第2話

部屋の前に転がっていた半機械の身体を持ち上げ、家の中に引きずって運ぶ。その身体は非常に重く、ぬるかった。

バスタオルを広げ、リビングの隅に敷き、そこに機械人間を座らせた。

耳にはヘッドフォンのようなものが着いていて、そこから目元を覆う不思議な形のサングラスが伸びている。腰には方位磁針のような見たこともない機械が着けられているが、そのいずれもが機能を停止しているらしく、うんともすんとも音を出さない。髪の短さや体つきからしても男だと言うことがすぐに分かった。日織は非日常的な物事を考えるのが大好きだが、実際に遭遇するのは初めてでとても戸惑った。

「とりあえずこの人を起こさないと、いや、起動させないと、かな」

日織は男の肩を揺さぶって「大丈夫ですか」と声をかけた。反応はない。

次に身体のあちこちを見直して、電源ボタンや充電コードがないかを確認した。普通になかった。

重いものを運んだり色々考えたりして疲れてしまったので、日織は早めに晩ご飯をとろうと思った。

「今日はオムライスにしようかな」


日織は立ち上がり、台所に立った。

冷蔵庫から昨晩炊いて残しておいたご飯、小口切りの万能ネギ、ウインナー、卵、少し残っていたレタスを取り出す。フライパンにごま油を多めに馴染ませてネギを炒める。ネギに火が通ったら次は小さくちぎったレタスを入れてまた炒める。ウインナーはめんどくさいけれど包丁をつかって4つくらいにぶつぶつと切ってまたフライパンに入れる。3つの具材に火が通って混ざりあったら、ご飯を投入してざっと火を通す。醤油を回しかけ、鶏がらスープの素をさらさらとかけ、塩コショウで味を調整する。日織の家のオムライスはチャーハンで作るのだ。出来たチャーハンを更にあけて、空いたフライパンに油を引き直し、といた卵を流し入れる。フライパン全体に卵液を行き渡らせ、1枚の大きな卵焼きを作る。しっかり火が通ったら先程のチャーハンの上にふんわりと被せて、日織家の特製オムライスの完成だ。

ほくほくとしながら皿を食卓に運ぼうとして振り返り、固まる。すぐ近くにさっきまでぴくりとも動かなかった半機械の男が立っていたからだ。

「いい匂いだね、それ 僕にも食べさせてよ」

日織は冷静だった。驚く事が連続すると慣れてしまうのだな、と心の中で思った。こいつはとても図々しいやつだな、とも思った。

「多めに作って良かった。あとこれはオムライス」

日織は皿をもう1枚出して、作ったオムライスを分けた。食卓にいつか来る客の事を思って買った予備の椅子が今、日の目を見た。


「いただきます」

日織は言った。男は何かを思い出したかのような顔をして、それに続いて「い、いただきます」と言った。カン、カンと皿にスプーンが当たる音と咀嚼音だけが部屋に響く。日織は若干の気まずさを感じていた。

「こんな美味しいもの、食べるの久しぶり」

と男が切り出した。やはりこちらも気まずそうな顔をしていた。日織は身体が半分機械になってもそんな表情が出来るのか、と安心した。

「僕、施設ではペースト状のものしか出されなくて」

噂は本当だったのか、と日織は興味津々で聞いた。男は首を傾げた。日織はしまった、という顔をした。施設から出たてと思われる半機械の男が施設の外の噂を知るはずがない。しかし、首を傾げた後の男の挙動は思っていたものとは違った。

「噂、聞いたんだね? あの噂は僕が流したんだよ、ごく最近聞いた覚えがあるんじゃない?『機械人間が施設の中で作られてる』とか、『施設の中で人体実験が行われてる』とか」

日織はその2つが昨日一昨日あたりに聞いたものだったので驚いた。口が動いたが、何も言葉が出なかった。嫌な予感がした。

男はスプーンを置き、日織に笑いかけた。


「あの噂、ぜーんぶ本物だよ」

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ドリーミング・プロトコル 丁嵐 ぐらむ @atarashi_h

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