあ、敵にトドメを刺せないんだったら、今すぐこの勇者パーティーから出ていってほしいんだけど」


女戦士のエロイザは、くびれた腰に両手を置き、仁王立ちしてそういった。

彼女だけじゃない。

他の3人の男性メンバーからも、さんざんないわれようだ。


「ジーロの性格は勇者に向いてないよ。取り柄は料理がうまいぐらいだな」

「腕力もないし、魔力もない。おまけに肝心の勇気もないときてる」

「今まで一緒にいてやったのは、ジーロの飼ってる小魔獣が強いからだぞ」


そうなのだ。

俺には腕力も魔力もないが、その代わりに、心強い相棒のポコタンがいる。


ポコタンは非常に珍しい種類の小魔獣で、強力な攻撃魔法を使うことができる。

体長は40センチほど。

子ダヌキみたいな可愛らしい見た目をしているが、れっきとした小魔獣だ。


僕は、すり寄ってきたポコタンを抱っこして、頭をなででやった。


「そのポコタンが問題なのよ!」


再びエロイザが口を開いた。

だが、これには、温和な僕も反論するしかない。


「なぜですか? ポコタンの魔力のおかげで、僕たちは何度も何度も、大ピンチを乗り越えてきたじゃないですか!」


「エロすぎるのよ!」


一瞬、その場が凍りついた。


勇者のくせに、異常に面積の小さなブラジャーとパンツしか身にまとっていない、やたらと肌色の部分が多いエロイザ。

おまえが、それをいうか! というツッコミが、全員の頭をよぎったからに違いない。


しかし、とりあえず今はエロイザのコスチュームの話を脇に置いておくことにしたのか、すぐに3人は同意した。


「確かに」

「確かに」

「確かに」


エロイザが続ける。


「そのエロ魔獣、あたしがシャワーを浴びてるとき、毎晩ノゾキにくるのよ! 昨日なんか、寝ているときにベッドに忍び込んできて、胸をなめたのよ!」


「なにっ」

「うらやま……」

「エロすぎる!」


僕は腕の中に抱いているポコタンにたずねた。


「ポコタン、それ本当ですか?」


「うう……ポコはちょっと、魔が差しただけポコ」


ポコタンは人間の言葉を話すことができる。


ケガをした野生のポコタンを保護したときは、もちろんしゃべれなかったが、人間と同等の知能をもつポコタンは、あっというまに言葉をマスターしてしまった。


「有罪!」

「ギルティー!」

「追放だ!」


「ポコタン、確かにそれはやりすぎだと思います。……仕方ありません。みなさん、さようなら。お世話になりました」


そんなわけで、僕はポコタンとともに勇者パーティーに背を向けたのだった。

ここから家まで歩くと、いったい何日かかるのかな。


   *


あれから5日ほどが経った。

僕たちは、長い帰郷の道のりにうんざりしていた。


「ポコタン、あと6つ山を越えれば家に着きますよ!」


「あと何日ぐらいかかるポコ?」


「がんばれば、たぶん4日ぐらい……でしょうか」


「そんなに歩けないポコ! 昨日から何も食べてないポコ!」


「しかたがありませんよ。このへんには、食べられそうな動植物がありませんから。でも、あの山に登ればきっと何か……」


「あっ、あそこに何か建てものがあるポコ!」


「まさか、こんな辺境に民家が? ……あっ!」


近づいてみると、それは料理店のようだった。

今にもつぶれそうな古い店だが、この際、ゼイタクはいっていられない。


「ごめんくださーい」


のぞいてみると、中は真っ暗だった。


「誰もいないポコ」


「そうみたいだね。でも、ひょっとしたら何か食べものが残っているかも」


僕たちは店内に足を踏み入れた。


「誰じゃ!」


しわがれた老人の声に一喝されて、僕たちは震え上がった。


「ご……ごめんなさい。このお店、あいているんですか?」


「なんじゃ、客か? 久しぶりじゃの」


老人がロウソクに火をともすと、古びてはいるが、いちおう料理店らしい内装になっていることがわかった。


老人はおそらく85歳前後だろう。

足腰は比較的しっかりしているようだが、はげ上がった頭と長い白ひげ、そして顔や手足に深く刻まれたシワの一本一本が生きてきた年月の長さを物語っていた。


「メニューはありますか?」


「そんなものはない。客などめったに来んから、その日に捕れた獲物を料理するだけじゃ」


「今日は何があるんですか? 僕たち、お腹がすいているんです」


