電脳の空へ

朝霧美雲

第0話「空の撮影所」





この仮想空間セカイには、大空ゆめがある。





スカイスタジオという会社の広告に惹かれたのは半年前。

その広告には金髪オッドアイの美少女Vライバー、桜宮空奈が描かれ空を切なげに見上げている。

俺はそんなものに興味なんて無かった。でも広告で知った彼女の配信を見て、空について楽しそうに嬉しそうに話す彼女を好きになった。


今日はスカイスタジオ株式会社で社長との面接と、フライトシミュレーターでの試験があるらしい。

フライトシミュレーターは確かに普段からやってはいるけど、本格的な機材を使っての試験と言われ緊張している。


つい最近拠点をここ東京へと移したスカイスタジオはとても綺麗だ。

入口から建物へ入ると受付は無く、いきなり事務所。パソコンで作業をしている従業員が数名いて、とても忙しそうだ。

その事務所の奥にはスーツ姿の茶髪の女性。イヤホンマイクで通話をしながらお茶を飲んでいる。


かと思えば俺の方を見るなり笑顔でこっちへと歩いてきた。


「初めまして。スカイスタジオ株式会社、代表取締役社長の柿本友香です。あなたが坂三田(さかみた)勇樹(ゆうき)さん?」


「こんにちわ、初めまして。本日試験をさせていただく坂三田勇多です」


見た感じ26歳の自分より若いけど、それでも社長を務めているだけあって仕事が出来そうな雰囲気がある。


「予定の時間より早いけど、少しライバーの収録の様子を見ていきますか?」


「大丈夫なんですか?」


ライバーの中の人を見て、残念に思ってしまわないだろうか?少し怖い部分もある。

戸惑う最中に、背後からドアの開く音。藍色のセミロングの女性が俺を見て微笑んだ。


「あなたが坂三田さんですね」


「由比、遅いよ」


「ご、ごめんって...。これでも早く起きた方だから」


微笑みから一転苦笑いに変わる彼女。俺はどこか既視感を覚えながらも自己紹介をする。


「坂三田勇多です。本日こちらで試験をさせていただきます」


「スカイスタジオ株式会社所属の由比です。訳あってフルネームは言えないけど、よろしくお願いします」


そう言い彼女はぺこりと頭を下げた。この既視感は何だろうか。


「あの、どこかで会った事ありますか?」


「気...のせいじゃないですか?」


数秒間考え込んだ後、由比さんは答えた。


「そうですよね。失礼しました」


一通りの会話を終えると由比さんは奥の収録室と書かれた所へ入っていく。


「ごめんなさい。試験官が遅刻したので、もう少し待っててください」


「わかりました」




気のせいと言われたが、かなり昔に彼女と似たような人物を見た記憶があった。

いつのどこかと聞かれると答えられない。でも、間違いではなさそう。



「それでは準備が出来ました。こっちに来てください」


友香さんに呼ばれ、応接室へ。手に書類を持っている事から、ペーパーテストの可能性も考えた。

どうしよう。ライバーになるのに筆記試験やらないといけないなんて聞いてない。


「では今後について説明していきます。まず明日からですけど」


「えっ。今後について?明日から?」


俺の戸惑いをよそに、友香さんは書類を机の上に並べていく。


「明日から1か月、スカイスタジオ株式会社所属のライバーとしての心得と基本的な規則、配信の練習をしていってもらいます」


「って事は...採用ですか?」


「はい、採用です。それで、必要な書類は」


それから30分ほど説明を受け、次にフライトシミュレーターでの試験。

これは特に問題も無く、指定されたコースとそこに設置されたリングを潜り抜けるという定番のモノ。


「はい、これで試験は終わりです。明日からの講習は遅刻しないように」


「これからよろしくお願いします」




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電脳の空へ 朝霧美雲 @Mikumo_Asagiri

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