黒沼 楽

夢1話

イチョウの道を歩いていた。

黄色い道だ。

左端に寄って歩く僕の他には、俯きがちに歩く人がちらほら。

僕の右隣を歩く女の子は、しっかり前を向いている。

僕も前を向いた。

会話をせずとも心地よい気分であった。

彼女に歩幅を合わせて歩く。

イチョウの道は突然終わった。

前には階段があり、見上げると鳥居が構えていた。

彼女は階段を登り始めた。

それにつられて僕も登る。

少し先を彼女が歩いている。

足が重い。

彼女はどんどん先を行く。

そんな彼女を追いかけて、走ってみせても登れない。

彼女は先に鳥居の前にたどり着いていた。

いったい何段登ったことか。

手を伸ばしても届く気配がない。

こちらを見向きもせず、彼女はただ鳥居の先を見続ける。

何があるというのか…


やっと追いついた。

疲れた感じはない。

彼女が見ていたものが気になって顔を上げた。

それは立派な神社だった。

視界が霞んでよく見えない。

紋章のようなものが四つ並んでいて、彼女以外の人達は、神社へどんどん吸い込まれていく。

訳の分からないまま、それを見なくてはいけないと思って、なにか使命感を感じてそれを観続けた。

やがて彼女はこちらを振り向いた。

顔が、よくわからない。

「あなたはまだ」

それだけ言って、彼女は鳥居をくぐる。

ー待って…そう口にした気がした。

何度も呼びかけた、声にならない悲鳴を上げ続けた。

全力で走った。進まない。

一度だけ彼女はこちらを振り向いた。

微笑みを浮かべたその顔を見て、僕は立ち止まった。

涙が目尻から溢れて、何故か耳へ落ちた。

その瞬間に、足元が抜けた。















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黒沼 楽 @momii1102

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