第44話 疑念
「報告書です。」
「………はい。確かに受領しました。改めて『クリエイト』からのテロ事件の交渉役お疲れ様でした」
翌日。前日の出来事を報告書に纏める為に新はレナの執務室にいた。
「どうしましたか?部屋を見渡して」
「なんか落ち着くんですよね、この部屋。怒られてる時にしか入ったこと無いはずなのに」
「…………。」
「あっすみません。」
「いえ、思ったより軽症みたいですね?」
「まぁ身体的なダメージは清水に腕を掴まれた時くらいですし精神的に堪えるようなこともそんなに無かったんで」
(そんなに……ね。)
「宇佐美幕僚長?」
「なにか?」
「昨日お聞きしたいと言った件について訊ねて大丈夫ですか?」
「どうぞ?」
執務の机から応接の机に移動し腰掛けるレナ。
「どうしました?」
「あっ、いえ………」
「気楽に聞いてください。雑談のつもりで」
「では、遠慮なく。テロの原因はわかったんですか?」
「………恥ずかしながら、あの『クリエイト』の件が意図的に今回テロを起こした人々にリークされていたことが原因でした。原因の人間は突き止め逮捕。現在尋問中です。」
「ということは」
「考えたくは無かったですが、既に司令部内いえもっと広範囲に国防省の人間に彼等………『リリヴェレイト』と繋がっている人達がいることは間違いなさそうです」
「そうなんですね」
「情けない限りです。そのような人が紛れ込んでいることに気がつけなかった事が」
「レナさん。ここの人達のこと家族のことのように想ってますもんね」
「あらお優しいのね」
「あっすみません。名前呼びなんて」
「気楽に聞いてくださいと言ったのはこちらです。気にしないでください」
「そうでしたね。………あのパイプって何か手掛かりは掴めたんですか?………あっありがとう御座います。」
レナが用意した紅茶を口にする新。
「あの装備は手掛かりどころか、どのような装備かも判明しました」
「!?」
「あれはあのパイプから薬物を投与するモノだとわかりました」
「なんですって?」
「北エリアのテロと今回の『クリエイト』から導き出されたのは[Drug take in]仮称『ドッチ』。人体や肉体、精神、ありとあらゆる能力の向上を可能とする薬物を『ドッチ』使用者が半永久的にその力を手に入れ得られる。それを可能としたのが、パイロットシートから伸びていたパイプの正体です。機体にあらかじめ搭載した薬物をなんらかのシステムを開放することでパイプを通してパイロットの身体に投与。パイロットは薬物の恩恵を受け続ける。そういったモノのようです。」
「それってかなりリスクが高いんじゃ?」
「リスクというより、現時点では一種の特攻兵器です。一度使えばパイロットは薬物の過剰摂取の副作用で正常な判断が出来なくなると思われます。そうなると止める方法は機体が機能停止するしかありません。流川との『クリエイト』で一時的に彼の機体の動きが止まったことを覚えてますか?」
「はい。気味が悪かったです。」
「死亡解剖の結果、彼はあの時点で薬物の過剰投与で亡くなっていました。」
「そうでしたか」
「?思ったより驚かないのですね。」
「・・・・あの時なんか嫌な予感はしていましたし、再起動後の戦闘の違和感は感じていたので、今の話を聞いて腑に落ちたからですかね」
「なるほど。予測はしていたと」
「あくまで可能性の一つとして考慮はしていました。それを中東の『イシュタル』と『高麗公国』の『イシュタル』が搭載していた。幕僚長はどうお考えですか?」
「・・・・確証はありません。ですがこの装備を開発したのはそれらを他国に売り渡すことの出来る国。そしてその国は間接的に我が国に攻撃をしてきている。とは考えています」
「確証はないんですか?」
「今のこの国は貴方が思っているような親密な国というのは存在しません。各国とも綱渡りで国交を維持しているのが現実です。ですので該当する国は多岐に渡ります。」
「何故です?」
「いくらかは思い当たりますが、1番の要因は世界秩序を変えてしまった事。でしょう。『ニュートロン・アクセラレータ』の導入及び独占はそれだけ世界に大きな影響を与えました。これによってその以前の世界秩序で利益を得ていた国で我が国に不満を抱く国々は少なからず存在します」
「世界に戦争の無い世界を提示して不満を持たれるなんて」
「戦争を商売にしている人達はどこかに居るものです。それに一島国として大国の恩恵を受けながら発展してきた国が突然世界のリーダー的役割を担う位置まで登り詰めたことに対する嫉妬もあるのでしょう」
「なんだそれ世界をより良くしようと動いたこの国が他国の利害で攻撃されるなんて・・・・・冗談じゃない」
「・・・・・聞きたいこと他にありますか?」
一瞬沸いた怒りを鎮め再びレナに問う新。
「清水圭太って何者ですか?」
「彼は西エリアの『カウサ』です。」
「なんであの場にいたんですか?他のエリアの人間が」
「彼がいたのですか?現場に?」
「はい。奴がテロリストを一掃しました。俺を利用して」
「・・・・・それは調べる必要がありますね」
「ご存じ無かったのですか?」
「その時間帯に彼が西エリアにいたことは記録として残っています。」
「そうなんですか」
「それはこちらでも再度調べましょう」
(幕僚長が1人の『カウサ』の動きを把握していなかった。そんなことありえるのか?)
「渡くん。彼の詮索はオススメしないわ」
「何故です?」
「…………。彼を知れば知る程。貴方は貴方でいられなくなるからよ」
「…………わかりました。下手に探るのは止めときます。」
「いずれ知る機会が来るかもしれない。その時の流れに任せる事をオススメするわ」
「わかりました。お気遣いありがとうございます。」
「他に聞きたいことは?」
「大丈夫です。ありがとうございます。」
「そうですか。ではこれからもよろしくお願いします。渡くん」
「失礼します」
謎を追求する為に時間を割いたレナとの面談。それは返って新の疑念を増やす結果となった。
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