第26話 第2回ギルド会議前編:互いを知るために家族を語る。
「第2回ギルド会議~!」
バレアクスやファントムとの出会いから2日後。
渚の家の和室にて、有栖が元気よく声を上げた。
ついさっきまで、俺たちは3人で中ダンジョンに潜っていた。
そして有栖の提案で、ギルド会議が開かれることになったのである。
「それで今日のテーマはなんだ?」
俺が尋ねると、有栖は何やらスマホを操作しながら答えた。
「えっとね、いろいろ話し合わなきゃいけないことはあると思うんだけど。昨日ふと思ったのが、私たちって意外とお互いの知らないこと多くない?」
「まあ、確かに」
「やっぱりチームワークって大事だからさ。もう少しお互いに知り合った方がいいんじゃないかなと」
「間違いなく有栖さんの言う通りね。訓練も大事だけど、こういうことも必要だわ」
「でしょでしょ! というわけで……」
有栖がこちらにスマホを向ける。
そこにはとあるアプリの画面が表示されていた。
トークテーマがいくつか収録されていて、それがルーレット式にランダムで表示されるやつだ。
「これをやってみよう。まずは私が押すね」
有栖が画面をタップすると、軽快なドラムロールと一緒にシャッフルが始まる。
もう一度タップすると、デデンという音とともにテーマが表示された。
「まず最初のテーマは……『家族の話』!」
家族か。
これについては、この間2人に話したばかりだ。
渚に関しても、妹とご両親には会ったことがある。
でも有栖に関しては、ほとんど何も知らない。
「まずはリーダーからどうぞ」
「あ、俺から? えー、父親が『東方旅団』のリーダーの咲井玄優で、母親が副リーダーの咲井紅羽。2人は俺が小さい頃から探索者として飛び回ってたから、母さんの方の祖父母に育ててもらった。それで今はひとり暮らしだな。父さんの方は、婆ちゃんとは会ったことあるけど爺ちゃんとはない。俺が生まれた時には亡くなってた。そんなところかな」
「拍手~」
有栖と渚が俺の話に拍手を送る。
別に大した話ではないけど、話し終わったら拍手っていうのがルールらしい。
「やっぱり家族の話なら、陽哉の話がインパクトあるね」
「そうね。何せ五天のリーダーですもの」
「うんうん。じゃあ次は渚ちゃん!」
「そうね……」
渚は少し考えてから、淡々と語り始める。
「両親と妹とこの家で暮らしてるわ。両親は探索者ではなくて、父親は普通に企業に勤めてる。母親は専業主婦よ。妹はみんなのおかげで助けられた愛莉ね。父親の方の祖父が剣術の道場をやっていて、私の剣術はそこで教わったの。家族の話はこれくらいかしらね」
「拍手~」
「陽哉くんのあとじゃ、盛り上がりに欠けるわよ」
渚が少し恨めしそうな視線を向けてくる。
全くもって俺に非はない。
もはやただの八つ当たりだぞ……。
「そんなことないって! 渚ちゃんの剣術は、やっぱり代々伝わってるものなの?」
「そうよ。天神流は天神家に伝わるもの。父親が継承者にならなかったから、まだ幼かった私が学びたいと言った時は、祖父は大喜びしたそうよ」
「そういえば剣術関連で聞きたいことがあったんだが」
「何かしら?」
「月影流ってのと戦った時に、何か因縁がありそうだっただろ?」
妹の愛莉を助けるために、盗賊のアジトへと侵入した時。
渚が戦った岸辺妹は、月影流という剣術を使っていた。
あの時の様子からして、天神流と月影流には何か関係がありそうだ。
「その話、私知らな~い」
「そういえば有栖が仲間になる直前の話だもんな」
俺は簡単にあの時の状況を説明する。
それが終わるのを待って、渚がおもむろに口を開いた。
「天神流と月影流の間には、陽哉くんの言う通り因縁があるわ。先に剣術として存在したのが天神流。そこから派生したのが月影流なのよ。ただこの派生の仕方に問題があった」
「派生の仕方?」
「ええ。かなり昔、それこそ江戸時代なんかよりもっと昔の話よ。天神家に生まれた2人の子供が、どちらも天神流を受け継いだの。だけど2人は仲が悪くて、上の子の親友を下の子が斬り殺してしまうの。怒った上の子は、下の子と決闘を始めた」
「兄弟同士でそんな……」
「その戦いの中で、下の子が独自に編み出したのが月影流。そんな由縁があって、天神流からすれば月影流は裏切りの流派なのよ」
「結局、その決闘はどうなったんだ……?」
「どうなのかしらね。下の子が敗れたところまでは確かなのだけど、そこから先は謎なのよ。死んだという話もあれば、ギリギリで逃げ延びたという話もある。でも今日まで月影流が伝わっているということは、きっと命からがら逃げおおせたのでしょうね」
さっきの恨めしそうな視線は何だったんだというくらい、壮大でインパクトのある話だ。
気になっていた月影流との因縁が知れて、俺としてもすっきりした。
「私の話はこれくらいにして、次は有栖さんの話を聞きましょう」
「うーんと……家族の話ってあんまり話すことがないんだよね」
有栖は腕組みして首をひねる。
少しの沈黙の後、有栖は何でもないことのように呟いた。
「私さ、家族って人を見たことがないんだよ」
「見たことがない?」
「うん。まあこうして存在してるわけだし、きっと両親はいるんだろうけど。実は私、12歳くらいより前の記憶が無くって。気付いたらひとりだったの。お兄ちゃんがいたような記憶だけは薄っすらあるんだけど、顔も名前も思い出せないし。本当にいたかどうかも定かじゃない。あ、でも気にしないで? 私はちゃんと生きてこられたし、今は仲間もいるしね」
少し空気が重くなりかけたのを察して、有栖が笑顔を浮かべる。
きっと彼女自身が、生きてこられたからオッケーという考えなのだろう。
とはいえ大変なことは多かったはずだ。
のびのびと育ててもらった俺としては、大変だっただろうなと想像するくらいしかできないのだが。
「ひょっとして有名になったら、家族が名乗り出てくれるんじゃないかなーって探索者を始めて配信も始めたんだけどね。今のところ出会えてないや」
「やっぱり会いたいか?」
「うーん、会ってどうするって感じだけど……。でも、お兄ちゃんがいるなら会いたいかな。本当に曖昧で幻かもしれない記憶だけど、支えになったことは間違いないから」
「そっか。会えるといいな」
「うん!」
有栖はにっこり笑って、俺にスマホを差し出した。
「はい。次は陽哉くんがルーレットまわして」
「はいよ。……次のテーマは『能力の話』」
これは華族よりも盛り上がりそうなテーマだな。
お互いの能力を深く知ることは、連携する上でも非常に大切になってくる。
すでにある程度は知っているとしても、さらに知識を深めるに越したことはない。
「じゃあまたまたリーダーから!」
「そうだな……」
ギルド会議はまだまだ続く。
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