おまけ。

 まあ、聖女の生贄でもあるのだが。


 これは死ぬまで続くミッションだな。俺にそんな器用な真似出来んのか…そこはかとなく不安な気分なんだが。


 左右から押し寄せる津波と山火事がムニュムニュと顔に迫れば迫るほど、未來がますます心配になってくる。


 切り開く未來なんて、俺にはもうないのにな。



「…ねぇ、潤くん」



 そう思っていたら、綾香が少し幼い口調で話しかけてきた。


 俺の太ももを、ベトベトなのをお構いなしに触っていて、だんだとそのストロークの幅が広くなり、男の中心に向かってくる。


 緊張が走る。


 どうもいつものおかわりと違う。


 一児、と言っていいかわからないが、ママになったが故か、最近は貞淑な妻、といった具合で落ちついていた。


 そのせいだろうか。



「…なんだい? 綾香さん」


「最近ね、たまたま、たまたまなんだけど…こっちじゃなくてね」



 ぃぎッ?! 違ったッ!?



「お下品過ぎっしょ❤︎」



 虹歌も半分こで合わせてくるが、ひんやりと冷たい綾香の手と、じんわりと熱い虹歌の手で、色分けされてるみたいに握られていた。命。


 そんなヒーローなアカデミー生いたな、なんて現実逃避をしてしまう。



「本当にたまたまなんだけどね、スマホ、見ちゃって…」



 力がまた少し右側にこもったのがわかる。



「ッ……!」


「あー言ってたそれ? もーいいじゃんそんなの。せっかくの余韻台無しだし」



 左側の虹歌は、労わるような手つきだ。出産してからは、大人の色気というか、ますます艶がノッていた。



「虹歌は黙ってて」



 急所のせいか、冷や汗が止まらない。



「それがどうかしたのかい?」


「気になるアプリを見つけたんだけどね、なんて言ったかな、んー、お喋りな飲み物……ミタイナ? ワカルカナ? フフ、ソウソウ、アマァイ、ココアトーくンムッ!? ンッ…ン、んンッ♡ ッモ、もぉ♡ 潤くんキスで誤魔化さないあ゛ッ!? ゃッ♡ 赤ちゃんの分、やッ♡ちょっと虹歌まで!? あ、潤くん、らめ♡ そこらめらって♡ ぃやああ゛ぁぁ──ッ♡」



 まあ、肉体言語くらいしか思いつかないのだが。


 散々飲んだが旨いなこれ…癖になりそうだ。


 しかし、聖女ってのは、もしかしたらコレが一番有効なのかも知れないなと、はぁはぁと額に汗を濡らした綾香の、その潤んだ妖艶な眼差しを組み敷きながらそう思った。


 後悔とも違う、何というか複雑な気分だ。


 例え俺への気持ちであったとしても、チョロインってやつか、紙装甲ってやつなのか、それとも誘い受けなのかはわからないがそこはかとなく不安になる。


 まあ、そんな簡単に肉欲に堕ちる聖女ヒロインなんていないだろうが、いるとすればおそらく魔女が絡んでいるのだと確信していた。


 こんな歪つな愛は、執着魔女マニアの時代の訪れなのだろうし。


 いや、自己愛も強いのだったか。


 駆逐しなくてはな。


 しかし、愛ってのは、無償なもんだと思ってたんだが、徐々に塗り替えられていくかのようだ。


 それは未那未の勝利を意味しているようでイライラとしてくる。


 これはおそらく何も知らなかった頃の潤一の一欠片の感情だろうが、もう無駄なのだろう。


 やはり俺はいつも手遅れだ。


 そこに虹歌が背中を晒しながら俺を助けるようにして、俺と綾香の間に潜り込んできた。二人のデカすぎる胸が押しつぶされ、虹歌の背中越しにはみ出していて、期待しかない瞳をしていた。


 超複雑な気分だ。


 既に上は着ていないが、虹歌の提案で、二人とも落陽高校の制服なのも複雑だった。


 母乳の匂いが、むせ返るように漂っている。きっと二人の間には、ミルキーウェイが走ってる。


 だがしかしだ。


 今更だが、俺、こんなクズキャラじゃないし、種馬じゃねーんだよ!!


 バキバキにおっ勃つけどよぉ!!


 くそっ! 首から下がまだ命令出来ないッ!!


 もうちょっとこう、抱きしめ合うだけとかもなんか良いだろッ!! なんで馬車馬が如くなんだよッッ!!


 確かに火をつけたのは俺だけど!!



「潤くぅん…無責任に、して❤︎」


「ジュンくん、責任とって❤︎」



 俺がそんなことを躍起になって考えていたらジムで鍛えに鍛えていた臀筋、ハムストリング、脊柱起立筋を意識させられた。


 それは奇しくもあの青白い手が触れた箇所だった。


 はいはい、わかったよ。


 残酷なほどに優しく激しく、だろ?


 だが、命令すんなボケ。


 誰か知らないけどよぉ。


 悲鳴を上げていた体力と意識が覚醒するが、せめてもの抵抗をするかのようにして優しく丁寧に繋がろうとし、俺は二人を撫でた。


「焦らさないで」と言われても知りはしない。


「だめッ」と言われても反語なのはわかってる。


 俺は、現世うつしよでは決して届かない愛を求めて、ひたすらに撫でるだけだ。


 それにどうせまた俺を通して見てんだろ。



「ニア、マニー、二人とも愛してるッ」


「「えッ?! あ゛あ゛ッ?! ぅ゛ンン゛ッッッ❤︎」」



 そう言って、無責任と責任の間に、杖を振るわせ、俺からの執着あいを明確に放った。


 

「「「ぃぐぅぅううあぁッッ──!!」」」



 この三人だけのこの白い世界は、あの首飾りのようには、決して千切れやしない。





「ふふ、潤くん、一杯飲んでおしゃべりしようね❤︎」


「ジュンくん赤ちゃんみたい…これジワジワくる…❤︎」


「ン、んぐ、んぷはぁ、ふ、二人とも、熱いし溺れるよ」



 ああ、クリアーに狂うと世界が違うな。


 だがな?


 二人の母乳は当然愛しいがな?


 溺れそうなくらい茹だるけどな?


 正式に眷属──虜囚になったとは言えだな?


 それとこれとは話が別も別で別世界だろ?


 なあ、魔女ミナミさんよぉ?


 また覗いてんだろ?


 映像だけってことはないよな?


 寝取られに寝取らせと親子丼に父娘丼だったか?


 この上さらに百合と不倫を狙ってんのが想像出来てキツいが、いったい何個足す気なんだ?


 これ以上はマジで知らないからな…?


 フリじゃないからな?


 おい聞いてんのかこのクソ魔女様よぉぉッッ!!


 ほんとお前いつか死なすからなぁぁッ!!


 俺はマニアックなデパートじゃねーんだよぉぉぉおおおッッ───!!!



「「おいしい?」」


「おいひい❤︎」



(…了)

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この綺麗な首飾りを君にあげる 墨色 @Barmoral

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