「おまえは運がいい。今朝、山に登って捕まえた小魔獣の肉がある。ステーキにするか?」


「小魔獣ですって!? まさか、その小魔獣って、こんな子じゃないですよね?」


足元に隠れていたポコタンを抱き上げて、僕は老人に見せた。


「なんだ、タヌキか。もっと、ずっと上等な肉じゃ。コラゴンじゃよ」


コラゴンとは、龍の中で最も小さな種類の1つだ。

ドラゴンの肉ほどではないが、そこそこ高級な部類に入る。


「タヌキじゃないポコ!」


「タ……タヌキがしゃべった!?」


「おじいさん、これはポコタン。なんという種類の小魔獣かは、わからないんですけど」


「ふうむ……。確かにタヌキとは少し違うようじゃ。しかも人間の言葉を解するとは……。長生きはしてみるもんじゃのう」


「おじいさん、ぜひコラゴンのステーキをいただきたいところですが、あいにく僕たち、あまりお金を持っていないんです」


「カネなんぞ、気持ち程度で構わんよ。……いや、カネはいらん」


「えっ!? タダですか!?」


どう見ても金持ちではなさそうだが、なぜこの老人はそんなに気前がいいのだろう。

不思議に思ったが、今は空腹を満たすほうが先決だ。


しばらくすると、ジュージューと肉が焼ける音とともに、2皿のステーキが運ばれてきた。

1つはポンポコが食べやすいように、細切れにしてあった。


「うまそー!」

「いいにおいポコ!」


待ってましたとばかりに、僕たちは無言でステーキにがっついた。

久しぶりに食べる肉の味は格別だ。


「あー、おいしかった。おじいさん、ごちそうさま」

「うまかったポコ!」


「そりゃよかった。ところで少年、見たところ戦士のようじゃな。これから魔王のところへ向かうのか?」


「いいえ、その逆です。勇者パーティーを追放されてしまって」


「それは難儀じゃったの。じゃが、なぜ追放された?」


「僕、気が弱いので、勇者に向いていなかったんです」


ポコタンがしでかした変態行為については、この際、伏せておこう。


「気が弱い、とな。だったら、そもそもなぜ勇者になったんじゃ?」


「それはもちろん、魔王を倒すためです。あいつが税金と称して、国民の稼いだお金の大半を持っていくので、みんな困っています」


「なるほど、世直しのためというわけか。感心じゃな。いっそのこと、この世にカネなんかなければいいのにのう」


「うーん……。それはそれで不便なんじゃないでしょうか。ところで、おじいさんはなぜ、こんなところでお店を開いているんですか? 街の中で商売したほうが儲かるでしょう?」


「カネはいらん。わしはカネが憎いんじゃ。カネなんていうものがなければ、わしは死なずに済んだんじゃ」


「えっ? おじいさん、生きてるじゃないですか」


「前世の話じゃ。わしの前世はインスパイア系のラーメン店主じゃった。じゃが、なかなか本家の味に近づけなくてのう。ついに客足が途絶え、無一文になってしもうた。嫁も子どもも去っていった。絶望したわしは……人生を終わりにしたんじゃ」


ここまで聞くと、さすがに僕は老人の話を信用できなくなってきた。


前世を信じるぐらいのことなら、お年寄りにはありがちだが、インスパ──とか、ラーメン? とか、もはや単語の意味すらわからない。


おそらく家族を失ったショックが強すぎて、彼は妄想を抱いて生きているのだろう。


「このおじいさん、ボケちゃってるポコ?」


「しっ! じゃ、じゃあ、僕たちはそろそろ出発します。日が暮れる前に、山を1つ越えたいので」


「そうか。これからどうするつもりじゃ?」


「家に帰って、おじいさんのように料理店でも開こうかな。僕、こう見えても料理だけは得意なんです」


「ふうむ……。ちょっと待て」


老人は店の奥から1枚の紙きれをもってきて、僕に手渡した。


「なんですか、これ?」


「インスパイア系ラーメンのレシピじゃ」


「え……。そのインスパイアとかラーメンとかって、いったい何なんですか?」


「この通りに作ってみればわかる。料理が得意なら作れるじゃろう」


「でもこれ、あんまり売れなかったんでしょう?」


「前世では、な。じゃが、この世界に転生してから改良に改良を重ねて、すでに究極のインスパイア系ラーメンのレシピは完成しておる。元祖にもひけをとらない味じゃ。しかも材料は、すべてこの世界の食物で代用できるように置きかえてある」


