ロックンロール

かぼちゃ

第1話 ロッキンハート

 ロックは語らない。好むは苦の道。酸いも甘いも噛みしめてガムと一緒に吐き出せばおのずと浮かぶロッキンハート。

 「ロク男、教室でタバコを吸うなー、せめて窓開けろー」

聞こえるように「ちっ」と舌打ちをうつも火のついていないタバコをわざわざ足で潰し、教室後ろのロッカーからちり取りを持ち掃除する男、ロク男がそこにいた。

 今日は機嫌が悪いなと教師に訊かれたロク男は何も答えず隣の席に教科書を貸して見せていた。

 「俺は何か大事な何かを忘れている。昨日何をしていたかが思い出せない」

そう言ってロク男はズボンの後ろポケットに入っていたレシートをひろげる。店の名前も何を頼んだかも覚えていないが、ロク男は頼んだものが自分であり、それを飲んだことを鮮明に覚えている。しかし値段が書いてあるだけでロク男が支払った欄は空白でロク男は家のドアの鍵を閉め忘れたかどうかのもやもやを抱えていた。

 ロク男は食い逃げならぬ飲み逃げをしたのかと仁義を揺らす思いであった。

 考えても何も思い出せないことから伸びる手には「ORION’S」メーカー。かっ、と叩き一本だし口に咥えるも今は隣と席をつけていることから軽く舌打ちをしてしまうも何かを吸っていないとやっていけない気持ちにこれが中毒かと「へへ」と鼻をかくが、ロク男は隣の席の女生徒の髪の毛を吸っている。

 「そういえば授業の途中だが転校生を紹介する」


 ロク男は耽っている。隘路に光る電柱の下に黒い看板、「忽」と書いてあるカフェにロク男がひとり。

 カウンター席中央に白く濁ったグラスをわざとらしく氷を鳴らすロク男にマスターは「今日は夜が深い、こんな夜は踊りたいものだ」人生苦もあるが苦に飛び込んで転がり笑うのもいいじゃないかと言う。客はロク男しかいないがなぜか所々にコースターがあり静かに濡れている。

 「マスター、おかわり頼むよ」ロク男は男らしく残りを一口で飲んで見せた。しかしマスターは切らしてしまったといい、買い出しに行くと奥の扉に消えていってしまった。その時に代わりをお出ししますと一言。奥の部屋から出てきたのはマスターではなく前エプロンをつけ、ツインテール黒髪の女性が「注文はタップダンス、リズムタップ、シアタータップどちらにしますか?」と。

 「愛してるぜ」

ロク男は惚れる。一言目に求婚を迫るロク男は「タップダンス」と二言目に答える。

「嫌よ、私バンドマンに父を殺されたの、だから嫌」グラスを洗い拭きながらタップダンスを踊る彼女は器用なのか不器用なのか水滴をロク男に飛ばす。

 ロク男はポケットからはみ出ている自前スカーフで顔を拭きグラスを叩いて立ち上がる

 「俺はロック、安い常套句は使わない。歌うぜ」酔いがロク男を動かす。女は踊る、されど男は溺れる。 

 目を覚ましたロク男は椅子に縛られ目の前にマスターと惚れた女。ロク男の口のガムテープを女が「大声出すなよ」と勢いよく剥がす。

 「愛してるぜっ」ロク男は笑う。間髪入れずにマスターがロク男の横腹に拳を放つ。「パパ、後は私に任せて」女は言う。お父様は「程々にな」とまた横腹に拳を放つ。

 「これからお前に催眠術を使ってお前の中にある私の記憶をすべて消す」女は息一つ上げず目をそらすこともなく淡々とただ話す。

 「何故」ロク男は訊く。「ダサいから」ロク男は目を閉じて通じない愛に最後「かまわんよ」ハートが覚えていると応える。

 「アホか…なら賭けるか」女は初めての興味を見せる。ロク男は賭けをしない主義だが、愛はかけ引きと聞く、「kissを」ロク男は女を見て応える。女は大きなハンマーをロク男のスカーフ巻いてある額に一撃。 


 「そういえば授業の途中だが転校生を紹介する」がらんとドアを開け、ずかずかいわす佇まいの転校生。紹介構わずロク男隣の生徒を突き飛ばすと「何見とんねん」とロク男に問う。

 「惚れたぜ!!」

 「やるやん」ロク男は賭けに勝ち広げていたレシートをくしゃくしゃに握りしめた。

 thankyou!!

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