ボクと契約して踏み台になってよ!
(スライムなんてザッコザコ。余裕でレベルアップだ!……そう考えていた時期が、俺にもありました)
やってきました近場の洞窟。
この洞窟の奥には、いつ作られたのかは不明だけど、ちょっとした祭壇があり、その祭壇近くでめったに手に入ることはないけど、運が良ければ珍しい宝石が拾えるらしい。
こういう設定、昔ハマったゲーム、オルテニアファンタジーでもあったなぁ。チュートリアルダンジョンで【ゆうきのかけら】というアイテムを拾ってこいってやつ。
そこでレベルを上げてバトルの基本を学ぶ。
スライムを狩って主人公達のレベルを上げ、昔のゲームではよくある最初の強制イベ、魔物襲撃イベに備えてたなぁ。
このイベでパーティーメンバーの幼馴染の姉妹の姉と、気弱な男の子が必ず死んじゃうから、イベ開始前に装備を剥がすのが基本なんだよなぁ。
ま、その二人を鍛え上げたらメチャ強くなるらしいけど。強くなったところでイベ後には死んじゃうんだけどな。
昔ハマったゲームを懐かしみながら洞窟を進む。
お、そうだ、スライム退治のついでにその珍しい宝石を師匠のお土産に拾って帰ろうかな?師匠、ああ見えて実は女の子だし、見た目は綺麗だからな。
時折チラリと見える白いうなじに色気を感じ、ドキリとしてしまう。まぁすぐに胸が目に入り、シベリア並みに冷めてしまうんだけどな。
で、そんなことを考えながら、遠足気分で洞窟を進む。
すると目の前に半透明で水色のプルプルしたモンスターが現れる。出ましたザコの代名詞、スライムちゃんが!
「おっしゃオドレ死んで俺の経験値になれや!うらぁぁぁ!」
ぷるぷる震えている逃げる様子のないスライムに、一気に駆け寄り手に持った
ぷるんっ
「おらおらおらぁぁ!」
ぷるんっぷるんっ
「ドドメじゃぁ!イっとけやおらぁぁ!」
ぷるんっ
4、5分は格闘をしたであろうか。
この俺様の攻撃を一切受け付けず、ダメージを受けた様子もなく。ぷるぷると震えているだけのスライム。
「はぁ、ひぃ、ふぅ……な、なかなか、やるじゃないか。き、今日のところはこれくらいで勘弁してやる……うわ、やめろ!ごめんなさい、マジすんませんでした!」
一心不乱に
ぽよんぽよんとボコられる俺。柔らかそうな外見に反し、まともに体当たりを喰らうと死ねる。
だが
もうダメかも知れない……どうせ死ぬならおっぱいに挟まれ、ぱい圧で死にたかったと諦め掛けたその時、神が……いや、宇宙そのものが、たゆんたゆんとその大いなる
「今、助けますね〜、ファイア〜」
緊張感のカケラもない声で攻撃魔法ファイアを放つ大いなる
「ナイス、ミーサさん!喰らえ!」
ミーサ様から放たれた、まるで俺への愛という名の燃え上がる熱い思いを込めたようなファイアで焼かれた
その手に持たれたひのきの棒を振るい、一太刀で
その勇猛果敢な姿を、悔しさのあまりギリギリと歯を食いしばりながら睨みつけるように見つめる。……こんなにか。こんなにも差があるのか!
「だ、大丈夫かな?ハドリー君、ケガはないかな?」
一か月間の特訓で、自分を鍛え上げた俺ですら倒す事が出来なかったスライムをあっさりと倒した目の前の少年。女神様から勇者と呼ばれている男、アレク。俺の宿敵。
そんなアレクを睨みつける俺に、恐る恐るとした様子で声をかけてくる一人の少年。
「うるっせぇ、ザコは黙ってろ。ぶっ殺すぞ!」
力の差を見せつけられた俺は、心配して声をかけてくれた少年を八つ当たりで怒鳴りつけ、睨みつける。こいつは確か……コタローだったか?クソアレクの幼馴染だったかな?
「ちょっと!助けてもらって何なのよ、その態度は!……ヤダ、気持ち悪い」
いかにも怒っていますと頬を膨らませ俺に詰め寄る
プリプリと怒るサマンサの胸を嘗め回すようにガン見する。そんな俺の視線から胸を両腕で隠すようにガッチリとカバーするサマンサ。
バカめ!美少女からの軽蔑の言葉は、ある意味ご褒美なんだよ!
