第3話
「で? 何をしていたんだ? 貴様は」
まただよ。同じような展開。まぁ国王殴ってないから大丈夫だと思うんだけどさ。
俺はとある一家の家に転送させられたらしい。
裸で。もうお決まりになりつつあるこの展開にうんざりしながらも、適当に今自分を問い詰めている男に受け答えする。ましになったとはいえ、裸で突然現れるなんて、変質者以外の何者でもない。
そんな訳だ。絶賛取り調べ中ってこと。冒険者教会で。この世界における冒険者は日本で言う警察のような役割もあるらしい。まだ2回目だけど、正直1回目が衝撃的過ぎてそこまで緊張していない。こらがベテランの落ち着き......
「聞いているのか!」
「はい!」
「まったく......答えるつもりがないのならそれでもいい。幸い、お前が侵入した家の住人の方もそこまで気にしてはいない。慰謝料の要求はそれも少額だ。よかったな」
どうやら、俺が侵入した家の住人は優しかったようだ。これなら何とか......何とか......
あれ? 慰謝料?
「え、慰謝料っすか、マジですか」
「何言ってんだお前。当たり前だろうが」
「いや、でも俺、お金持ってないですよ」
いまだに服すら着させてくれないのだ。神様が多少ましになったとは言っていたが、おそらく手持ちは何もないままなのだろう。お金も少しも持っていないはずだ。
お金がないと言った辺りから俺を尋問している奴は開いた口がふさがらないといった顔をして俺を見る。てか、普通に口開けてるし。
「ほんと、少しもないんですよ」
「まて、まてまてまて」
「何ですか」
「普通少しくらいはあるだろ?」
「裸で急に他人の家に出没する人が普通ですか?」
しばらくの沈黙。もう自虐ネタでしかない。こうなればヤケクソだ。裸で一文無しで何が悪い。
「まぁ、それもそうか」
「そうですよ」
「しかし、慰謝料はきちんと払ってもらわなくてはな......。そうだ、貴様、うちで短期間だけ働かないか?」
はい来た。絶対そうなると思ったよ。それしか解決策ないもんね。こんな変質者、冒険者教会以外で雇ってくれる所なんてないだろうし。
冒険者、なんていい響きだ。ここから始まるんだ、俺の異世界生活は。
「仕事内容は、キッチン補助、掃除・洗濯とか、まぁ雑用だな。給料はあまり出すこととは出来ないが、」
「違うだろ!」
男の話に割って入り、そう叫ぶと、男は一瞬ビクッとしたが、徐々に顔をこわばらせていく。
「何が違う」
「ここ冒険者教会だろ? 何で冒険者として雇わないんだよ⁉」
「いや、お前。自分のステータス見てそれ言ってんのか」
え? 何言ってんだこいつと一瞬思ったのも束の間、そういやオールステータス1以下だったと思い出した。
だめだ、あの自称神様のジジイのせいで俺が思い描く異世界生活が何一つできない。冒険者やらないでただ雑用しかしない異世界転生って......まだ転生前のほうがましだったかもしれない。
急に黙り込んだ俺を見て、男は悲しそうな顔をしていた。
「そういえばそうでしたね」
「いや、多分お前のコンプレックスなんだと思う。すまなかったな。逆にお前みたいなステータス、俺も初めて見たぞ、元気出せよ」
「そっすか......」
気まずい空気が流れる。正直なところ、もう日本に戻りたいと思い始めていた。だってそうだろ? 頼れる人いないし、俺クソ雑魚だし。
日本には、何のスキルも魔法も持っていなくても、持ち前の知識をフル活用し異世界で大出世、大活躍するという異世界モノも存在していたが、俺にはそんな知識はない。この世界で地道に生きていくしかないのだ。
「とりあえず、うちで少しの間働けよ。制服もあるからな、その格好も何とかなるぞ」
男はそう言い、そそくさと部屋を出て行った。
ていうか、今思い出した。すっかりこの姿に慣れてたから気にもしていなかったが......
俺、まだ裸じゃねぇか......
テンプレに絶対させたくない神様によるテンプレに沿った冒険がしたい男の異世界生活 オグリ @ponpokp
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