第2話
人生は甘くない。それを俺は今実感している。
「あー! 貴様! なぜ王宮にいるのだ!」
そう、今俺は王宮の小さな一室にいる。そして鼻の穴が妙に大きいおっさんが更に鼻を大きくさせ、怒鳴られている。
何をしているかと聞かれれば、これはあれだ。
取り調べってやつ。カツ丼おせぇな。まだかな? カツ丼。
「貴様! 何か言ったらどうなんだ⁉︎ 一般人が安易に立ち入っていい場所ではないんだぞ⁉︎」
そんなの俺に言われても困る。ジジイが勝手にやったことだからな。普通、人里離れた森とかだろ。何で王宮なんだよ。意味分かんないよ。
だが、意味のわからない要素はもう一つある。
「そもそもだ、貴様......なぜ裸なのだ......」
そう、裸なのだ。
何でだよ。おかしいだろ。服くらい着せろよ。
貴様にやるものはないという神様の言葉には服も該当するという事をついさっき知った。
王宮の最も大事な場所、王室で俺はすっぽんぽんで国王を殴り飛ばしたということだ。
もう駄目だ、お終いだ。どうやってここから挽回すればいい。
頭上からはため息が聞こえて来る。
「......明日もう一度取り調べを行う。それまで牢屋で頭でも冷やすんだな」
おっさんはそう言うと部屋から出て行ってしまった。てか、服くらい寄越せよ。何で裸のままなんだよ。そこもおかしいだろ。風邪ひくぞ、畜生......。
カツ丼無かったし......
牢屋に放り投げられた後からは特にすることも無かった。今まで読んできた異世界転生小説や漫画によくある要素で『ステータス』というものがあったが、この世界にもあるらしい。
退屈凌ぎに俺が出来ることを探しているうち、「ステータス」と言うと自らのステータスが宙に表示される様だ。それによると俺は、
名前:あああああ
攻撃力:1
防御力:1
魔法:0
<スキル>
翻訳
<称号>
無し
だそうだ。
あれ? 名前おかしくない? これあれじゃん、ゲームとかで名前考えるのが面倒くて適当に付ける時によく使われるやつじゃん。
そういえば、取り調べのおっさん、たまに「あー!」って叫んでて、頭おかしいのかなと思ってたけど、俺の名前呼んでたのか......。
他人のステータスを見ることが出来るのかと思いはしたが、どうやら普通は見れないらしい。という事は、おっさんのスキルという事だ。
よく聞く『鑑定』とかそういう類のものだろう。
俺のスキルは『翻訳』のみ。クソ雑魚スキルを応用して最強になるというテンプレも日本には存在したが、翻訳に関しては応用もクソもない。
最強の目は
よし、逃げよう! もうそれしかない。
牢屋は意外にもお粗末な設備であり、鉄格子ではなく、木を使っていた。これなら簡単に脱出出来る。この牢屋に何か切れそうな物は......
ないよねぇ。いや、普通に考えてある訳ないし。しょうがない。なる様になるか。流石に死にはしないだろう。
と思っていた時もありました。
「死刑!」
翌日の取り調べは、王室で行われた。裸のまま。そして唐突の国王の死刑判決。まだ取り調べ始まってすらいなかったのに、国王が即死刑判決しやがった。
「いやぁ、ちょっと急すぎません?」
「いや、貴様は死刑だ。先の余への侮辱行為、万死に値する!」
「それ、いつですか?」
俺が恐る恐る顔を国王に向けると、蓄えた頬の脂肪を口で思いっきり引き伸ばし、にっこり笑うと、
「今」
と言った。「えっ」と言ったかもしれないし、言ってないかもしれないが、国王が「今」と言った瞬間、俺は意識を失った。
次に意識を取り戻した時にいたのは、見慣れた光景、一面霧しかない空間、そして砂漠の中のサボテン
「その例えやめんか」
「いやいやいや、おかしいでしょ! 何もしてねぇよ! どうなってんの?」
「うーむ、ちょっとやりすぎたわい、反省しておる」
「あのさぁ、あんたが次の人生も大切にって言ったんだぞ? 何一瞬で終わらせてんの?」
「分かっておる、次はちゃんとやるわい」
「次? じゃあもう一回転生できるのか!」
「無論じゃ。まさか1日も経たずにここに帰って来るとは思わんからな。もうちょいマシな転生にしてやるわい」
ジジイはそう言うと、俺に向かって手のひらを向けた。
マジで頼むからな。
全てをジジイに任せ、俺は目を瞑る。
次の瞬間、耳の中に入ってきたのはいつか聞いた、叫び声や金切り声、そして「何やってるんだお前!」という言葉。
恐る恐る目を開けた先に広がっていた景色は、飛びかかろうとしている男に、大人の女が2人の少年少女の手を引き奥の部屋に逃げ込もうとしている、という物だった。
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