世界の歪み

第45話 協議の場

国際連合の本部を置くスイス連邦の都市『ジュネーヴ』。ここでは今世界の安全保障問題について議論する『安保理』が理事国7カ国により決議されていた。


「世界の情報を耳に入れやすい立場の国連がこのような武装組織の情報を全く把握していないというのはいささか問題ではありませんか?」


「………。」


「御言葉ですが『ケビン』米(アメリカ連合国)代表。この『リリヴェレイト』という組織の実態は世界一を自負されている貴国の情報網にも引っ掛からなかったと噂を耳にしておりますが?国連を責める立場には無いのでは?」


「なんだ『メリオラ』キューバ代表。なにが言いたい。」


「あら直接言葉にしないと発言の真意を理解していただけないですの?」


「馬鹿はよしてくれ、そんなことして我々になんの利があるというのだ?」


「わかってくださっているではありませんか?私が問いたいのは本当に貴国が『リリヴェレイト』について何も情報を得ていなかったのかということです。」


「知っていたとすれば、世界への奉仕に従事する我が国が積極的に情報公開することくらい貴女にもご理解頂けると思うのですが?メリオラキューバ代表」


「でしたらよいのですが」


「それにしても、日本に対して宣戦布告してから動き出したこの組織の活動ときたら………なんなんだね。これが全く音沙汰の無かった組織に出来る行動なのか?」


「ほぼ全ての国連加盟国にて『リリヴェレイト』による『パラテネ』内でのテロ行為を確認。一部加盟国では鎮圧に失敗し『パラテネ』の一部分を占領された・・・・・と報告が上がっていますものね」


「うん?随分他人事のように話すが『エリル』エジプト代表。貴国もその占領された1国なのではないのかね?」


「お言葉ですが『シュタイナー』『ゲルマン連邦』代表。我が国は確かに一度鎮圧に失敗しましたが、占領など許しておりませんし。貴国と違い『リリヴェレイト』掃討は完了しています」


「・・・・・ふん」


「そう粋がらない方がよいですぞ、エリルエジプト代表」


「なにか?『カークス』『オセアニア連合』代表」


「テロリストは常に潜在的に潜んでいるもの、足元を見られればまた同じ轍を踏みましょう」


「・・・・・・ご忠告感謝致します。カークスオセアニア連合代表」


「それだけならまだしも『リリヴェレイト』の活動は『パラテネ』内に限らず世界にも出始めているではないか」


「公には姿を見せていないものの、法で裁かれた者がその後一切姿を見せないことへの違和感を煽り、冤罪の可能性がある加害者の関係者を利用しての抗議活動。現在の司法の在り方を疑問視又は否定した書物や情報の拡散。『パラテネ』内程強硬ではないものの、徐々に世の中に浸透している傾向にありますね。」


「ところで」


「いかがされた?『ハーディン』『ヒィンドゥー共和国』代表?」


「当期理事国でない国が静観しているようですが、なぜなのでしょうか?『アルフレッド·アンダーソン』国連事務総長」


国連事務総長とその1国の代表に冷たい視線が向けられる。


「各国の代表の皆さん。事前の告知が無かったこと申し訳ない。ここに日本国より代表として来られた『吉田尊(よしだたける)』氏は加盟国で唯一『リリヴェレイト』の幹部と思われる人物と接触することに成功した国として当時の状況を各国の方々と共有して頂きたく、私の判断で招致した」


「ほぉ・・・・・それはそれは報告書には指摘したいこともあったので、丁度いいですな」


「シュタイナーゲルマン連邦代表。この際だ是非聞いてくれたまえ」


「国連事務総長のお墨付きも得ましたし、では・・・・・テロリストと国連への通達の無いまま『クリエイト』を実施したことについて詳細な説明を要求する!」


「・・・・・・」


「どうした吉田代表?何故答えない?」


「・・・・・・事務総長。重要参考人の本会議への出頭許可を申請したい」


「重要参考人だと?」


「はい。この件に大きく関わった人物に実際に証言していただこうと思います。私よりそのような人物の方が適任だというのは皆さん思われていることだと思いますが?」


(成程。何故国連の一事務官が国の代表としているのかと思っていたが、その重要参考人とやらの到着の時間稼ぎか・・・・・アルフレッドめ)