転生とか元祖とか、もう何をいってるんだか、わけがわからない。


「はあ……そうなんですか。じゃあ、試しに作ってみますね。ありがとうございます」


もはや老人のたわ言であるが、タダで食事を振る舞ってもらった恩があるので、いちおう社交辞令で返しておいた。


老人の料理店を出発してから4日間、僕らはひたすら歩き続けた。


道中に見つけた民家でお世話になったこともあったが、ポコタンが水浴びをしていた女の子に抱きついたり、下着を盗もうとしたりするので、長居はできなかった。


ともあれ、なんとか無事に帰郷することができた。


   *


「ただいま!」


帰宅すると、母が抱きしめてくれた。


「おかえりジーロ、ポコタン。よく無事で帰ってきたね」


「うん。お母さん、元気だった? お父さんは?」


「もちろん私は元気よ。お父さんは畑仕事」


わが家は代々続く、貧しい農家である。

うちの家系で戦士になった者はいない。


僕が物心ついて、村のみんなが貧乏暮らしを余儀なくされている原因が魔王だと理解できるようになったころ、ポコタンと出会った。


ポコタンの力を借りて勇者パーティーに入れば、ひょっとして魔王を倒せるかもしれない。

僕は「おまえには無理だ」という両親の反対を押し切って、冒険の旅に出たのだった。


しかし、結果はご存じのとおり。


お母さんも薄々わかっているみたいで、旅先のことはいっさい聞いてこない。

ただ、「無事でよかった」と、うれしそうにくり返すだけだった。


「ジーロ、とりあえずその汚い服を脱いで、水浴びしてきなさい」


「はーい」


わが家は小川のほとりにある。

ポコタンと一緒に小川で水浴びをして帰ると、お母さんがたずねた。


「何、この紙? 上着のポケットに入ってたわよ」


「ああ、旅の途中でもらったんです。何かの料理のレシピらしいけど、捨てていいですよ」


「ふうん……。究極の……インスパイア系ラーメン? 材料は……あら。うちで作っているコムーギやモヤーシが使えるから、けっこう簡単に作れそうよ」


「そうなんですか? じゃあ、試しに作ってみようかな。料理店を開くとき、メニューの1つにできるかもしれませんしね」


「そうね。あなたには勇者より、コックさんのほうがお似合いよ」


「僕もそう思います」


   *


翌日、妙に早起きしてしまった僕は、ヒマつぶしにラーメンなるものを作ってみた。


「できましたよ、ポコタン!」


「な……なんだこりゃ? ただのモヤーシの大盛りポコ」


「違いますよ。大量のモヤーシの下に、コムーギで作ったメンというものが隠れてるんです」


「あ、本当だポコ。太めのヒモみたいなものが、茶色いスープにひたってるポコ」


「そのスープを作るのがけっこう大変だったんですよ。まあ、食べてみてください」


「匂いは……意外といい匂いポコ」


「でしょう? さあ、食べて食べて」


「ジーロ、味見はしたポコ?」


「いいえ」


「なんで!?」


「まずかったらイヤですから」


「ポコは実験台じゃないポコ!」


ドンドンドン!


そのとき、突然ドアをノックする音がした。


「どなたですか?」


「ジーロ! ジーロ!」


聞き覚えのある声だった。

僕は急いでドアを開けた。


そこには、号泣する少女の姿があった。


「マドロラ! どうしたの!? とりあえず中に入って!」


僕は彼女を自分の部屋に引き入れ、腰かけさせた。


「マドロラ、落ち着きましたか?」


「うん」


「いったい何があったんですか?」


「今月、お金が足りなくて、パパがダイカーンのところに、借金の返済を少し待ってほしいってお願いにいったの。そしたら、私がダイカーンの妻になったら待ってやるって……」