「お前、こんなところに一人で何してんだ、危ないだろ?いつも一緒にいるメイドさんはどうしたんだよ」
美少女からの
「うるせぇ!クソ野郎には関係ねぇだろうがよ!てめぇ、ちょっと強いからって調子乗ってんじゃねぇぞ!ぶっ殺してやる!」
美少女を侍らせるムカつく男の敵をぶっ殺すべく、殴りかかる!
「何すんだよ!っと」
俺の渾身の右ストレートをひょいっと躱されたと思った瞬間、腹に衝撃が走り、胃液を吐き出す。
「うぼぉ!ご、ごぼぇぇぇ!」
「わ、わぁぁぁ~!だ、大丈夫かな、ハドリー君?」
拳を撃ち込まれたお腹を押さえ、胃液を吐き散らしながらのた打ち回る。
そんな俺を心配しているのか、駆け寄ってくるコタロー。
こういう時に駆け寄ってきてほしいのはおめぇじゃねぇんだよ!……ミーサ様にチェンジで。
「うわ、汚ったなぁ~い。アレク、こんなの相手にしないで今日はもう帰ろうよ。
やっぱりそう簡単には見つからないよ、【ゆうきのかけら】は」
「そうですねぇ、今日は諦めて、また今度皆さんでピクニックに来ましょうね」
そんな俺がいないかのように会話を進めるアレク達。お、俺を無視してんじゃねぇ!
「そうだな。今日は様子見がてら来てみただけだしな。本格的な探検はまた今度にしようか」
「うふふふ、今度のピクニックではアレク君が大好きなおかずをたくさん作ってきますね」
「ア、アタシも作ってきてあげてもいいのよ?アレクがどうしてもって言うんだったらだけど……」
「おお!すっげぇ楽しみだな!な、コタロー?」
くっそがぁ~!目の前でラブコメチックな甘々な幼馴染同士のやり取りを見せつけられ、胃液ではなく砂糖を吐き出したくなる。
「え?う、うん、そうだね、楽しみだね。ボ、ボク、ハドリー君の様子を見てから帰るから、アレク君たちは先に帰っててよ」
あぁん?クソザコに心配されるほどやわな鍛え方してねぇよ!
その証拠に残りHPは……2、だと?女神様行きの一歩手前じゃねぇか!
残されたHPに愕然としている俺をそのままに、両腕を姉妹に抱きかかえられたまま洞窟から去っていくアレク。
……我ながら完全なる敗北者じゃねぇか。
「ハ、ハドリー君はどうしてアレク君の事を嫌っているのかな?」
立ち去る美少女二人とクソ野郎を呆然と見つめている俺にコタローが話しかけてくる。
「お前、あれを見てムカつかねぇのか?あの二人を独占されてるんだぞ?悔しくないのか?それでもてめぇはチンポついてんのか?あぁん?」
イラつきのあまり、
「い、痛いよ、ハドリー君!……ア、アレク君は強くてカッコいいし……優しいし。ボクには無理なんだよ、きっと」
「無理なんだよって……ははぁん、そうかそうか、そういう事か」
二人に両腕を抱きかかえられながら歩き去るアレクを見つめるコタロー。
そうかそうか、こいつはきっと、好きなんだな。……アレクが。
熱い眼差しでアレクを見つめるコタローを見て尻の穴がキュッと締まる。
……あれ?もしかしてこいつがここに残った理由って……俺、貞操の危機?
「ハドリー君は、こ、怖く無いのかな?アレク君、すごく強いよね?それなのに向かって行くなんて……どうして向かっていけるのかな?どうすればボクも怖くなくなるのかな?ボクに教えてほしいんだ」
そうか、コイツは怖いのか……アレクにフラれるのが。恋愛無双になる予定のこの俺に教えを請うなんて、なかなかに優秀な頭脳をしているな!
改めて俺に弟子入り志願をしているコタローを見てみる。年上のお姉様方の心を掴みそうな、守りたくなる様な、所謂ショタっ子だ。
そんなショタっ子が俺を見つめている訳だが……心なしか、俺を見つめる目が、うるうるとしていて、な、なんで尻の穴がキュっと締まるんだ?
「お坊ちゃま、スライム如きに遅れを取るなど……しかも倒すべき敵に救われるとは。このレイシア、情けなくて涙が出てきそうです」
得体のしれぬ、ざわざわとした感覚に尻穴がキュッとしてしまった俺に話しかけてくる、よそ行き言葉の師匠ことレイシアさん。ていうか、アンタ、いつの間に来てたんだよ!
