愛の多様な解釈に心打たれました

「死にたい」と「生きたい」の対比といった、物語の核となる心に残る要素が多くありましたが、なかでも強く惹かれたのは人生に対する描き方です。

生きるということを、単に死の反対ではなく、“人生をどう生きるか”と捉えるならば、彼女を真に生かしたのは単に自殺を止めたことに止まらないのだと思います。
彼に読み書きを教えたという経験が、結果として彼女自身の進路を教師という人生へと規定した。

ラストで、彼を覚えているのが自分だけだから「生きたい」と願う場面も、とても美しく胸を打たれました。
彼女が彼に文字を教える中で“生きる尊さ”を逆に教わり、彼女が他の誰かに何かを教えることで受け継がれていく、いわば“紡がれる意思”のようなかたちで彼が生き続ける、という考えもあると思います。
一方この作品では、自分の死により、彼が完全になくなってしまうから死にたくない、と少し悲しい結末となっています。しかしその選択の仕方もまた、純粋な愛のかたちなのだと感じました。

企画へのご参加ありがとうございました。楽しませていただきました!

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