zzzzzzzzzzz

イタチ

第1話

長い群癌の長さは、意味もなく私の周りを埋め尽くし

その意味を、早々に、消しさしている

私の頭上の時計は、目をまわすように、鳩時計を、飛び出させては

その鳥は、息も絶え絶えに、げろを、部屋の片隅に

吐き続けている

私は、どうしようもない紅蓮の炎の中

フライパンが、そのうえで、黄身を、溢している風景を

横目に、テレビを見ている

周りの大人は、蝋人形のように

ラジオを聴いているが

蝋に耳はあるのか

そこにあるのは、一個の巨大なロウなだけではなかろうか

窓の外には、糸のように細い三日月が、登り

暗い室内を覗いている

誰もいない部屋

ただ、壊れた時計だけが、鳩を、絶えず吐き出しては

戻し続ける

誰もいない部屋

何もない空間

吐き出す血液が

部屋を埋め尽くすのに

果たして、どのくらいの時間を要するのであろうか

時計は、それを、理解すらしていない


長い廊下の中

窓から差し込む光は

どこまでも廊下を、波のように漂い

タイルの異様な模様の床を、動かすように揺らしている

生徒たちは、騒がし気に、廊下を、駆けながら

その喧騒を、掻きまわせているが

それでも、数人の生徒の体に、影を移した陽炎のような揺らめきは

また、その波が去ると

同じような、揺り戻しを

また、廊下に刻み続ける

天井近くに突き出すように生えた

時計は

休み時間の残りを、克明に、あと五分だと、指し示し

それは、兄弟のように

三階分

同じような、位置に自生し

同じような、時間を、計っている

その大本の

校舎の中央にある大時計は

ずいぶん昔から

その時刻を、狂わし

めったに、それを直す人間がいないために

いつも五分ほど

時間を、遅れさせ

チャイムだけが

それを、罵倒するかのように

切り離されているが故に

正確な時刻を、雄たけびを上げるように

周囲に、怒鳴り散らし

その鼓動を、震わせている

周りの時計は、それに、相応するように、見習うように

足を、そろえているが

核心部たる

大時計は、かくも、同じように、狂った時間を、五分遅れに、過ごしていた

この学校の寿命も、もう無い

しかし、それに反応するかのように

時計たちは、狂わずに、正確な時刻を、刻み

チャイムは、音を、漏れ出している

しかし、大きな中央の時計だけが

取り残されたように、時刻を、五分遅れで刻んでいる

生徒たちは、年を、正確に取っていく

しかし、時計だけが、取り残されたように、時間を、刻む

校庭の裏のグラウンドに日が差すころ

日は、傾き

夕方までのタイムリミットが開始され

誰もいないグラウンド

しかし、蝉の声に混じって

チャイムと、時計の刻む音がする


流れの中で真っ赤に染まった

椿の渓谷が

川の中で

死体を、暗闇の中浮き上がらせている

空を見上げようにも

岩肌と

それから覆いかぶし

覗き込むような木々に遮られ

一本の竜のような線でさえ

雲が、日光を、覆い隠し

深い赤の下の水は

どこまでも反射を、遮られ

黒に近い色を、その中に内包している

岩が、反射を、遮り

岩下を泳ぐイワナの魚影は

花の遮りの間を、死んだように、浮いては

死体の服裾を、擦っていった

透明感の高い水は、暗闇の底を

地上まで浮きただし

その上を、覆い隠すように

赤い絨毯が、それに、何とか栓をするも

そのすべてが、夢幻のように

死体が、あるせいで、人の騒がしさを、来訪させてしまうことであろう

月の満ち欠けを

あざけわらうように 

沈む椿は、イワナの鱗をかすりながら

驚いた魚に

また、水面まで浮上させながら

その袖に、かすらせる夜の事である



長い管を巻くように着せるから上がる短い煙は