「許可しよう。」


「ありがとうございます。では当人を出頭させますのでお時間をくださいませ」



1人の日本人女性が会議場に現れると共に敬礼する。


「失礼致します。日本国パラテネ統括幕僚長『宇佐美レナ』日本国国防軍一佐であります」


「これはこれは、まさかテロリストと交渉した本人が来るとは」


「ここからの各国の方々からのご質問は小官が答えさせていただきます。」


「宇佐美一佐。では改めて、何故貴女はテロリストと国連への通達の無いまま『クリエイト』を実施したのかね?」


「はっ!まずこの件の『クリエイト』はテロリスト側の要求であることをお伝えします。そして受け入れられない場合我が国の『パラテネ』施設を無差別爆破すると通達してきました。実際に検討中に爆破被害も発生しておりました。被害状況は報告書の通りです。そのような至急要求への回答が求められる状況であった為。『クリエイト』の要求を受け入れました。」


「正式な手順を踏まずにかね?」


「正式な手順とは?」


「なに?」


「お言葉ですが。確かに本来の『クリエイト』であれば小官の行いは違法行為であり処罰の対象となりましょう。ですが今回は前例の無いテロリストからの要求でありました。これは我が『パラテネ』内のいわば内政問題であり、国家間の手続き及び国連の判断を仰いでいる間にも必要の無い犠牲が発生していた可能性が高いと思われます。いえむしろ内政問題ゆえ我が国の『パラテネ』の最高責任者である小官が最上位権限者であったと認識しております。」


「日本国政府やそのトップ・・・・・貴国でいう内閣総理大臣を差し置いてですか?」


「そもそも『パラテネ』は本来【存在しない組織】ですので、日本国内でのことならまだしも政府からの介入は困難なモノと認識しております。」


「・・・・・・。」


「なにぶん小官も初めてのことでしたので対応に不備があったことは認めます。個人的な要望としましては理事国の皆様には対テロ対策用の『クリエイト』を法整備して頂き、『パラテネ』内でのテロ対策がより円滑に行えるよう手筈を整えて頂きたくお願い申し上げます。」


「それはつまり・・・・・テロリストと交渉し一部でも要求を呑むことも厭わないと」


「それで、被害を抑えられるなら小官はそのような選択も有りだと考えております。その場合最終的に『クリエイト』に勝てばよろしいのですから」


「・・・・・・。」


「小官の一個人の意見ですので『パラテネ』内でのテロ対策についての法整備は理事国の皆様にお任せいたします。」


「・・・・・主題を変えてもよろしいか?」


「カークスオセアニア連合代表。なにか?」


「宇佐美一佐。報告書の中におよそ報告書の内容としては相応しくない一個人の感情が記録されていたのでそこについてお尋ねしたい」


「はっ!」


「『リリヴェレイト』を匿っている又は彼等に協力している国の可能性という点についての貴官の記録の経緯を尋ねたい。」


「はっ!・・・・・報告書に記載しました幹部と思われる男『邪馬兎武瑠(やまとたける)』。彼は小官との交渉を我が国の『パラテネ』外から行っていました。ご存知だとは思いますが、『カウサ』が司令部の許可無しに『カルケル』の外に出ると時計から心臓に電気ショックが流れ、時計が爆発します。しかし交渉の条件であった当人の容姿の公開にあわせ彼の所在地と思われる場所に突入部隊を派遣したものの当人はおらず、なんの危機感もなくその後も小官と会話をしています。これはリアルタイムで配信されていた小官と当人の記録がありますのでご希望があれば提出します。その後捜索を続けましたが、当人は見つからず代わりに確保したテロリスト側の潜入員から裏が取れていますので間違いない事実だと認識しております。」


「・・・・・。」


「更にテロリスト側が『クリエイト』に使用した『イシュタル』は他国製であり、その『イシュタル』とは別の国の『イシュタル』との『クリエイト』にて他で見たことのない共通の装備を発見しました。」


「その他国と国を伏せるのには理由があるのかな」


「まだ裏が取れていないので断定するのは危険と判断し敢えて伏せさせていただきました。」


「・・・・・。」


「以上の点で小官は、『リリヴェレイト』と繋がりを持つ国があり、その国に匿われていたという推察を記述したのであります」


「その可能性も視野に対策を講じるべきと」


「小官はそのように考えます。」


「成程。私からは以上です」


「・・・・・・他に宇佐美日本国国防軍一佐に質問のある方はいらっしゃるか」


「・・・・・・。」


「では当面の課題は反パラテネ武装組織『リリヴェレイト』への対処で国連加盟国全てが一致団結するということでよろしいですかな?」


事務総長が各々に視線を向け頷く一同。


「ではこれにて本日の安全保障理事会は閉幕とする」


一国を尋問するような安保理はこうして幕を閉じた。

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