500字ショートストーリー

わんこそば

コツコツと妙に整った歩く音が鼓膜を叩く。

それはリーマンの出勤のような雑多な音と言うより、行進や行軍といったある種の集団行動に近い。

みなかかとを鳴らして、歩いている。


僕が気づいたのは、ふと立ち止まった時だ。

妙な違和感を感じて見渡すと、僕と同じように靴音を鳴らしながら歩く人が大勢いた。

見える範囲では地平線の向こうまで続いていた。

みな疑問を抱いている様子は無く、声をかけても返事は無い。

まるで僕だけが置いてきぼりにされた気分だった。


仲間外れは嫌だと列に並び直そうとすると、後ろからやってきた人に、邪魔だと言わんばかりの勢いで弾かれた。

カッとなって怒鳴ろうと思い、弾き飛ばした人の肩を掴んだ。

だと言うのに僕をいないように扱い、その足は止める事は無い。

今度は顔を見てやろうとその人の前に立ち塞がった。

どうだとしたり顔でその人を見た時、頭に殴られたような衝撃が走った。


その人の顔は死者のようだった。

片方の目は欠け、頭蓋骨から飛び出したそれは蜘蛛の糸の様に垂れている。

その人だけじゃ無く、列に並ぶものは似たような酷い有り様だった。

ふと僕の体を見た時、地に着いているべき両足はなかった。

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500字ショートストーリー わんこそば @wanko_soba

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