飛行機

@pasotarou

第1話

午前7時

ボクは顔洗っていた。普段なら洗顔フォームを使いしっかりと顔を洗うのだが、今日は珍しくボクは水だけで使って顔を洗っている。

今日は大事な北海道旅行の日。パジャマを着替える。ボクの家から羽田まで1時間。

予約している飛行機の出発時刻は8時20分かなりギリギリだ。ボクは携帯と財布をズボンのポケットに放り入れると鞄を掴み、家から飛び出した。

午前9時

ボクは駅でイライラしながら朝食のおにぎりを食べて、電車を待っていた。なぜイライラしているかは明白。ボクが待っている駅は家から最寄りに駅でなく、空港駅であったからだ。ボクは予約していた飛行機に乗り遅れた。しかも不運は繋がり、今日北海道行きの飛行機は欠航だという。諦めきれなかったボクは新幹線で行こうと決めた。だから空港駅で電車を待っている。ボクはファーストクラスで出される朝食を想像しながら、残りのおにぎりを口に放り投げた。おにぎりを食べ終わったのでゴミを捨てに行く。ゴミ箱付近には旅行鞄を持ち、制服を着た高校生らしき人だかりが楽しく話をしている。声の五月蝿さに思わず口を開けそうになった。だけど男の人が高校生に近づき、ボクの代わりに怒鳴った。「お前ら何処までも迷惑をかけるな!」などと言っている。どうやら引率の先生のようだ。ボクは思わずため息をついて、元居た位置に戻った。戻ると人列が出来ていたので、ボクは最後尾に並んだ。 

午前9時10分

電車が着いた。前の人に倣って電車に乗る。残念ながら前の人までで付近の椅子は埋まってしまった。ボクは座れる席がないか探した。1席見つけた。一番前の車両、一番後ろのドアの近く席。ドア近くの席は人気のはずだが何故か開いていた。ボクは喜びを隠さずその席に座った。席に着いた瞬間、ボクの表情は思わず曇った。先ほどゴミ箱付近で話していた高校生たちが目の前の席に座っている。しかし今は先生の言いつけを守り静かにしている様子であった。ボクは様子を伺いながらスマホで新幹線の時刻表を確認する。すると出発時間になったようでドアが閉まり始めた。その時であった。いきなり大きな声が聞こえた。「すいません!乗ります!」と言っている。ボクは思わず顔を上げた。見るとボクと同じ20代くらいの女の人が階段を急いで駆け下り、電車に向かってきた。残念なことにドアはもう閉まってしまった。ボクは思わず「どんまい」と小さな声で呟く。しかし珍しいことが起きた。都会の列車なのに関わらず、再びドアが開いたのだ。女の人は電車の後ろの方を見て、お辞儀している。やさしい車掌もいるものだとボクは思った。女の人はボクの座っている席の近くの柱を陣取ると、ため息を付ついて柱を掴んだ。ボクは横眼で観察する、よく聞くと溜息ではなく息を上げていたようだった。あんなに走っていたのだから息も上がるだろうな。気のどくに思ったボクは席を立ちあがった。「お姉さん。席をどうぞ」女の人は最初遠慮した。しかしもう一度進めると素直に席に座った。やっぱり疲れていたのだろう。女の人とは自然に会話が生まれた。「何処に行くんですか?」と聞かれたので、「北海道に行くよ」と答えた。すると女の人は笑った。女の人も北海道に行くという。ボクはため息をついて「お互いついてないね」と言うと女の人は切り替えたように「済んだことですから」と言った。ボクは「新幹線で行くの?」と聞くと、「行かないです」女の人は答えた、「そうか。ボクは新幹線で行くんだ」と答えると女の人は急に無表情になる。「あなたは今日帰った方がいいですよ」女の人はボクを見つめていた。ボクは「どうして?」と聞いた。女の人は笑った「あなたは私と違ってまだまだ人生があるのだから」 ボクは視線を感じた。高校生達、引率の先生、おじいさん、サラリーマン風の人、全員がボクの事を見ていた。その瞬間ドアが開く。ボクは逃げる様に電車を降りた。下りると直にドアが閉しまる。だがボクは聞こえた。女の人の声が。扉は閉まっているのにはっきり聞こえた。「席を譲ってくれてありがとう」電車は駅を離れ、消えていく。茫然とボクは時計を見た。時刻は8時20分。 ボクが乗る予定の飛行機と同じ発車時刻だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

飛行機 @pasotarou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