私の行方を拒むほどの質も持たず

ただ着物の袖ににおいをくぐらせる程度でさえある

それも、炭や薪に比べれば無いも同然で在り

夜の闇は、それらの煙のように、黒く

夜の闇夜を、塗り重ねているようでさえある

空には、星月が、蒔絵のように、ちりばめられているはずであるが

ここでは、家の中からは、不夜城のように、明かりが漏れ出し

足元の影を

食らうように、辺り一面に、そこだけは、影が消滅し

屋根に逃げた影も

天上から照らされて

行方もなく

煙のように

所在が、無いように、揺れている

私は、煙を、くぐりながら

一軒の暖簾をくぐる

まぶしい明りは、更にその光量を

行燈に近づいたせいで、光源を増し

私の目は、一瞬にして、人から白へと

その変換を妨げられる

辺りには、畳が引かれ

私は、眩むばかりの足取りは

その金額でも

光の眩しさでもないだろう

どちらにしても、花魁の顔は、二重にも三重にもぶれるさまは

行きがけ

出かけ先に、しこたま、辻で、酒を飲んでしまったのが起因する

あれは、質が悪かった

煙のように管を巻く

花魁の言葉は

煙のように

私の金銭を、ハイへと変えていく

目を覚ませば、一夜など

夢幻のように

辺りには、たばこの煙の筋も見えず

ただ、早朝の窯の煙が

私をさらに、惑わすように

現実を、非現実から、現実に戻すように

全てをうやむやに灰にしていく

私は、腹を抑えるように、表に出る

かすかに、残る煙の臭いは

煙管を、持たない私の脳へ

ゆっくりと疑問を、潜らせていく

太陽の光は、常夜灯をも反転させ

銭も取らずに、すべてを、白く塗り固める

つぶされたような瞳はただ

幻のような現実を映した




ラジオから流れる

獣のようなノイズの嵐は

私の鼓膜をふさぐ間もなく

その嗚咽を漏らし続ける

携帯は、死んだ魚のようにはねながら

その感電死した声を

私に、血液交じりの嗚咽を漏らしながら

ベッドを汚し、ごみ箱に、入りたがりそうにしている

時計は、鼓動を、刻み続けているが

その雑音は、すべてを、細切れにするように、虎視眈々の

良さの範囲を、すべての惨殺劇を演じている風に、私には、伺われた

何もしていないはずなのに

私の口内からは

脳みそが、漏れ出し

私の個人情報を、漏洩させ

機密を、布団に、ぽろぽろと撒き散らせ

ダニたちの宴会の洋酒として場を、盛り上げさせているのではないだろうかと

思案させる

キノコのように、部屋一面に張り巡らされた

電気の線は、いつしか、部屋中に、コンセントを、出現させ

その情報を、様々な、電気器具に、伝染させ

自殺の講義を、張り巡らさせた

その粘菌は、衰えることを知らず

知らず知らずのうちに

体内への浸食を開始している



楽団の心臓部に躍る楽譜を貶し燃やしながら

躍るフランチェスバイオリンが

何処までも切り裂いたような悲鳴をあげながら

その弦をものの数分で全て引き裂き

ただ線のような傷跡が

だらりんと床に傷を助長させた

誰もいない空間に響く弦楽器の死の音色は

聴くにも耐えない叙情をかき消して行く









長い長い傷跡をなぞる白い指は

ズタズタに緩やかな傷跡を

ケルロイドのように癒着させながら

無機質に私の肌をプラスチックのような硬い感覚を滑らせている

その感覚は徐々に肌に食い込み

赤い筋はその感覚を鋭く深く沈み込ませ

薄くなった道からは湧水が茶色い鉄分を含み

何処までもその線をなぞるように

赤く滲み

辺りを泥沼のように緩く濡らす

空は剥がれかけた壁紙に浮かび

火の気の無いこの部屋に置いて

水蒸気はヤニに薄汚れた雲を浮かべている。

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