「なんだって!? マドロラはまだ12歳じゃないか! しかもダイカーンはもう結婚してるだろ!」


ダイカーンは、この村では悪名高い、「金貸し」だ。

貧乏な村人にお金を貸して、高い利子をつけて儲けている。


「奥さんは50人以上いるって」


「なんだって!?」


近所に住むマドロラは、僕の幼なじみ。

2つ歳下なので、実の妹みたいな存在だ。


「安心して、マドロラ。僕が君を守ります。ダイカーンと交渉してきます」


「危ないわ! ダイカーンに何をされるか……!」


「大丈夫。僕にはポコタンがいます。ポコタン! ……あれ? ポコタン!」


返事をしないので、居間に行ってみるとポコタンがいた。


「なんだ、いるんじゃないですか。返事ぐらいしてくださいよ。マドロラが大変なことに……ん?」


「ぐへへ……。ウマウマ。あの料理を、あれをもっとくれポコ~」


見れば、ラーメンの器が空である。


「ポコタン、全部食べたんですか! おいしかったですか?」


「うまい! もっとくれポコ! もっと!」


「よっぽどおいしかったんですね。スープは少し残ってますが、あいにくメンを1人分しか作ってないんですよ」


「ポコ!? スープだけじゃダメポコ! あの太いメンとスープが絡んで、絶妙な味わいになるポコ! メンを作るポコ! 今すぐに!」


「今度また作ってあげますから。今はそれどころじゃないんです。マドロラが……」


「今すぐ作るポコ! なんでも! あの料理をくれるなら、ポコはなんでもするポコ!」


「そんなことをいわれても……。困ったな。じゃあ、こうしましょう。これから一緒にダイカーンと話し合いにいきます。話し合いがうまくいったら、あの料理を作ってあげますから」


「わかったポコ! 今すぐ行くポコ!」


なんだかポコタンのようすがおかしい気がするが、今はダイカーンに会うのが先決だ。


「マドロラは僕の家にいるといい。じゃあ、行ってきます!」


僕とポコタンは、村の中心部にあるダイカーンの屋敷に向かった。


   *


屋敷というより、もはや巨城だ。

よっぽど金貸しで儲けているらしい。


大きな門の前まで来ると、衛兵が近づいてきた。


「おいキサマ! ダイカーン様の屋敷に何の用だ?」


「ダイカーンさんにお話があるんです。マドロラのことで」


衛兵は僕とポコタンのことをジロジロと見て、いった。


「ここはおまえのような庶民の来る場所ではない。帰れ」


「帰れません。力ずくでも中に入ります」


「なんだとォ? おまえ死にたいのか?」


衛兵はすらりと剣を抜いた。


「問答無用というわけですか。だったら仕方がありませんね。ちょっと気絶しててもらいましょうか。ポコタン、みねうち!」


ポコタンの攻撃魔法は強力である。


どんな魔法が出るか、ランダムなのが玉にキズだが、よほどの強者でない限りは一撃で倒してしまうほどの威力がある、すごい攻撃ばかりだ。


この衛兵をちょっと気絶させるぐらい、ポコタンにとっては朝メシ前だろう。


……あれ? ポコタンが攻撃しない。

何をやってるんだ?


ポコタンは何かひとり言をつぶやいていた。


「いんすぱいあ~♪ らーめん~♪ うふっふっふ~♪」


症状が悪化している!


「ポコタン! ポコタン! しっかりしてください!」


「うふっふ~♪」


ダメだこりゃ!

ポコタンが使いものにならない!