「いやいや、あのスライム、めっちゃ強かったから洞窟のボスだよ、きっと」
「力だけで倒そうとするからです。力がなければ技で補わなければいけません。今まで何度私の技を受けているのですか?技を受けるのも学習ですよ?いい加減学んでください」
「学ぶも何も、あれはミーサ様を見て、自分の
「おっしゃ、オドレよぉゆうた。いっぺん死んどこか」
肩をぐるぐると回しながら、よそ行きの言葉使いを止めて悪魔のような笑みを浮かべにじり寄る見た目美少女、中身高齢者。
あ、スンマセン、ホントのことを言っちゃいました、申し訳ないです!
「す、すみません!そ、その、技で補うってどうすればいいのかな?
ボ、ボクみたいに力の無い弱虫は、ど、どうすればアレク君みたいに強くなれるのかな?」
師匠と弟子のハートフルな会話に割り込んでくるショタっ子コタロー。
師匠はそんなコタローに視線を向け、呆れたように口を開く。
「力なかったら鍛えたらええやんか。坊ちゃんはクズやけど、鍛えることに関して努力してるで。見た感じ、洞窟を探検してたはずやのに綺麗な手をしてるし、服も汚れてへん。つまりは他人任せでなんもしてへんのやろ?そんな何もしてへん奴がつよなる訳あらへんやん」
「う、だ、だって、足を引っ張っちゃったらアレク君やミーサさんに迷惑かけちゃうし」
師匠の遠慮のない指摘に、ウジウジと涙目になりながら言い訳をするコタロー。
師匠はそんなコタローを見て溜息を吐き、俺に小声で話しかけてくる。
(なぁ坊ちゃん、こいつなんなん?イラってくるんやけど?)
(あれだよ、あれ。好きな人にいい格好を見せたいけど、どうすればいいか分からないってやつだよ)
(あぁ、あの腐れ垂れ乳女の事か。コイツも垂れ乳に騙されとるんか)
(ミーサ様の胸の宇宙は垂れてねぇよ!…アレクだよ、こいつが好きなのは)
俺の言葉にきょとんとし、頭の上にハテナマークが浮かぶ師匠。
こういう表情だけを見ればめちゃ可愛いんだけどな。胸を見た瞬間、北極並みに覚めてしまう。
(え?い、いやいや。アレクって男の子やんか、何で男が男を好きになるん?そんなんおかしいやん)
(こいつはそっちの気があるみたいなんだよ。俺を見る目も怪しいからな)
(えぇ?あ、怪しい目?お、男同士で?男の子同士やのに?……で、でもよく見たらこの子、ちょっと可愛い見た目しとるな。あのアレクがこの子と……いや、この子があのアレクを……そ、そうか、何も男女だけやないんか、常識にとらわれたらあかんのか!)
急に何かをブツブツと呟きだし、最後に「イケる!」と確信めいた言葉をつぶやく師匠。
「おっしゃ分かったわ。あんたコタローやったか?坊ちゃんと一緒に鍛えたる。
つよなりたいんやったら、アタシが鍛えたるわ」
「え?い、いいんですか?」
「はぁ?何言ってんだよ、ついにボケが始まったの…ぼげぇ!」
師匠の思いもよらぬ言葉に驚く俺。
驚きのあまり、つい口走ってしまった言葉に師匠が素早く反応し、女神様送り一歩手前にされてしまう。
「まずはこいつらを観察して……ヤッてるとこ盗撮……展開広がるなぁ」
腹に拳がめり込み、のた打ち回る俺をしり目に、何かをブツブツ呟いている師匠。
「が、がんばりますので、よ、よろしくお願いします!」
足元でのた打ち回る俺を心配もせずに、キラキラと希望に満ちた輝く瞳で師匠に頭を下げるコタロー。
こうして俺に修行仲間が出来た。
宿敵アレクの幼馴染、ショタっ子コタロー。
俺たち二人はこれから師匠に鍛え上げられていくことになる。
だが俺はこの時、気が付いていなかった。世界に化け物を生んでしまった、解き放ってしまった事を。
世界にはこういった行為は以前からあった。だが、そういった行為を愛でる文化は無かった。
……解き放ってしまったんだ、化け物を。
……生まれてしまったんだ、新たなる
この先、この解き放たれた化け物が産み落とした
そして、狂わされたアイツの人生が、世界の流れを変えることに……なるかもね?
転生したら序盤の踏み台役でボコられ最中。普通ボコられる前に転生して頑張って回避して無双する設定だよね?え?チートスキル無し?かわりにチートなメイドさんをつける?関西弁ロリババアエルフはご勘弁なのだが… 筑波マキ @tukuba1192
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