第1話
独りの学生が下駄箱の前に立っている。その目は下駄箱に入っていた未来の自分を名乗る者からの手紙に釘付けになっている。
ハル区画立高校に通う2年生の
日織は手紙を雑にたたみ直して紺色のブレザーのポケットにしまいこんだ。
日織の通うハル区画立高校などが建ち並ぶ「ハル区画」は、国の研究モデル都市に選ばれるほどに近未来的な開発が進む地域だ。国の巨大な研究施設があり、新しく生み出されたシステム等はまずこの地域で運用して確認することが法律で決まっている。国の近代化を推進した代表研究者である
研究施設はここで働く研究者は死ぬまでここで働くという規約があったり、一般の人は入れない上、中で何の研究がされているか公開されていないので「
ハル区画での試験運用を無事クリアし、全国に広がった近未来的システムの代表的なものはなんと言っても人型ロボットだろう。このロボットたちは人間のように生活しているが、道順を訪ねたりすると完璧に教えてくれる。勉強も教えられるので学校などでも運用されている。服も着ているし皮膚はすべすべで産毛まで生えているので身体は普通の人間のようだが、顔にはパネルが取り付けられている。これは普通の人間の顔で試験運用したところ区画民から「表情がぎこちない」「なんか怖い」「あまりにも人間過ぎて萎縮してしまう」といった意見が多数寄せられたからである。パネルにはアバターの顔が表示されていて、アニメのような大袈裟なリアクションをとるようになっている。この改変には区画民も満足していたので全国に広まった。
日織は昇降口を出て、運動部の邪魔にならないよう運動場のふちを通り、学校外へ出た。空には区画を巡回する監視カメラ付きのドローンが多数飛んでいる。車のタイヤは彼女が小さい時にはもう無くなっていて、今は流線型の宙に浮かんだタイプのものが主流になっている。
この国の高校は数が少なく、進学者は親元を離れて一人暮らしをする事が多い。日織も例に漏れずアパートの2階で一人暮らしをしている。日織の家は学校から遠く、かなり区画のはずれの方まで歩かなければならない。しかし彼女は日々行われる色々な試験運用の機械を見るのが好きだったので長い帰り道が苦にはならなかった。今日は新しく路面に交差点の交通状況を表示する試験をしていた。
今日は早く帰れたからいっぱいゲーム出来るぞ、と内心嬉しく思いながら日織は超近未来的な町にそぐわない古いアパートの錆びて赤くなった階段を登る。しかしそこで異変に気付く。何か大きいものが自分の部屋の前に置いてあるのだ。恐る恐る近付き、覗き込んでみるとそれは右手と左足が機械になった人間だった。日織は自分の指先が冷たくなっていくのを感じた。「身体の半分が機械になって、一生メンテナンスが必要になった人間がたくさん収容されている」という噂を思い出した。
日織は平凡な高校生だ。
だが、それ故に非凡な展開を迎えることがある。
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