となると……。


「降参します」


僕たちは衛兵に捕らえられてしまった。


   *


「あれ? ここはどこポコ?」


「やっと正気に戻りましたか。ここはダイカーンの屋敷の地下牢です」


「ポコ!? なんで捕まってるポコ!?」


「話すと長くなりますが、一言でいうと、ずばりポコタンのせいです」


「人のせいにするなポコ!」


不毛な口ゲンカをしていると、さっきとは別の衛兵が現れた。


「おい、静かにしろ!」


「衛兵さん! 僕たちはどうなるんですか?」


「それを伝えに来た。ダイカーン様は寛大なお方だ。今すぐ死刑になるか、ここで一生奴隷として働くか、どちらか好きなほうを選んでよいとの仰せだ」


「ポコ!? なにその究極の選択! どっちも地獄ポコ!」


「そうですよ! 僕たちはただ話し合いに来ただけなのに!」


「うるさい! 死ぬのか!? 奴隷になるのか!?」


「はい……奴隷でお願いします」


しばらくすると、僕たちは地下牢から出ることだけは許された。

でも足かせをつけられているので、まさに奴隷だ。


衛兵にいわれるがまま、重い足かせを引きずって2階の大広間に行くと、ダイカーンがいた。

ダイカーンは噂に違わぬ醜い容貌の魔物だった。


あなたの知っている一番醜い顔を思い浮かべてほしい。

その顔を100万回ほど全力でパンチして腫れ上がった顔──それがダイカーンの顔だと思えば、ほぼ間違いない。

こんなやつにマドロラが嫁ぐなんて、絶対に許せない。


「ジーロとかいったな。小僧、仕事は何ができる?」


「特技は……料理ぐらいです。あの、マドロラのことなんですが……」


「ほう。では、さっそく今日の夕食を作ってみろ。まずかったら殺す。話は以上だ」


次に衛兵に連れて行かれたのは巨大な厨房だった。


「夕食は今から1時間後だ。すぐに取りかかれ。材料は、ここにあるものをどれでも使っていい」


「さてポコタン、どうしましょうか」


「やることは決まってるポコ」


「そうですね。僕も同じことを考えていました」


さすがはダイカーンの屋敷の厨房。

必要な材料はすべて揃っていた。


「できました!」


僕はできあがった例の料理──究極のインスパイア系ラーメンをダイカーンに差し出した。


「なんだこれは? ただのモヤーシの山盛りではないか! 死にたいのか!」


「よく見てください。モヤーシの下に、メンとスープが隠れています」


「メンとは何だ? なんだ、このヒモみたいなものは!」


「まずはご賞味あれ」


「そこまでいうなら食ってやろう。毒を入れても無駄だからな。わしの体には、毒消しの魔法をかけてある」


ダイカーンはスープをひと口すすった。


「う……うまい!」


続いてメンをズルズル。


「な……なんだ、この絶妙の歯ごたえと味は!?」


気がつくと、あっというまに完食していた。


「おい、おかわりをもってこい! 早く!」


ダイカーンの目はうつろだ。

狙いどおり、さっきのポコタンと同じ症状が出ている。


やはりこの料理には、おそるべき中毒性があるのだ。


僕はおもむろに答えた。


「残念ながら、もうありません」


「だったら、早く作れ! 今すぐだ!」


「いやです」


「な……なんだと!?」


「どうしても食べたいなら、マドロラとの婚約を破棄してください。それと、ついでに借金もチャラにしてください。もちろん、僕たちは自由にしてくださいね」


「バ……バカをいえ!」


「あの料理を食べたくないんですか?」


「ぐっ……わ、わかった。いうとおりにする」


「約束ですよ。じゃあ、ここに一筆したためてください」


ダイカーンは震える手で契約書にサインした。


婚約破棄と借金棒引きの契約書を手に入れた僕は、もう一杯ラーメンを作ってやって、すぐに屋敷をあとにした。


   *


「ただいま! マドロラ! うまくいきました! ……マドロラ?」


吉報を聞いてマドロラが飛び出してくると思ったが、うちの中はしんと静まり返っていた。


「ポコ? この匂いは……」


居間へ進むと、テーブルに突っ伏していたマドロラが首をもたげた。


「おかへりなひゃい、ジーロ」


「マドロラ、どうしたんですか?」


「あひゃひゃ。お腹へっちゃって、ご両親が出かけている間に、こっそりスープをちょっとだけ、いただいてたのひゃ」


鍋をのぞくと、中は空になっていた。


「あのスープを飲んだんですか! しかも全部!?」


「ジーロひゃん。もっとスープくだひゃい。あたし何でもサービスしますよ。うふふ~」


マドロラは着ていた服を脱いで、下着姿になってしまった。


「ちょ、マドロラ! 待ってください!」


マドロラの暴走は止まらない。

僕に飛びかかってキスをしてきた。


「うっく!? ポコタン! 助けて!」


「ポコーッ! もっと脱ぐポコ!」


だめだこりゃ。

究極のインスパイア系ラーメン、おそるべし。


マドロラに押し倒されながら、僕は思った。

でも、この料理を使えば、もしかしたら魔王を倒すことさえも……。


【了】

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【短編】異世界で二郎系ラーメンを作ったら ~どんな強敵も美少女もこの味には勝てず、みんなが僕の奴隷と化す~ 加瀬詠希 @KASE_YOMIKI

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