×××した。
カノと私が、一緒の布団で眠る。添い寝することになった。了承が出るとは思っていなかったので、逆に驚いている。豆電球の弱い橙に照らされた部屋の中で、カノの腕に抱かれていた。
「好き」
「死ぬほど聞いた」
「もっと聞いて。大好き」
「……耳元で囁くなよ、バカ」
カノは真面目ちゃんだ。変なことをしなければ許す、の言葉を律儀に守っている。彼女にとってキスは一線を越える行為だが、布団に潜って密着するのはセーフだった。妹扱いを受けていると思えば納得だし、彼女の柔肌を求めるならこれも一種の妥協点だろう。だけど私が求めているのは、そういうのじゃないんだよな。
もっと、好きになってもらいたい。
友達の妹じゃなくて、違う肩書が欲しかった。
「ねぇ、カノ」
くるくるとめぐる言葉や感情を一言に集約すると、こうなった。
「チューしよ」
「ヤだ」
「さっきはしてくれたじゃん。おでこに」
「あれは特別。一回きりなの。ケチとかいうなよ」
言いたかった愚痴を先に封じられた。
そこまで読めているなら、してくれてもいいのに。
頬を膨らませながら彼女の胸に抱かれる。でもまぁ、焦る必要はないか。私とカノが相思相愛であることは分かったのだ。私達の恋心には、これからゆっくりと実をつけていけばいい。芽吹くまでに時間が掛かったのだから、花が実に変わるのを待つのも余裕だ。
カノの匂いに鼻腔を膨らませて、時折視線を上に向ければ彼女も私を見つめている。頭を撫でる手は普段と変わらず優しくて、ますます彼女のことが好きになっていく。
「ナノ。……早く眠ってよ」
「なんで?」
「良い子は寝る時間だぞ」
時計を確認すると日をまたぐところだった。シンデレラの魔法も解ける時間だ。
それでも私達に掛けられた魔法は解けない。幸福な恋のまじないだ。
彼女にくっついたまま瞼を下ろす。暗闇にカノの心音が心地よい。さわさわと髪を撫でられる。耳の後ろをくすぐる彼女の指が私を癒す。髪をかきわけて外気に晒した耳元に彼女の吐息が聞こえて、甘い毒のように身体を痺れさせていく。
「ねぇ、カノ。やっぱりキスしていい?」
「ダメ。まだ早い」
「早くはないでしょ。経験あるし」
「ばーか。寝ろ。もう真夜中なんだぞ」
「無理。興奮してきた」
「しばくぞ」
抵抗を受けながらもカノの頬にキスをすることに成功した。また殴られるかと思ったけど、返ってきたのは胸が熱くなるほどのハグだった。私が眠るまで待ってから抱きしめる予定だったのかも、と想像の羽が自由自在に伸びていく。
「ナノ。なんで笑ってんの?」
「初めての恋が、ようやく実りそうだから」
「は? ……ばーか。私だって、ナノが初恋相手だよ」
震えた声のカノが、どんな顔をしているのか見てみたい。だけど強く抱きしめられて、それは叶わなかった。強めのハグで、カノの心音が近くに聞こえる。それは早鐘を打つようで、私の心臓も釣られて駆け足になってしまう。妹のように可愛がっていた相手から向けられた恋心に、彼女も正面から向き合う覚悟を決めたのかもしれない。
カノが姉の友達から、私の彼女になる日も遠くはないと思った。
ラヴ&パンチャー!! 倉石ティア @KamQ
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